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剣聖の墓参り

 次の休みに、セイラの希望でお墓を見に行った。


 スレイ皇国とエーデル領を隔てる緩衝地帯のエーデル側の、少し丘になっているところにあった。ここからなら国境の向こう側のスレイ皇国を見渡せる。

「剣聖としての私の墓標ということになるのでしょうね」

 自分の名が刻まれた墓標を撫でながらセイラが言った。

「お願いがあります、ステラさん。私が死んだなら、あなたの剣としての私もここに葬っていただけないでしょうか」

「了解です」


 死んだ瞬間に十二歳に戻ることばかりだったから気にしてこなかったけれど、私のお墓ってあるのだろうか。ユナちゃんが生きてる場合だと、作ってくれている気もする。死んだときに収まる場所がある、あるいは悼んでくれる人がいると信じられることは生きていくうえで存外大切なことなのかもしれない。


「貴族って死んだらどこに埋葬されるんですか?」

「基本的には自分の領地ですわね」

「エルミナだったらファスタ領?」

「現時点では、そういうことになりますわね」

「平民は?」

「特に決まりはないのではなくて? わたくしの領ですと埋葬用の土地がありますけれど、領主の考え方によるでしょう。一般的には勝手に燃やすか埋めるかするだけではないかしら」

「確かに、スラムで死んだら基本放置ですもんね」

「一応王都門の外に埋葬エリアはありますけれど、通行税を払えることが前提になりますから」

「じゃあ私が死んだらファスタ領に埋めてもらえませんか?」

「……聖女を勝手に埋めていいものか分かりませんけど、善処しますわ」

「エルミナさま、私も姉さんの隣がいいです」

「でしたら三つ並びですわね」

「聖女のお墓って観光資源になりますかね?」

「……なる可能性はあるでしょうね」

「じゃあ表向きの私のお墓と、人の来ない本物の私のお墓が二つあると嬉しいです」

「随分と注文の多い死人ですこと」

「ねえ、エルミナさま。先代の聖女のお墓って聞いたことある?」

「気にしたこともありませんでしたが、ないですわね」

「数十年前にはいたんですよね?」

「ええ、そういう話ですわ」

「思うんですけど、エルミナさまの知識でその伝聞レベルということは、聖女の情報って秘匿されているのかな?」

「確かにどのような活動を行っていたかという単純な話まで聞いたことがありませんわね」

「それってつまり誰かにとっての不都合が含まれている、ということですよね」

 気が向いたら、先代聖女の墓を探してみよう。


 セイラの墓参りが済んだ後、敷地内に立ち入ることを許してくれたエーデル家にご挨拶をした。普通の人が入れないところに快く通してもらえたのは、エーデル伯爵令嬢が私のお友だちだからである。つまりは、私が学園でシチュー姫と呼ばれることになった原因(呼ばれてないから!)であるところのユーリカ様だ。


「ご招待に感謝いたしますわ」とグルナート公爵令嬢が挨拶をする。

「お招きできて光栄です、エルミナ様」

 意外なことに、エルミナとユーリカ様は言葉を交わすのが初めてだったらしい。


 確かに、去年私が舞踏会でパートナーになる前のユーリカ様はソフィ会長と組んでいたらしいから、どっちかというとウォルツ家側の人という認識だったのだろう。それにエーデル家は(私のシチュー事件のときに言われていたことが本当だとするなら)、諜報やコネクションを使って成り上がった家のはずだ。以前のエルミナが近づかなかったとしてもそこまで不思議ではない。


「そういえばユーリカ様のおうちって去年の今頃は男爵家じゃなかったですか?」

「そう! それでシチューを通じてステラ様とお会いできたのですよね!」

 とユーリカ様が手の指を合わせて嬉しそうに口にする。

「学園時代に他の貴族の動向を探っていたというのも大きいのですが、ステラ様とダンスできたのも非常に役に立ちましたの! 感謝いたします」

 ダンス一つで爵位が上がったら苦労しないだろうけど、「お役に立てたのなら良かったです」と答えておいた。「今は何をしているんですか?」

「領地経営について、父から学んでいます。エーデル領は魔法都市(キエルヒ)を内包していますから、領地としての考え方が少々特殊でして、そういったことを肌で感じながら勉強しています」

「ユーリ――ユリウス皇子とも繋がりが?」

「はい。エーデル領は国境も兼ねていますから、スレイとも多少の繋がりがあります。ですが皇子が父ではなく私に大事な方のお墓を依頼されたのは、私がステラ様とパートナーだったことを聞いて、というお話でございました」


 私はヨハン殿下に冗談プロポーズされたせいで全然楽しめなかったけど、あの舞踏会ってそんなに色々な影響があったのか。今年一緒に出たライカの家にも、なにか恩恵が発生しているといいな、と思ったりもする。


「ここで領地経営をするということは、国境の警備とかもですよね?」

「ええ、もちろん」

「今度時間があるときでいいので、見せてもらってもいいですか? ここら辺ってスレイの人もたくさんいるから、どんな風に運用されているのかすごく興味があって」

 察しがいいことでお馴染みのエルミナ選手がこちらに視線だけを動かした。そう、私たちは将来、国外逃亡を企てる可能性もそれなりにあるのだ。

「もしお時間よろしければ今からご案内しましょうか?」

「いいんですか?」

「もちろんです。でも晩餐はこちらでご用意させてくださいませね」

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