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四つのカップの並び方

 地下を出た後は色々な研究室を案内してもらった。


 興味深かったのは魔道具の研究室だ。

 私たちはロス先生のご褒美でなにか魔道具を作っていいことになっているから、かなり真剣に見た。

 私の中で魔道具といえば契約魔石や、エルミナが指にはめている雷魔法を歪曲させるものだったけど、いわゆる「王家の加護」と呼ばれる対魔法防御なんかも実は王家の血筋とは関係なく、単にそういう魔道具が受け継がれているということらしい。


 ステラメモ:白銀等級の契約魔石の作り方

 極めて正しい素材からできる魔石を、極めて正しくカットして(つまり魔石内で正しく反射が起きるようにして)、その上で極めて正しい一流の魔術師が、極めて正しい手順で何千もの魔法の層を重ね掛けして、何十年もの歳月をかけて加工する。それらの手順にどのような意味があるのかは不明であるものの、手順に従うとなぜか契約魔石ができる。


 奥が深いし作るのにかかる時間がすごい。とても「嘘かどうかを確かめるためだけに、いつも粉々に砕かせていただいています!」と元気に言い出せる軽さではなかった。


 奥が深いといえば、予言について調べている研究室もあった。こちらも「なぜかたまに有用なことがあるけどよく分かっていないから調べてる」という状態が何十年も続いているらしく、部屋がすごく汚かった。

 私たちも予言について調べていた時期があったけど、リムができた時点で早々に止めたのはかなり適した判断だったように思える。ロジストによると、リムが王都で出回り始めたころに、この研究室は「なぜ何十年も手元にそれがありながら発見できなかったのか」と学院中から白い眼で見られたらしい。それに対する予言研究室の回答は、「それは我々の仕事ではない」だったそうだ。

 でも私たちだってユナちゃんがいなければたぶん発見できなかったから、そこを責められるのは少し可哀想かなという気もする。うちの妹がすごいだけだからね。


「スオウのところはどうだった?」

 と一日の終わりにユナちゃんに尋ねる。

「すごく良くしてもらった」

「はい、私もです」とセイラが付け加えた。

「リムって球状に変形しなくても使えるって姉さんたち知ってた?」

「ね! 昇降機のところに使われてたよね」

「スオウさんたちとは魔法伝導の話をしてたんだけど、ライカさんの雷魔法がほとんど目に見えないくらい速いのは、他の魔法と比べて物質中を伝わる速度が速いという性質があるからなんじゃないかと思った。つまりリムを昇降機の信号代わりにするにしても、入れる魔法の種類で伝わる速さが違うんじゃないかな」

「それは、おそらくそうでしょうね」

 と対雷魔法に詳しいエルミナが頷いた。

「だから例えばここから王都まで細長い、断面積が限りなくゼロに近いリムを紐みたいに伸ばしておくでしょう? 実際的に可能かどうかは置いておくとして。そのリムに雷魔法を流すと、すぐに王都まで充填されるじゃないかと思って」

 言っていることが難しいけど、ユナちゃんの言うことなので私もエルミナも真剣に想像してみる。

「つまり希少な雷魔法が、使い手がいなくとも使えるということですの?」

 ユナちゃんが私たちのティーカップをテーブルの真ん中に集める。

「いいですか? この四つのカップをそれぞれ独立した等しい長さのリムの管だと思ってくださいね。このリム管の反対側から、ライカさんがそれぞれ間隔を空けながら順に雷魔法で充填していきます。カップが満たされる順番は何通りありますか?」

「24」と私とエルミナが答える。

 場合の数と確率は三度目の過去生でユナちゃんから学んだ。その後に統計学も教えてもらったのだけど、そちらはあまり使うことがないから残念ながらほとんど覚えていない。

「つまり二値の変化だけでなく、予め決めておいた二十四通りのメッセージの中から、ライカさんは充填する順番次第で王都に伝えたいことを送れるんです。少なくとも馬よりは速い速度で」

 エルミナが闇魔法でこの会話が盗み聞きされていないかどうか確認したのが分かった。

「狼煙の上位版ってこと?」

「……リム管をあと二本に増やすと720通りですわね?」

「七本まで増やせるなら約5040通りですから、おそらく情報量としては足りると思います。でもただの理論ですから、①リム管をどれくらいの長さで作れるのか、②魔力的に馬車で何日もかかる距離のリム管を満たせるのか、③実際にどれくらいの速度でリムを満たすのか、あたりを調べていく必要があるかなと思います」

「……それって二進法もやれる?」

「姉さん、えらい!!」

 かつてないくらいユナ先生に褒められた。

「この話は研究室でしましたの?」

「もちろんしていませんよ。スオウさんたちとしたのは、伝導速度の差のところまでです」

「ユナ、あなたが魔法技術をやりたくなったら、わたくしのところでやりなさい。あなたが欲しいすべての環境を用意して差し上げます。約束ですわよ」

「光栄です」

 優秀な研究者が、国ではなく一貴族に引き抜かれていくところを見た!

「ライカがいれば良かったね。実験したかったな」

「それで、あのね、姉さん。たぶん雷魔法よりも速度が早いかもってのがあって」

「うん?」

「その、『光』っていうんだけど」

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