予言のレシピ
占星術で使われている液体水晶の特性まとめ
・魔力を通すと球状になる
・少量を組み分けてから魔力を通すと小さい球体ができる
・過剰に魔力を通すと球体の中に魔法が閉じ込められる
・球体の中での魔法の反射が模様のように見える
・模様と予言の関係は不明(本当になに?)
・外部からの圧力で球体を変形させると液化する
・たぶん主成分はよく水辺に浮かんでるゲル状の植物?
あと本当に注意した方がいいことがあって、ケースのないところでうっかり液化させると床に散乱してめちゃくちゃ面倒になる。
「本当にどう予言と関係ありますの?」
エルミナが小さい球体を壊れない程度に指でツンツンと突きながらごちる。
「消去法でこちらの方には意味がないと考えるのがいいのかもしれません。流石に」
とユナ博士。こちらも最初は張り切っていたもののだいぶ行き詰っている。
私たちが四属性魔法でなくて闇魔法と光魔法しか使えないのが良くないのかもしれないけれど、私たちにも予言は出ていたからそこではない気がする。
「可能性は二つですわね。レイニー先生が球状にするときのみ別の役割を果たす。あるいは天体との対応表の方にしか意味がない」
「でもそれだと私とリーズ様の予言は同じになるはず。私の観測記録はリーズ様の丸写しだったから」
だけど、あの後見せてもらったリーズの予言は、「鈍色の空に自由な鳥の羽が舞い降りる」だった。全然違う。
「そのレイニー先生の魔法がカギとなって、天体表を参照しているとか」
ユナちゃんとの記録を暗号化するときによく使う手法だ。
「レイニー先生が本物の予言者で他は全部不要な小道具なのかも」
「エルミナ様、予言者って実在する?」
「エルフよりはやや高い頻度で物語に出てきますわね。今の王国にそのような人物はいないはずですけれど」
「でもドラゴンも実在したからなあ」
予言者のような存在が実在するのか、という議論は一般的には馬鹿馬鹿しいものとされるだろうが、私たちは考えておく必要がある。なにせ王国を壊そうとしているのだ。作戦実行前夜に予言者の密告で全員捕まる可能性の有無について、できれば把握しておきたい。もう運命の有無は結構どうでもよくなっていて、予言者(あるいは第三者の行動を予知できる人間)の実在性をとにかく知りたい気持ちになっている。
「仮に囲っているとしたらお父様でしょうけれど、現時点で確かめる術はありませんわ」
「契約魔石しかないですよね」
「それかエルミナが家督を継いですべてを引き継ぐか」
「ステラの案の方が現実的ですが、これが現実的な時点でこの議論に意味はありませんわね」
エルミナがプチッと小さな球体を押しつぶす。中で反射していた光魔法がげっぷみたいに放出された。
「………………」
ユナちゃんが目を瞑って急に考えるモードに入った。
私とエルミナはそれを邪魔しないように黙っておく。
それからおずおずとユナちゃんが手を挙げて発言の許可を求めた。
「それって100の魔力を注いだとして、液状に戻すとどれくらいの魔法を吐き出しますか?」
「どうかしら。時間経過にもよると思いますけど、98あたりでしょうか」
「それの主成分は水棲の植物で、それはどれくらい採集できますか?」
「流れの早くない水辺なら結構どこにでもいると思うよ」
「どのように加工しますか?」
「わたくしの想像ですけれど、おそらく何度か魔法を通して、魔法の型を与えるとこれになるのではないかしら」
「それは全然実験できると思う」
なにかユナちゃんが核心に迫っているのが伝わってきて、私もエルミナも次の言葉を待つ。
「最後に確認ですが、液化水晶にするときに魔阻は出ると思いますか?」
「それも確かめてみないとだけど、魔術師が植物に魔法を流してるだけだから出ないとおも…………出ないっ!? エルミナ!」
「~~っ!」
今頭の中が高速でぐるぐると回っている。え、うそ、ほんと? いや、実験をしてみるべきでまだただの仮説だけど……。
エルミナも計算をしているはずだ。
「原材料がどこにでもあり、量産可能で、魔法を蓄積する機能があって、放出時のロスも少なくて、魔阻も出ない」
口に出してみて、そんなに都合の良いことがあるだろうかと考える。だけど、理論上通りそうに見える。
今、ユナちゃんがものすごい発見をした。
予言について考えていたはずなのに、全然違うものを発見した。
あるいは歴史上の発見も、こんな風に意図しない方向から生まれていたりするのだろうか。
私たちが今、指先で弄んでいるこの液体は、魔阻を排出しないクリーンな魔石の代替品だ。




