魔法大会編①
次に後輩二人に出会ったのは、意外にもロス先生の研究室の前だった。
呼び出されてエルミナと二人で向かってみると、そこにはメイとライカも呼ばれていた。
「はっきり言ってしまえば、あなた方に魔法演習で教えることはもうなにもありません」
というロス先生の言葉に「そんな……」と言ってはみたけれど、最近の演習ではエルミナと闇魔法で戦っているだけだから、確かに授業でなにかを教わっているとはいいがたい。でもロス先生が他の生徒に見せる魔法は惚れ惚れするくらい美しくて、それを横目で見ることはかなり勉強になっていたと思う。それになにより、一流の人の一挙手一投足は見ていて楽しい。
というか四属性のメイはまだしも、ライカもそのレベルなのか。
「はっきり言ってしまえば、あなた方は技術的にまだまだ未熟ですし教えたいことは山ほどあるのですが、それらは『魔法演習』という授業の範囲を逸脱してしまいます」
「先生にそういった枠組みを遵守しようとする気持ちがあるのは意外です」と私。
「正確には、他の生徒が一段飛ばしであなた方を真似してしまおうとすることを危惧しています。理論とは順序ですから」
「なるほど」
「特に昨年はお二人がいましたから、私は癖のついてしまった生徒の修正に大いに苦労したものです」
ロス先生がこちらを見たので、「ごめんね」と心の中で謝った。たぶん休暇中に、先生の意図を考えずにネリー様に魔法を教えたときのやつだ。
「私たちも、ですか?」とライカが尋ねる。
「逆に尋ねますが、あなた方は一年生程度の魔法演習の授業でなにか新しいことを学べると期待していますか?」
彼女はふるふると首を振った。
「そういうことです」
「それでいうとリュカもじゃないですか?」と私。
「リュカくんは〝正しく〟手伝ってくれますからね」
「うぐっ」
「一方で、私はあなた方に高い関心があります」
私たちの「魔法」にね。
「私は講師として、あなた方の才ができる限り伸びてほしい。そのために私は今ここにいるのですから。そこで、学園長の許可を得て、授業の代わりに特別な課題を出すことにしました。近々、トーレスで魔法技能を競う武闘的な大会が数年ぶりに開かれます。出場して優勝してきてください。どなたかが優勝してくださると、私は今後学園の事務処理作業から解放されることになっています。とてもとても感謝しますよ」
「先生の頼みとあっては断れませんわね」とエルミナ。
エルミナはソフィ会長対策の魔道具でだいぶ先生に借りがあるのだ。
「先生は私の『光魔法』で優勝できると本当に思っていますか?」
「ええ、ステラさんの『光魔法』も勝機はあると思いますよ。私だったら優勝します」
「ならやってみようかな」
「お二人はいかがでしょうか?」と一年生ズに先生が尋ねる。
「まだ三度しか先生の授業を受けていない私たちを、そこまで評価するのはなぜ、ですか?」とライカ。
「三回も授業をしておいて、私が生徒の能力を見誤ると?」
「先輩と同じことをお尋ねしますけど、私たちが優勝する可能性もあると考えていますか?」とメイ。
「はい。メイさんの四属性魔法も、ライカさんの雷魔法も、とても良いと感じます。私がみなさんになり替わるとするなら、誰になっても優勝します」
「因みにご褒美はありますか?」と私。
どうせ出場するなら報酬を求めるべきだ。
「では四人のうちどなたかが優勝した場合、お好きな魔道具を差し上げましょう」
みんなでやるぞ、という気持ちになった。
「ロス先生ってあんな方なんですね」
と研究室を出たところでメイが口を開いた。「もっと淡々としてる人かと思ってました」
「魔法大会が毎年行われていた頃の話ですけれど、ロス先生は学園一年生の時代から六連覇していますわね」
「毎年開かれなくなったのって先生が原因なんじゃ……」と私。
「確か二連覇した後は、大会内で一属性しか使わない縛りで四連覇したと聞きましたわ」
「あれって別に学生向けってわけじゃなくて、当時から国一番の魔術師を決める大会だったんですよね? 宮廷魔術師も出るような」とメイ。
「メイは詳しいですわね」
「トーレスの街って実家、もとい元実家の近くなんです。焼け落ちたうちの屋敷は最近では観光スポットにもなっているらしいので、お時間あれば先輩方もぜひ見に来てくださいね」
「……あなたに近いものを感じますわ」とエルミナが小声で耳打ちをしてくる。
「私ってこんなこと言うかな?」
「余りある光栄です」とメイが貴族的なお辞儀を返した。




