87話 前日記者会見でやらかしましたけど!?
「なぁ…桐斗は俺の大事な息子なんだ。
そろそろ離してくれないか?」
「…イヤ。お前の命令は受けない」
「むいねぃたん、ぱずりゅしよ!ぱずりゅ!」
「ん。ミュイ姉ちゃんとパズルしよう」
訓練を終えた俺達は、『S.W.A』のメンバーが準備してくれたバーベキューを堪能した。
酒も飲んで、メンバーとも良い感じに打ち解けられたのだが……
何故かミュイが桐斗の事を離してくれない。
因みに、翻訳魔導具のペンダントはメアリーが桐斗と姉夫婦にも渡してくれた。
コレ一つが日本の俺の家と同じ値段だと言われ、姉貴と婚約者の皆川颯太さんも付ける時に手が震えていたっけな。
それよりも桐斗の事だった。
日本からマリブへの移動は転移スクロールで行ったので、時差ボケにならないよう生活パターンを調整してやって来たのに、コレでは桐斗が夜眠れなくなってしまう。
「いい加減にしてくれ!
桐斗はもう眠る時間なんだ!ミュイが構い過ぎると、桐斗の目が冴えてしまうだろ!」
「……ん、仕方ない。
キリト、ミュイ姉ちゃんとねんねしよ」
「やら!ボク、ぱずりゅちたい!」
「ダメだ!ちゃんと寝ないとヘクターみたいに強くなれないぞ!」
「え!ねんねちたらへったになれりゅ?」
「?キリトはヘクターが好き?」
「うん!へったねぇ、ちゅおいんらよ?まものをしゅぱしゅぱしゅりゅの!」
「キリト、ミュイ姉ちゃんの方がヘクターなんかより100倍強い。
ミュイから見たら、ヘクターもキリトのパパもザコ」
うわぁ…なんかこの人、3歳の子供に強い自慢をし出したんですけど…
しかも、何気に昼間に俺に雑魚呼ばわりされた事を未だに根に持ってるし…
「パパはざこじゃないもん!パパはへったよりいっぱい、い〜っぱいちゅよいもん!」
ヤバい…桐斗に強い親父と思われてる…感動して泣きそう…
「ん。キリトのパパはヘクターより強い。
でも、ミュイよりザコ」
「え!じゃあ、むいねぃたんがさいきょー?」
「ん。ミュイ姉ちゃんが最強。
ミュイとねんねしたらキリトも最強。だから、一緒にねんねしよ?」
「あい!むいねぃたんとねんねしゅりゅ!」
あ…泣いている間に桐斗を連れて行かれてしまった…
でも良いか。
ミュイは何故か俺を敵視する割に、桐斗の事は矢鱈と可愛がっている。
バーベキューの時もずっと桐斗に付きっきりで、肉や野菜を食べやすいように切り分けてくれていた。
自分をお姉ちゃんと呼ばせている辺りに危険な匂いがするが、桐斗に危害を加えたりしないだろう。
俺はミュイに桐斗の事を任せる事にして、自分用に当てがわれた部屋へと向かった。
「はぁ…やっぱ凄えなこの家。
この部屋だけでウチのリビングより…うお!雪乃ちゃん!」
俺はオッサンよろしく独り言ちていると、ベッドでセクシーなランジェリー姿で横たわる雪乃ちゃんに気付き、飛び上がる程にビビった。
「ゆ、ゆ、雪乃ちゃん!?ど、ど、どうして、そ、そ、そんな、せくしぃな格好を!?」
「だ、だって…ユーキさんが全然その…そういう事を…してくれないから…」
「い、いや!前にも言ったじゃんか!
俺は性欲モンスターなんだ!手を出さなければ何とか堪える事が可能だけど、一度してしまうと歯止めが効かなくなって…ん…」
俺が必死に理性を保ちながら雪乃ちゃんを窘めていると、不意打ち気味に抱きついて来た雪乃ちゃんに唇を奪われた…
ヤバい…色々と柔らかい…
く、クソ…俺の心の檻の中の飢えた狼が、今にも檻を喰い破ろうとしている…
いよいよ、檻が無くなるゾ!
「……ペッ!
息子を放置して女とイチャイチャするな」
ドドキィィイッ!!
この唾吐きと無機質な声はミュイか!?
俺と雪乃ちゃんは慌てて体を離した。
ヤベェ……別にそこまで疚しい事はしてないのに、気まずくてミュイの顔を見れねえ!
中坊なのか俺はァァア!?
「ミュ、ミュイ…お、おま…ノ、ノックくらいしろ。
それに、放置も何も、お前が勝手に桐斗を奪って行ったんだろ?
べ、別に父親としての責務を放棄した訳じゃない!」
「……股間にテントを張ってるヤツが言っても説得力ナシ」
な、な、何ぃぃいい!?
