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魔法演習基礎Ⅰ(二回目)

 謎の謹慎明け最初の授業は魔法演習だった。


 授業開始日からすぐに学園に行かなくなったことで、完全にクラスから浮いてしまっていた。


 今は全然かまわないのだけど、後々四人組での遠征実習があるのだ。今回はリュカとカイが同じクラスだから、一人でいいからお友達がほしいところである。なんやかんやあってエディング王子と同じ班になるのが最悪だから……。


 というわけでペアでの練習時に仲良くなりたかったのだけど、私と組んでくれる人が誰もいなかった。例え平民であっても、「聖女」に媚びをうっておいても損はないという判断をする人がいてもおかしくない(というか毎回いた)と思うのだけど、今回は闇魔法を持っているせいでネガティブ要素の方が「聖女」に勝ってしまっている気がする。あとこの前のシチューぱくぱく事件は、ちょっとミスったなという自覚がある。


 同じく相手がいないのは……エルミナ様だけだった。あうっ……。


 こういうのは婚約者様が相手してあげなよと思ったけど、エディング王子は他の貴族令嬢ときゃっきゃと楽しくやっていた。より正確にいうと、無邪気に楽しそうなのはエディング王子だけで、令嬢の方はちらちらとエルミナ様の方を気にしている。分かる、分かるよ。断れないもんね……。あの子とは友達になれそうな気がする。


 だけどエルミナ様はそんなエディング王子に怒ってはいないように見える。私の情報量だと、虎視眈々と婚約破棄破棄の機会を狙っているようにさえ見える。むしろ彼女が見ているのは、私……。


 確かに、向こうに私を避ける理由はないんだよな。


 でも行きたくないな、と思って突っ立ってると、ロス先生に無理やりペアにさせられてしまった。


「危険ですので、私も加わらせていただきます」とロス先生が言う。「リュカくん、こちらはお任せします」

「あいよ」


 私たちは少し離れたところに移動する。

 先生が土魔法で壁を作って、他の生徒からはこちらが見えないようにしてくれた。


「まずステラさん、先日あなたの闇魔法を目撃した数名の生徒たちには、高位の口止めがなされています。つまり、ステラさんは公には光属性の魔法のみ使用できるということですね。それはそれとして、私は闇魔法を見たいので、この授業では闇魔法を練習していきましょう。これ以降、お二人をペアとします」

「分かりましたわ」

「それでは、まずは私に闇魔法を撃ってみてください。エルミナさんは私の真後ろへ」

「分かりました」


 これ私がうっかりエルミナ様を殺しちゃったらどうなるのだろう、なんてことを考えながら闇魔法を撃つ。


「ディナハト!」


 詠唱は不要だけど、それぞれの技に対応する記号があった方が威力が上がる気がする。ディナハトは私の影から生じた闇が相手をガブリと包み込む魔法。ユナちゃんのアイデアだ。


 ロス先生が無詠唱で土魔法を展開する。先生の周囲に四角い土壁が障壁のように地面から生えてくる。闇魔法ががおんと土壁を削って消える。


「いいですね。きちんと操作できている。私でなければ死んでいたでしょう」


 先生のことは結構信頼しているのだ。


「エルミナさん、同じことをやってみましょう。アレンジを加えてもかまいませんよ」

「ええ、先生」


 エルミナ様が杖を構える。杖は出力の先端を細くして志向性を高めるためのものだから、私はそこら辺で拾った枝みたいなボロ杖を使っているのだけど、エルミナ様のはおそらく名店の、きちんと品格のある杖だ。


「ディナハト」


 術名を真似された!


 エルミナ様の影から伸びた闇が、左右二手に分かれてロス先生を挟み撃ちしようとする。

 ロス先生が火球を爆ぜさせて闇を払……いや、三本目の闇が私に飛んできている。


「ディクレーヘ」

 闇を飛ばして、飛来する闇を撃ち弾く。


「あら、ごめんあそばせ」とエルミナ様が悪びれる様子もなく言った。

「いえ、全然。お気になさらず。魔法を狙って撃つのって難しいですもんね。仕方がないですよ。私でなかったら死んでいたかもしれませんが」

「お二人とも実にいいですね」とロス先生がニコニコと口を挟む。


 この人は魔法にしか興味がないんだよなぁ!


