94話 ムカついたんでバックレますけど!? ③
程なくして、金属製の鎧に身を包み、帯剣をしているリザードマン8体がやって来た。
コイツらはA級上位のリザードウォーリアー。しかも、スタンピードの前兆のせいか一回り身体が大きい。
先程のオーガジェネラルもそうだが、魔物が活性化されて相当強化されているようだ。
「クッ…リザードウォーリアー…最悪の相手だな…
あの鎧は魔法耐性を上げる効果を持つ。しかも、動きが異常に早くて物理攻撃を当てる事も難しい」
「ん。一体でもパーティーで連携しないと危険。
強化個体が8体…」
ほう、流石ベイツとミュイは良く勉強している。
って言うか、何度かこのダンジョンに来て魔物を間引いているんだったな…。
「短時間で屠るから、足の動きを見ろよ!」
俺は短く吐き捨てると、適度な弛緩から地面を捉える脚に力を込める。
先頭の二体が先頭体勢に入る前に真っ向から不意を突くスタイルだ。
初動が極めて少ない俺の突進に反応出来る訳も無く、棒立ちのリザードマンは剣を構える事も叶わずに俺のデコピンの餌食になった。
頭が吹き飛んだ先頭二体を見て、慌てて体勢を整える二列目の3体。
俺は2体の死体の間を縫うように脚を運び、判断が遅れた右側のリザードウォーリアーに、前進する力をプラスした前蹴りをぶち込んで見せる。
ヤツの体が硬直した事でモロに蹴りの威力が伝わったようだ。
右側の個体は3列目のリザードウォーリアーを巻き込むように吹っ飛んで行く。
当然、前蹴りで動作を止める程俺は甘く無い!
直ぐに右脚を下ろすと同時にバックステップ。
二列目中央のリザードウォーリアーのすっとろい剣の振り下ろしを躱すと、地面を叩いたヤツの剣を前に出した左脚で払う。
振り下ろしで前のめりになった直後は屈強な魔物でもバランスを大きく崩している。
振り下ろした剣を横に弾かれただけで、更に体勢が横に流れてしまう。
ククク。ど素人め!
既に左脚を軸に地面を踏み締め済みの俺氏。
強烈な右ミドルキックがリザードウォーリアーの顔面を吹き飛ばした。
「ど素人、ど素人、ど素人、ど素人ぉぉおお!!」
俺は忌憚なきリザードウォーリアーへの感想を述べながら、剣を振り上げて俺の方へと脚を踏み出す2列目左側の個体の出足を払い、横に転けそうになるリザードウォーリアーの胴当てに左手の指をかける。
後はヤツの重心が流れて行く方向に投げを打つだけで、リザードウォーリアーは簡単に横転した。
慌てて身体を起こそとしても遅い!!
俺は這いつくばった体勢のリザードウォーリアーの頭を踏み付けて砕いた。
《ニキ無双スタートですwww》
《何あのうっちゃり》
《は、速すぎて目が追いつかねえ》
《ああ、クソ!NIKIがこんなに強えとか聞いてねえぞ!》
《このファイトを見たら彼の発言にも納得せざるを得ない》
《アメ公共は息してる?www》
《クソアメリカ人共の泣き顔が浮かぶwww》
《ワオ!このニンジャは一体どんなマジックを使っているんだ!?》
《見たかアメリカ!コレがユーキ・カミシロ様だ!!》
ふむ、コメ欄は相変わらずだな。
多分アメリカ人にマウントを取っているのが日本人だろう。草生やすなんて日本人だけだし。
翻訳魔導具の効果で全て日本語に見えているからよう分からんが。
「よう!俺のアンチ共、息してるか?
