魔法大会編④
大会初日がやってきた!
予選はあんまり人が来ないと聞いていたけれど、完全に誤った情報だった。そもそも街に人が多いのだから、初日だろうがなんだろうが人は多い。
屋台がたくさん来ていて、私はホトドグを買った。実はホトドグもユナちゃんが普及させた品だから、王都から離れたところで見かけると嬉しくなる。これはユナちゃん伝来シリーズの中でもわりかし不思議な一品で、「ホットドッグ」の頃には全然流行らなかったのに、名前を「ホトドグ」にしたら急に流行るようになった過去生がある。ユナちゃんと二人で美味しいねえ美味しいねえと言いながら食べた。ユナちゃん版では、トマトと玉ねぎとニンニクを炒めたソースを上にかけるのだけど、ここのはソースの代わりに野菜の酢漬けがたくさん詰まっていた。自分たちが流通させた食べ物が、遠くでアレンジされて受容されているのってなんだか嬉しい。
出場選手待機場のようなところで、ルールの説明を受けた。端的には、
・木製の杖は持ち込んでいいけど、剣や鉄製の武器は禁止
・死亡、失神、降参の場合に敗北となる
・試合中の負傷が原因で対戦相手が半日以内に死亡した場合は、傷を負わせた方も失格になる
・魔石等は使用禁止。魔法には純粋な魔素の魔力変換のみを使用すること
とのことで、いたってありがちな魔法大会かなと思う。
「魔石等」と表現してしっかりとリムも潰しに来ているのがえらい。一つ穴があるとすれば、次に当たる対戦相手が前の試合で戦っていた相手を殺すことで、その人を失格に追い込める点だ、という話をエルミナにしたら、「あなたって地下の剣闘大会の方が力を発揮できるのでしょうね」と言われた。ルールを聞いたときに、エルミナだって絶対同じことを考えたはずだけど、私とエルミナの差はそれを口に出すか否かという点である。品性ってこういうところに出るんだよな。
私たちの他に六十人の参加者が来ていたが、さすが伝統と格式ある大会なだけあって、みんな中々に強そうに見えた。私たちが四枠も使っているから、参加自体は容易な大会なのかなという気がしていたけれど、実際は有力者からの推薦か、地区予選を勝ち抜かないと出られないものらしい。
その中でなぜアルス学園生に貴重な枠が四つも与えられているかというと、それはもちろん私たちの魔法の先生が、この大会を六連覇した異常者だからである。二大会前の優勝者推薦枠・三大会前の優勝者推薦枠・殿堂入り魔術師推薦枠・アルス学園推薦枠の四つだ。絶対にシステムを変えた方がいい。
しかし、推薦者が強いからといって出場者が強いとも限らない。むしろ逆に四枠も学生がいるのは、政治的に無理やりねじ込まれたようにも見える。そういうわけで説明会の会場で私たちに向けられていた視線には、だいぶ〝舐め〟が入っていた。だけど予想に反して誰も絡んでこなかったので、本当に強い人たちが集まっているのだろうと感じた。
その後、闘技場でかなりきちんとした開会セレモニーも行われた。
現王と従弟関係にある人が観覧に来ていて、高いところから手を振っていた。
現王世代の王族関係者を初めて見た。ヨハン王子とはお茶を飲む仲だけど、王や王妃とはそんなに簡単に会うことはできない。あと、こちらからも会おうとしていない。今会ってもどうせ取り込まれるか潰されるかするだけなので、現王世代には、あらゆるスキルをもっと上げてから挑もう、というのが私とエルミナの判断である。
一、二、三回戦は右ブロックと左ブロックの進行が同時に行われる。
つまり私は私の戦いがあるので、エルミナとメイの戦いをほとんど見られない。逆に同ブロックのライカの方は偶然チラっと見られたのだけど、なにかがバチッと光ったかと思ったら、対戦相手が倒れていた。「雷魔法」という知識がなかったら、雷魔法に見えなかったと思う。それくらい一瞬のできごとだった。
別にライカに対抗したわけではないけれど、私も初戦と二回戦をそれぞれ五つ数える間に終わらせた。もしライカに勝てた場合に当たるカトレアに情報を与えたくなかったというのもあるけれど、これに関しては単に私のトーナメント運が良かったのだと思う。
相手はなんとか魔法研究所の門弟、みたいな人と、傭兵稼業の人だった。
一般的に見れば強い部類だったと思うけど、私だってドラゴン討伐メンバーだし、傭兵地下エルフと一対一やってるし、隣国の剣聖五位も概ね倒している。今日戦ったのがそのレベルの緊張感のある相手だったかと問われると、そうでもなかったかなと思う。
そうして本日最後の三回戦、ライカ戦がやってきて、勝った。ライカ選手の魔力切れによる棄権だった。
魔力切れは絶対に嘘だと思うけど、確かに私たちのうちの誰かが優勝すればいいわけだから、棄権も戦略としてありといえばありだ。
加えてライカの雷魔法は希少だから、できればこんなところでは他人に見せたくないだろう。あの一瞬の「バチッ」だけでは私に勝てない、と思われたのなら、光栄でないこともないけれど、勝ちたいと燃えていた私が馬鹿みたいじゃんかと拗ねてしまった。
ただ、ライカの方は全然気にしていないようで、夕食は普通に一緒に食べた。「目的に対する合理性です」と言っていたのはファスタ領の領主代行だっただろうか。いや、うーん、ライカの方が賢い気がする。でも「事前に教えてほしかった」ということはぐちぐちぐちぐち拗ねながら話した。私が同じことを考えて棄権する可能性だってあったのだ。両者棄権で準決勝がなくなってカトレアが無傷で決勝に行くのは、私たちにしてみたら最悪だ……という理屈。
ライカは素直に、私のもやもやを聞いてくれた。
「でも、ステラ先輩はやる気満々に見えた、から」
「正しいけれど!」
とにかく、超元気な状態で私は明日の準々決勝への出場が決まった。
明日の午前、第一試合はステラ対カトレア、第二試合エルミナ対メイ、ということになった。チームアルス学園、優勝するぞー!
「おー!」とメイだけが応えてくれた。