「次はエルミナさんからいきましょう」


「スピナ」

 地面を影が走る。ロス先生の足元まで達したときにぐんと影が立体化する。棘状の闇が足元から生えてくる。ロス先生は風魔法でふわりと飛翔し、それらを凍らせることで串刺しを避けた。


「デァヴィアベ」

 私は渦のように足元に闇を広げて、走り迫る闇を棘化する前に自身に飲み込む。

 そのままカウンター。


「スピナ」

 もちろん術名含めて、今受けた技をそっくりそのままお返しする。

 ロス先生がツタで防いでいたけどそっちはどうでもいい。食らえ、エルミナ様!


「ムルス」

 私が足元に平面的に闇の障壁を作ったとするのなら、彼女は立体的に壁を作ってそれを防いだ。視線が交じる。


「今日はここまでにしておきましょう」


 とロス先生が手を叩いた。ロス先生の周りだけ、草に氷に焦げ跡にと戦場みたいになっていた。

 正直めちゃくちゃ楽しかった。特にエルミナ様に攻撃できるところが楽しかった。光魔法なんて人に使ってもなんにも楽しくないからな。


 エルミナ様も楽しんでくれていたらいいなと思ったけど、向こうは無表情で杖を拭いていた。初めて闇魔法を使った私とは違って、おそらくは幼少期から散々やっている作業の一つだったのだろう。


「ステラさんは放課後来てください。光魔法の練習もしましょうね」

「了解です」


 校舎に戻っているとリュカがやってくる。


「ねえ、ステラ。一緒にお昼を食べない? アレのこと、こっそり聞きたいな」

 アレって闇魔法ね。


「よろこんで」とリュカにお返事する。

 カイも入れて三人で移動して、食堂に座った。

「リュカはそれだけしか食べないの?」

「うん、いつもみんながお菓子をくれるからね」

 餌付けされてる。


「動物と植物を等しく食べたほうがいい」とカイが小さく口にする。

「アレを使うときってどんな感覚?」とカイの小言を無視してリュカが尋ねる。

「えーっと……」

 気づいたけど、天才に魔法の感覚を説明するのは難しいな。


「リュカはどんな感覚でやってるの?」

「頭の中を右上が火、左上が水、下が風って感じに箱で分けてて、そこを押してる感覚かなー」

「なるほど。それでいうと私は私がアレになって、そこから自分をトプンって拡張している感覚……で伝わる?」

「いいねいいね! ステラは先生の才能があるよ」

「ありがとう」

「分かるのか、今ので?」とカイが尋ねてくる。

「カイ様は剣を振るうときになにを考えているのですか?」

「なにも考えない。振られた剣筋がそこにあるだけだ」

「それもまた感覚ですよ。リュカは今ので分かる?」

「分かるよー。考えて動くんじゃないんだよね。僕も魔法が出た後に箱を押してるんじゃないかなって思うときあるもん」

「分かるのか? リュカの剣は中々に酷いものだが」

「案外、極めた先には同じ景色が広がっているのかもしれませんね」

「そういうものか。いや、そうなのかもしれない」

「私、カイ様の剣が見てみたいです。明日の授業後にお伺いしても?」

「分かった。楽しみにしている」

「えー、ステラも剣やるの?」

「はい。まだ素人ですが、振れるようになれたらいいなと考えているよ」

「あの魔法があるのに?」

「人前じゃあ使わないから。それに剣と魔法だって、火属性と水属性みたいな関係なんじゃないかな。身体を使うか、魔力を使うか、目的に対する出力の仕方の違い。でもどちらもできた方が楽しいでしょう?」

「その考え方は面白いね! 僕もやってみようかな」

「じゃあ明日一緒にカイ様のところにお邪魔しましょう」

「さんせーい!」


 放課後にやったロス先生との光魔法教室は毎人生やってて特に面白いこともないので、割愛とさせていただきますわ。


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