92話 ムカついたんでバックレますけど!? ①
『さて!合衆国が誇る探索者パーティー『S.W.A』と、史上最低な人格を持つミスター・カミシロが率いる『ガチ勢』の共同探索が只今幕を開けます!』
一夜が開け、TGTグランド・フラワーアリーナダンジョン攻略の時間となった。
今回ももちろんPPV配信であり、全世界にその模様が配信される…だと言うのに、アナウンサーっぽい女は俺に悪意のある言い回しをしてやがる…。
たった一夜にして、俺はアメリカ中から非難される存在となった。
あのクソ忌々しいパイロンとかいう大統領が、公式の場で名指しで俺を批判しやがったせいだ。
『すみません、ミスター・カミシロ。
貴方の昨日の発言はアメリカに数多くいる『カマチョ&ザ・ファミリーストーン』ファンを敵に回しました。
WSA US支局には貴方をダンジョン攻略から外せという抗議の声が多数寄せられたそうですが、その事についてどう考えてますか?』
「あ、そ。
じゃあ俺らはダンジョン攻略止めるわ。
昨日のクソ大統領の発言のせいで俺を排斥する連中が増えたらしいしな。
顔も名前も明かさずに、アホみたいに俺を非難するようなクソ馬鹿どもの為に命をかけたくないし。
雪乃ちゃん、彩音、俺達は日本に戻ろうぜ!
『S.W.A』の諸君は攻略頑張って〜!」
俺は思い切り臍を曲げた。
先ず、大統領が一個人を名指しで非難して国民を煽るとか普通にありえんだろ。
煽られて呼応するヤツらも普通にムカつくしな。
陰からコソコソ俺を誹謗中傷する連中の為に危険なダンジョンを攻略しなきゃならんのか?
日本の視聴者達も勘違いしている連中が多いが、体術を身に付けている程度であんなにあっさり敵を蹴散らせる訳が無い。
探索前に出現する魔物や過去のイレギュラーなんかを確認して、何度も過去配信を見て魔物の攻撃パターンをインプットする。
後は毎日基礎トレを徹底して、相手の攻撃を躱し様にカウンターを打ち込む練習を只管繰り返す。
人間と戦うのと違って、魔物は動きがパターン化されているから簡単だと思うヤツもいるだろう。
だが、コレはゲームじゃ無い。
1つのミスが大怪我や死亡に繋がるのだ。
そんな極度の緊張状態で練習通りに動く事がどれ程難しいか。
また、映像と実物と対峙した時の誤差も有る。
誤差を埋める間に想定を上回る攻撃に曝されて死ぬ事だってある。
これだけの準備をして、常に死の恐怖と闘ってダンジョン攻略をしている事など、視聴者のど素人共には分からんだろう。
誰かに助けて貰って当然。大金を稼いでいるんだからダンジョン攻略して当然。
そういう風潮にウンザリする。
俺が踵を返して引き返そうとすると、慌てた様子のメアリーが駆け寄って来た。
「ま、待って下さい、ユーキ。
貴方達の力が無いと無理だわ!今回のAランクダンジョンの私達『S.W.A』の最高到達階層は22階層なの!
あれから多少強くなっているとしても、最下層ボスがいる60階層まではとても辿り着けないわ!」
「やだよ。俺は殆どのアメリカ人に嫌われていると、さっきあのバカ女レポーターが言ってただろ?
大統領を筆頭に俺の事を嫌っている奴らの為に、何で命を賭けなきゃならんのだ?
俺は俺達を拒絶する連中がスタンピードで殺されようが知ったこっちゃねえんだよ!
日本の視聴者層は好き勝手言って茶化す事は有っても、俺達を非難したり罵倒するヤツは殆ど居ない。
アンチが皆無では無いが、圧倒的に俺達を称賛してくれる人の方が多い。
俺らの配信では感謝コメをくれたり、多額のスパチャをくれる。
どうせ命を張るなら、俺は自分達の事を認めてくれる日本の皆んなを守る為にダンジョンに潜るっつーの!
何が自由の国アメリカだ!
無名のクソどもが群れて、数の暴力でマイノリティを殺す排他主義の国だろうが!」
俺が心の内を叫ぶと、『S.W.A』を含めて周りの報道陣も静かになった。
「ホラ、アメリカは世界最強なんだろ?
