魔法大会編⑥
結果的にいうと、私の〝ステラ〟は火球を半分も打ち消せず、私は全身を焼かれ、私は勝利した。
火球の中を身を焼かれながら直進し、斬撃と打撃の中間みたいな魔法杖を振り下ろした。
ステラはどちらかというと、観客から再生能力を隠すための目くらまし的な役割の方が大きい。
「私は死んでなくて、私は勝ちましたけど?」
控室に戻ったところで、カトレアに声をかける。
「そうですね。私の完敗です」
ここで「観客に配慮して全力でなかった」みたいな言い訳をしてきたら(私はしそう)、絶対馬鹿にしようと決めていたのだけど、立派な態度だったからちょっと好感を抱いた。
でも実際、カトレアはかなり全力から遠かったと思う。これが実戦だったら本物の剣だろうし、火球ももっと耐えようがないくらい高温だっただろう。五回は私を殺せたはずだ。そのときは私だって闇魔法を使ったけどね(こういう態度がよくないのだ)。
だけど国のトップレベルの魔術師を実感できたのはかなり良かった。この機会を与えてくれたロス先生に感謝だ。なんてことを考えていたら、
「お二人ともとてもよかったですよ」と本人が出てきた。
「ろ、ロス先生っ! お、お久しぶりです」とカトレアが姿勢を整えて言った。
「強くなりましたね」
「すみません、私、負けてしまいました」
「得るものはありましたか?」
「はい。大いに」
「それはよかったです」
「……あの。ロス先生はカトレアさんを負けさせるために私たちを出場させましたか?」と尋ねる。
「まさか。仮にあなたが負けていれば、私はあなたに同じ話をしていましたよ、ステラさん」
ロス先生ってこういうこと言うんだよな。
「ふふ、先生はちっとも変わりませんね」
「物事は絶え間なく変化していますよ。これをあなたに」
「これは……?」
「リムをご存じですね。私が少しアレンジしたものです。師団長にお渡しください」
「分かりました。……もしかしてこれを私に渡すために解説役に?」
「四属性も光も闇も雷も、解説できる人間は私か師団長しかいませんからね。必然私が呼ばれます」
この人、魔法以外のこともできたの!?
「ステラさんが困っていたらよければ助けてあげてください。私はステラさんを信用しています」
あ、なんかすごく嬉しいことを言われている。
「ステラさんも、カトレアさんを夜道で見かけても襲ったりしないように。話の分かる方ですし、いい魔法を使います」
「私の評価が雑じゃないですか?」
「違いましたか?」
「いや概ね合ってますけど……」
「先生なんだかご機嫌ですね」
「ええ、学園の雑務が減ることが確定しましたから」と言いながら、ロス先生は次の試合に呼ばれて戻っていった。その話も一応本当だったんだ。
カトレアに挨拶をしてから、私もエルミナ対メイ戦を観に、観客席に行く。二日目出場者用のちょっといい席だ。ユナちゃんとセイラがホトドグを半分こにして食べていた。
満喫してるね~。
エルミナ対メイ戦は、それこそ瞬きの間に終わった。
メイの四方向からの四属性魔法同時展開に闇魔法が間に合わずに、初撃からの流れでエルミナがダウンし、メイが勝った。
客席の空気としては、四属性魔法がすごすぎる、というメイ賞賛の向きになっていたけれど、私は絶対に分かる。確かに私が闇魔法を使ったとしてもあれを防げるかは怪しいけれど、エルミナなら絶対に防げたはずだ。つまるところ、茶番だ!
でも確かに分かりはする。ライカの雷魔法と同じように、エルミナがここで闇魔法の様々な使用法を衆目に晒す義理はない。すでにチームアルス魔法学園の誰かが優勝することは確定しているし、もし決勝に行ったら私とエルミナの戦いになるから、そこで変な文脈が発生しても嫌だし。でも私はエルミナに大銀貨二枚賭けていたんだぞ、と抗議をしに行ったら、
「わたくしもあなたに賭けていてよ」と言われた。
「うーん、なら仕方がないか~……本当に?」
でもカトレア戦で満身創痍の私と違って、メイは元気満々なはずだ。誰かさんが瞬殺されたせいで。
「わたくしに考えがありましてよ。手を」
エルミナが私の両手に両手を重ねて何かを唱える。
乾いた大地に水が染みわたるように私の中に魔力が流れ込んできた。
「あなたにこの手を治していただいたときから思っていましたの。光魔法同士であれば、治術と同じ要領で魔力を行き来させることができるのではないかと。『魔力』が体内の魔素回路の消耗度である以上、理屈は同じはずですから」
「なんか、ふふ、くすぐったいような、ほかほかするような」
「それは完全に気のせいですわね。魔力――魔素を循環させる体内器官を人は感じられませんわ」
「えい」とエルミナからもらった魔力をエルミナに返してみる。
「ちょっと! わたくしの魔力を浪費しないでくださるぅ? 受け渡しに損失が発生しないはずがないでしょうに」
「でもなんだか変な気持ちになりません?」
「これは……なりますわね……」
「ね、ね!」
もう一度エルミナから返してもらう最中に、ちょっと逆流させてみると、エルミナが「ふへにゃぃ」とこれまでに聞いたことのない声を出した。これを指摘すると二度とやらせてもらえないから、逆に聞かなかったフリをしよう。
「メイはなにか言ってました?」
「ええ、元々言い出したのはメイなのよ。準決勝であなたが勝ったらメイに勝利を、カトレアが勝ったら私に勝利を、と。あなたとの対戦を楽しみにしていましたわ」
「エルミナが決勝をやる可能性もあったんですね」
「それはまあ、あなたが負けた相手となれば必然興味も湧くものでしょう?」
「そうかも」
「そうですわ」
ロス先生やカトレアの話をしながら、ユナちゃんとセイラと四人でお昼ご飯を食べたら、温泉に入ってぐっすり寝たあとくらい元気になった。
そして私の、銀貨百六十六枚のかかった決勝が始まる……!




