93話 ムカついたんでバックレますけど!? ②
《ミュイレラ・イヴァンチェノバ視点》
急遽クソ日本人のユーキ達抜きでダンジョン攻略に臨む事になってしまった。
だけど、あの男の言う事は正しい。
あの男はわざわざアメリカにまで来たというのに、下らない記者達に煽られた上での発言が切り抜かれて炎上。
大統領まで公的な会見で名指しで彼を非難した。
他国に来て多くのアメリカ人や大統領にまで敵意を向けられれば、馬鹿らしくて危険なAランクダンジョンなんて攻略する気も無くなる。
しかも…
《クソったれジャップのせいで『S.W.A』の負担が増えちまったじゃねえか!》
《『S.W.A』に何かあったら、あの日本人許さねえからな!》
《ビビっただけだろ。黄色の猿なんぞ、口が達者なだけのチキンの集まりだからな》
《“日本が誇るイケメンニキを腐すとか、クソ米国人どもは全員氏ぬべき”》
《挑発的な言葉を吐いて、危なくなったらゴネて逃げる。ジャパニーズ・ヤク◯の手法そのものだ》
《“ニキをディスってるアホアメリカンは『S.W.A』が全滅するまで己の愚かさに気付かない模様www“》
《“何だよ『S.W.A』のヤツら、ユーキさんやユキノちゃん達とは比べ物にならんくらい動き悪いな”》
コメント欄には未だにユーキを非難するコメントが多くて、めちゃくちゃ荒れている。
所々ニホン語でコメントが来ているみたいで意味は分からないけど、内容はアメリカ人や私達への誹謗中傷だろう。
スタンピードの危機が目の前に迫っているというのに、ユーキをディスり続けるなんて視聴者も気楽なモノだ。
あのクソ男の訓練のおかげで、認めたくないけどミュイのコンディションは過去最高。
反応速度が良くなっているのが自覚出来る程に…
でも、ミュイ達はここで死ぬだろう…
スタンピードが近いせいか、道中の魔物達が以前より遥かに数が多く、活発化して強くなっている。
まだ15階層だと言うのに、メアリー、オリビア、ピザデフはかなり疲弊している。
こんな状況では60階層なんてとても辿り着けない。
『ベテラン探索者の君らは充分知っていると思うが、ダンジョンは魔境だ。
あの特殊な環境に長時間居るだけで、精神的な消耗が激しくなる。
だから事前に魔物を充分に研究しておくんだ。
素早く一撃で魔物を戦闘不能にする為に、何度も何度も繰り返し地味な訓練を続けるんだ。
それを続ける事で、君らの生存確率は格段に跳ね上がる』
ユーキが最期の朝練の時にミュイ達に言っていた言葉が過ぎる。
あの男はイヤな性格だけど、言っている事は正しい。
実力も底が見えない。
その力は間違い無く彼の言う研究と訓練の積み重ねによるモノ…
「ミュイ、危ない!!」
ズシュッ!!
ベイツの声が響いた瞬間、右腕に鋭い痛みを感じた。
ガーゴイルの爪の一撃を喰らったんだ…。
考え事なんてしている場合じゃなかった。
直ぐに体勢を立て直して、返しの短剣を振るう。
石の身体を持つガーゴイルが真っ二つになり地面に落ちる。
「大丈夫ですか!?
今回復魔法をかけますから動かないで下さい!」
オリビアが駆け寄って来て怪我を治そうとしたけど…
「オリビア待ってくれ。どうやらオーガジェネラルに囲まれたようだ。
先に障壁魔法を展開してくれ」
ベイツの言う通り、既に周りをオーガジェネラルに囲まれている。
タンクのピザデフは完全にバテて息が上がっているし、ここまで高火力魔法を連発したメアリーも魔力が切れそうな状態。
ミュイもガーゴイルにやられた傷が深く、無視出来ない程出血している。
ミュイ達はここで死ぬ……
それは覚悟していた事だ。
でも……
「もっとユーキに特訓して貰いたかったな……」
最早叶わない願いと分かっていたけど、そんな言葉が漏れてしまう。
ああ…オーガジェネラルがモーションに入る…
ユーキが言っていた通り見え見えの初動だ。
こんな時に成長してももう遅いのに…
初動が見えても、右腕はもう上がらない。血が流れ過ぎて脚に力が入らない…
ザシュンッ!