お前らの問題はお前らで解決して来い。
マリブの豪邸も頂かなくて結構だ。トレーニングの話も無し。
俺らは日本に帰らせて貰う」
俺はそう言うと、今度こそ雪乃ちゃんと彩音を連れて、桐斗や姉達が待っているWSAアメリカのベガス支部へと引き返した。
途中、支部長とやらが俺らの前に立ったが、ひと睨みすると何も言えずに進路を開けるという無駄でしか無いやり取りがあったがマジでどうでも良い。
俺が桐斗達がいる休憩室的な部屋へ行くと、何事かと心配げな顔をする姉貴と、ご機嫌な桐斗にかいつまんで事情を説明する。
2人とも日本に帰る事に難色を示さなかったし、姉貴の婚約者の皆川さんはスマホで配信を見て、俺の為に腹を立ててくれてさえいた。
俺達が休憩室を出ようとした所に、PPVの大手配信会社のオッサンと、先程無言で道を開けた支局長がやって来た。
「ミスター・カミシロ!先程は我が局の無礼なレポーターが君に失礼な事を言ってしまった!
それは心から謝罪する!
あのレポーターはクビにしたから、どうか気を取り直して攻略して貰いたい!」
「貴方ねえ!そういう問題じゃ無いんですよ!
雄貴君に多くのアメリカ国民が苦情を寄せた事実は変わらないんでしょう!?
しかも、パイロン大統領が名指しで雄貴君を批判したんだぞ!!
雄貴君はロボットじゃ無いんだ!
それだけの悪意に晒されて、気を取り直せ!?
人を馬鹿にするのも良い加減にして下さい!!
謝るなら、雄貴君を非難した連中が全員ここに来て謝るべきだ!!」
み、皆川さんが配信会社の偉いさんに噛み付いてくれている……
俺は良い兄貴を持ったようだ……
「ミスター・ミナガワ。貴方の言う事は尤もだと思う。
ミスター・カミシロの怒りも尤もで、そこについて私達は何も言えません。
ですが、せめてチャーター機の準備が出来るまでで良いので、そちらのモニターで『S.W.A』の最期のダンジョンアタックを観て行って頂けませんか?
チャーター機の準備が出来次第、係の者が伝言に参りますので、その間だけでもどうかお願いします」
憤る皆川さんに頭を下げたのは、WSA US支局のベガス支部長だった。
俺は彼の言葉に引っかかる部分が有ったので、思わず彼の言葉を問いただした。
「最期のダンジョンアタック?
まるで彼等がダンジョンで死ぬと決め付けているようだがどういう事だ?」
「そうですか…メアリーは貴方達に重要な事を伝えていないのですね。
『S.W.A』はダンジョン攻略が出来なければ、地上に戻る事は無いと宣言していたのです。
TGTグランド・フラワーアリーナダンジョンはいつスタンピードを起こすか分からない程危険な状態ですから、彼等は最下層ボスを倒して完全攻略出来ない場合、そのままダンジョン内に残って死ぬ迄出来る限り多くの魔物を討伐するつもりなのですよ」
「は!?そんな命懸けの特攻に俺たちを付き合わせるつもりだったのか!?」
「それは有りません。
最下層ボスを討伐出来ないと判断した時点で、メアリーは貴方達に転移スクロールを使うと言っていましたから。
てっきり話を聞いていると思ったのですが…」
何なんだよ!?『S.W.A』の連中は頭がイカれてるのか!?
例えスタンピードが起きる直前だと言っても、わざわざ死ぬ迄戦い続けるのはどうなの?
貴重な戦力であるSSランクパーティーを失うような事を良くコイツらは容認したものだ。
「何故、『S.W.A』が死にに行くのを止めないのかと言いたげな表情ですね?