コレが体術に重点を置く格闘玄人のファイトスタイルだ!」
《ドヤ顔で何か言っとるwww》
《ニキはアメリカでも通常運転で安心したwww》
《う…反論出来ない》
《翻訳班:『やぁ、俺のアンチ達は息をしてるかい?これが格闘技を極めた格闘マスターの戦闘スタイルだ(キリッ』だと思われ》
《海外ニキのコメが減っとるwww》
《アレだけ批判していたユーキ様に命を救われるとか、アメリカ人は今どんな気分?》
《翻訳班GJ過ぎるwww》
《ここに来てアメ公を煽り倒すイケメンニキwww》
《ハラキリで謝罪するしかないのか》
ふむ…反省しているのか、アメ公っぽい書き込みは少ないように思える。
まぁ、コレに懲りて俺に喧嘩を売るような真似が少なくなると良いな…
「どう?ベイツとミュイは俺の足運びとか、地面の掴み方が薄っすら分かったんじゃね?」
「い、いや、俺はそこまでは把握出来なかった。
まるで瞬間移動を繰り返しているようにしか…ただ、ユーキの言う地面を捉えるというのはイメージできた気がするよ」
「ミュイはユーキの事嫌い。
でも、何となく目で追えた。こう、基本的には膝を柔らかくしながら、こう、ギュっと地面を踏んでシッて地面を蹴る感じ。
脚を運ぶ動作も力んでる感じじゃ無く、必要な時に必要な所をギュッ!フンてするような」
「ほう。ミュイはかなり良く見ているな。
ベイツもそのイメージが大事だからそれを忘れないようにな。
さて、残りのメンバーと、コレを見ている世界中の探索者よ。
俺の教え残しは、今ミュイが言った地面を掴む感覚や下半身の力を無駄なくスムーズに上体に伝達する技術についてだ。
ど素人はとにかく下半身の鍛錬が足りない。
攻撃の土台がしっかりしていないから躱した直後に軸がブレて、強力なカウンター攻撃を打ち込めない。
そこで、俺が提唱する下半身の鍛錬方法が『ダンジョンマラソン』だ!」
《??ニキがめっちゃ英語で喋っとるが…??》
《何かミュイたんがキョトンとしてるの可愛い》
《クレイジーだ!ダンジョン内でマラソンだって!?》
《翻訳班:ニキが早口で捲し立てるように話すから自信は無いが………ミュイたんとベイツの事を褒め、他の『S.W.A』メンバーと視聴している探索者を下半身が貧弱と罵倒して、これからダンジョンマラソンを始める的な流れ》
《ユーキに言われたら反論出来ないな》
《彼には他の探索者を素人と呼ぶ権利がある。ステイツの同胞よ、彼の実力を認めるべきじゃないか?》
《翻訳班乙。マジで助かります》
《ダンジョンでマラソンとか草www》
「ほい!休憩終わりだ!怪我の治療が済んだらさっさと立つ!
俺が先頭で道中魔物は瞬殺する!雪乃ちゃんと彩音が殿で、とにかく走ってダンジョンを移動するぞ!
最初だからペースを落としてやる。遅れるなよ!?」
「え!?ユーキ、ちょっと待って下さい!
ダンジョン内を走って移動とか正気ですか!?舗装された地面じゃないんですよ!?」
メアリーが何か俺を常識の無いヤツみたいに言うが、俺のような常識の塊に対して心外だな。
「このデコボコ感をしっかりと掴んでこそ、下半身の強化に繋がるんだ。
それに、いつスタンピードが起きてもおかしくない現状で、呑気に歩いて進む訳に行かんだろう。
ホラ!サッサと走れ!ゴー!ゴー!」
俺はゴネるメアリーを窘めて、軽目のダッシュを始める。
そう早くは無い。レベリングをしていないマラソンランナーの3倍程度のスピードだ。
「クッ!ユーキの走り方ズルい。
こんなデコボコ道なのにしっかり足で踏んで、ギュンってしてる」
「ククク。この走り方に気付くとは流石だ。
だが、この走りは一朝一夕で身につくモノでは無い。
先ずは一歩一歩の足の運びに集中して、地面を足でワシと捉える感じを身に付けろ」
俺の少し後ろを走るミュイが俺を見て悔しがるので、俺は簡単にアドバイスを送る。
ミュイはチッと舌打ちしながらも、俺のアドバイスを実践するように足の運びを確かめている。
うむ、やはりミュイは天才というヤツだ。
少しのアドバイスと観察眼で動作に移している。
俺は何度も試行錯誤して、繰り返し繰り返し反復して技術を身に付けたので、決して天才肌の格闘家(の練習を死ぬ程積み上げただけ)では無かった。
正直、彼女の才能が羨ましくはある。
だからと言って……
「易々と追い付かれる気は無えけどなぁっ!!」
ドバッ!ドゴッ!ドシュンッ!!
接敵を感知した俺は一気に加速して、3体のガーゴイルを左右フックから左ハイキックのコンビネーションで瞬殺した。
道中の梅雨払いは俺が引き受ける。
バックアタックを仕掛けて来た場合、雪乃ちゃんと彩音が対処する。
一本道のこのダンジョンでのランニングは、『S.W.A』の安全を確保しながら進むのだった。