オーガジェネラルが猛スピードでミュイに迫る刹那、黒い影が突然目の前に立ちはだかった。
よく見ると、迫っていたオーガジェネラルの首がなくなっている。
「遅くなって悪かったな。
ミュイ、レッスンを始めようか」
その声は何処か腹立たしく、それでいて何故か一番聞きたかった声だった……
◆◇◆◇◆
《ニキの英雄ムーブキターーー!!》
《コレは今季一番のツンからのデレ》
《今のキメゼリフ絶対カッコ良いヤツだって!翻訳班はよ!!》
《な、何でジャップが…》
《ニキが英語喋っとるwww》
《う、嘘だろ…オーガジェネラルが一瞬で…》
《【悲報】オーガジェネラルたん、ニキのデコピンで頭を吹き飛ばされる》
《こんなヤツに頼らなくてはならないとは…》
《デコピン一発www》
《今のユーキの攻撃見えたヤツいる?》
《翻訳班:『遅くなって済まなかった。ミュイ、レッスンをスタートしよう(キリッ』だと思われ》
《クソ!ジャップが俺達を騙しやがった!!》
《海外ニキ涙目www》
《カッコつけている所が腹立たしい》
《翻訳班ナイス!!コレはミュイレラたんが惚れるヤツ!》
《俺、アメリカ人だけどユーキに惚れた…》
《俺は最初からユーキが強いって知ってたけどな》
《ニキの『レッスンをスタートしよう』で夜のレッスンを求めない女はいない!》
『S.W.A』が壊滅寸前の所でギリ間に合った俺氏。
ミュイに攻撃を仕掛けていたオーガジェネラルをデコピン一発で仕留めて見せた。
超高性能魔導ドローンに備え付けられている端末の画面には、凄い勢いでコメントが上がっている。
普通にミュイが教えを欲していたのでレッスンしようと言っただけなんだが、何故かコメント欄がめちゃくちゃ騒ついとるな……。
俺はそんな事を思いながら、『S.W.A』を包囲しているオーガジェネラルの体勢を崩してはデコピンをして行く。
コイツら魔物の欠点は攻撃を放つ時に完全に無防備になる事。
プロ格闘家のように右ストレートの時に、左のガードを意識したりは絶対にしない。
破壊力は並みのSランク探索者なら一撃でミンチになる程ヤバいんだが、それも当たらなければどうと言う事は無いし、とにかく隙だらけだ。
初動を捉えては後方へと回り込み、膝裏をちょこんと蹴って体勢を崩す。
膝を付いたオーガくんの後頭部にデコピンを見舞うという流れ作業。
7体程を屠った所で、他の個体の頭部が次々と爆砕して行った。
少し遅れた雪乃ちゃんのクナイと彩音の魔法攻撃がヒットしたのだ。
「ユ、ユーキ…ユキノ…アヤネまで…
ど、どうして?貴方達は日本に帰った筈じゃ…」
呆然としていたメアリーが、俺達に問いかけて来た。
「あ?うん…あ、アレだ。
君らに教え忘れていた事をレッスンしなきゃと思ってな…
…。
あと、この翻訳魔導具も返し忘れてたし……」
「ユーキさんはキィたんに泣き付かれて駆け付けたんです。
可愛いキィたんに『むいねぃたんをたちけてぇぇ!』って言われて、ユーキさんに逆らえる訳無いですから」
クッ…雪乃ちゃんに本当の事をバラされた…
だって仕方ないだろう?あんな宝石のような綺麗な瞳をうるうるされて、おねだりに応じないヤツは父親じゃねえ!
それに、自分の息子が他人を思い遣れる優しい子だと分かって、父親として誇らしい気持ちでもある。
「そう…キリトがミュイを…」
「ミュイ、ベイツ、傷の手当てをしながらで良い。
後続の魔物が押し寄せて来るから、俺の動きをしっかりと見ていろ。
お前達2人はとても目が良い。特に俺の足の動きに注目するんだ」
俺は涙を浮かべて微笑むミュイと、身体のあちこちに切り傷を負っているベイツに声をかけると、前方をキリッと睨み付ける。
さて、桐斗が見ているからカッコ悪い所は見せられない。
格闘家の研究と練習の積み重ねを見せ付けてやるぜぇ!!