私達だって彼等の無謀なダンジョンアタックを何としてでも止めたかったですよ。
……ミスター・カミシロ、貴方は出身地に帰る事は出来ますか?」
「ん?まぁ、俺は五反田生まれ格闘技育ちだから、生まれてこの方ずっと地元に住んでいるが」
「それは幸運だ…『S.W.A』のメンバーはね、出生地であるコンプトンに居場所が無かった人達が集まって結成されたんですよ。
彼等はコンプトンでそれぞれ問題を抱えて生きてました。
そんな彼等が『S.W.A』を結成した理由は、それでもコンプトンダンジョンから地元の人々を守りたかったからです。
ですが、彼等の善意は住人達には伝わらなかった。
それどころか、ダンジョンの魔物を必死に間引いていた彼等を住人達は追い出しにかかったんです。
故郷を追われた彼等はその後、各地を転々としました。
そして、彼等の初めての居場所となったのが、ここネバダ州なんです。
ベガスは深刻な探索者不足に悩んでおり、歓楽街としての機能が停止していた為、住人は有望株の彼等を温かく迎え入れました。
そんな住人達を守るべく、彼等『S.W.A』はネバダ州周辺で脅威と呼ばれるTGTグランド・フラワーアリーナダンジョンに挑むべく、Cランクダンジョンのモハべ砂漠ダンジョンで着実に力を付けて行きました」
ほう、随分と語るじゃないか……コレは情に訴えかけようという作戦に違いない。
俺は逆に冷めた感じで支部長の話を聞いた。
「ですが不運な事に、彼等がAランクに昇格する前に、フラワーアリーナダンジョンでオーバーフローが発生したのです。
最悪な事に、『S.W.A』はその時モハべ砂漠ダンジョンに潜っていて、ベガスから離れていました。
Aランクダンジョンから溢れ出た魔物群によって、住人達は成すすべなく蹂躙され…
当時はまだ一職員だった私は必死に少ない探索者達に緊急連絡を入れましたが、応じたパーティーは僅か3組のみ。
他の8組のパーティーは住民などお構い無しに逃げて行きました」
「そら、当然だろう。
探索者なんて命あっての物種だ。無茶な緊急依頼に応じて死ぬなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある」
「仰る通りです。
私も逃げた彼等を恨んではいません。
事実、住民の被害を食い止めようとした3組のパーティーは全滅したのですから。
私も職員になる前、3年ほど探索者と活動しておりましたので、住人をベガス支部へと避難誘導しながら魔物共と抗戦しましたが、あんな化け物共はとても倒せないと感じました。
正直、恐怖心で頭がおかしくなりそうでしたよ。
緊急連絡を受けて慌ててモハべ砂漠ダンジョンから駆け付けてくれた『S.W.A』の奮闘のおかげで、オーバーフローが収束する48時間を凌ぐ事が出来ました。
結果、私を含めた何人もの命が助かりましたが、それでも4割の住人が犠牲になったのです。
ギルド職員も生き残ったのは21人中6人でした。
あの時の彼等の、己の無力さに打ちのめされたような表情は今でも忘れられない…」
ふむ。アイツらも色々と大変だったんだろうが、だからと言ってスタンピードの被害を食い止める為に死ぬとか、意味が分からん。
「ミスター・カミシロ。
貴方にも命をかけてでも守りたいと思う家族がいるでしょう?
キリト君やお姉さん夫婦がスタンピードに曝されるかも知れないという逼迫した状況だったら、命を投げ打ってでも対応しませんか?」
「そりゃ当然だろ。
例え死んでも、絶対に桐斗や姉貴夫婦は守って見せるさ」
「彼らにとって、このベガスの住人は家族同然の存在なんですよ。
ダンジョン異常の前兆が起きて以来、殆どの住人がベガスを離れましたが、身体の不自由な者や貧しい者、地元を離れたく無い者、教会で保護している孤児達等、8千人近くは残って居るんです。
ミスター・カミシロ。
ダンジョンアタックを開始した彼等を見て、完全攻略は出来ると思いますか?」
俺は支部長の問いかけに対し、モニターに映るベイツ達を見ながら率直な感想を述べた。
「……無理かな。
まだ12階層だが、ダンジョンの魔物共が活発化している事もあるし、魔物の数が多い。序盤では有りえん程『S.W.A』は消耗している」
「やはりそうですか……
どうか、お願いします!!
貴方のお怒りは尤もで、多くのアメリカ人は恥ずべき行動を取った。
許される事では有りませんが、どうしても『S.W.A』を失いたく無いのです!!」
コイツ……ジャパニーズ・ドゲザをぶちかましやがった。
だが、断る!!俺のアンチしか居ないのに、ソイツらの為に命をかけたくねえ!!
「パパァ…むいねぃたん、らいじょぶかなぁ?」
そんな時、桐斗の声で怒りが霧散した。
桐斗は心配そうな表情で俺に問いかけている。
そうか…桐斗はミュイに可愛がられていたからな…。
だが、それと俺がアメリカ人を救うのとは話が別だ。
さて、桐斗には申し訳ないが、そろそろお暇しようかな。
後でむいねぃたんは眠くなってダンジョンで寝ちゃったと言っておけば、ヘクターと同じくダンジョンの何処かで生きている扱いになるだろう。