そんな、たかがチュウだけで、股間にテントを張る訳が…ホンマや!!
「それより、キリトがクマさんのぬいぐるみを欲しがってる。
早く渡して」
俺は赤面しながらも、桐斗がいつも寝る時に横に置いているクマのぬいぐるみを異空間収納から取り出して、ジト目でこちらを見て来るミュイにスゴスゴと手渡した。
「ユキノ、女が男の上に乗っかるとか、ビッチみたいだからやめた方が良い」
「ビ、ビ、ビッチじゃありません!
わ、私はしょ、処女なんです!け、穢らわしい女なんかじゃありません!」
「ふん…どーでも良い。
イチャイチャはキリトが眠りに付いてからにして……
……ペッ!くたばれリア充ども!」
ミュイが捨て台詞と唾を吐いて部屋から出て行った。
その後、無性に気まずくなった俺達は、肉体関係を持つのは雪乃ちゃんが大学を卒業した後にする事を約束して、後はダンジョン攻略後に何処にデートに行こうかと健全な話をしてから眠りについた。
因みに、夜中に隣の部屋で寝ていた姉貴達の部屋からけしからん声が響いて来たが、姉のそういう部分には触れたくないと思ったのだった。
◆◇◆◇◆
「うむ、ミュイとベイツはたった一日で随分と動きが良くなったな」
「ハァ…ハァ…あ、ありがとう。
ユーキとユキノの…うぷっ!…お、おかげだよ」
「ゼェ…ハァ…
テント野郎に上から言われたくない」
3日目の朝。練習を終えた俺達『ガチ勢』と『S.W.A』は汗を拭きながら言葉を交わしていた。
前衛のミュイとベイツはかなり良くなったんだが、他の3人。ピザデフとメアリー、ムッチリエロ体型のオリビアは余り宜しくない。
ピザデフは雪乃ちゃんの豊満なお胸ばかり見ているけしからん男なので、今日は俺とマンツーマンでやったのだが、たったの30分でバテて動けなくなった。
スキルの使用を禁止にしているので、盾役の彼はスピードとパワーを使うのに普段より消耗するのは分かるが、基礎体力がお粗末過ぎる。
元プロゲーマーで、炭酸飲料とポテチとピザを無限ループしていたというピザデフには、先ずはランニングの習慣をつけさせないとダメかも知れない。
彼はそれ以外にも結構ヤバい雰囲気がプンプンしている……
「なぁ、アイツ……訓練所でエロ本読んでるけどアレは普通なのか?」
「ん?ああ。
ピザデフはいつもあんな感じだ」
「おい!アイツ、オリビアの尻に触ったぞ!?
アレも普通なのか!?」
ベイツにピザデフについて質問していると、トレーニング室から出て行こうとするオリビアの尻を触りやがった!!
あんなの日本でやったら大問題……でも無いのか。
探索者は裏で結構女性メンバーにセクハラをしているらしいしな……
「放っておけよ。
アイツも明日のダンジョンアタックの前に、心残りを少なくしたいんだろうし。
じゃ、俺も心残りが無いように、愛しのマギーに電話して来るわ。
また後でな……」
ううむ、心無しかベイツもどこかナーバスになっている気がする……
命のリスクが伴う稼業だから緩み切ってるよりは全然マシだが、『S.W.A』メンバーはミュイを除いてピリ付いてるんだよなぁ……
俺はそんな事を思いながら、雪乃ちゃんのナイスなヒップについて訓練室を後にするのだった。
その後、シャワーで汗を流して遅目の朝食を摂った俺は、ラスベガスへ向かう為に身支度を整えた。
ラスベガス迄は転移スクロールを使うので直ぐに移動出来る。
行きはスクロールを使うが、帰りは旅の風景を楽しみたいので車で戻って来る予定だ。
先ずはWSAアメリカのベガス支部に転移して、そのまま会議室で簡易的な記者会見をしなくてはならない。
記者会見は生配信だと言うし、アメリカの記者はズケズケと質問して来るらしい。
西海岸では俺達『ガチ勢』に好意的な人間が多いらしいが、東方面は保守的な層が多くて『ガチ勢』アンチが多いらしいから、それだけが心配かな…
◆◇◆◇◆
転移後に少しWSAアメリカの職員と打ち合わせをした後、会議室での記者会見が始まった。
序盤はメアリーを中心に無難なやり取りが行われたが、中盤に差し掛かった所である記者が俺に質問を投げかけて来た。
「ミスター・カミシロ。
貴方は度々探索者を格闘素人と言っていますが、多くのアメリカ国民は貴方の言葉に懐疑的だ。
と言うのも、元トップMMAファイターのアレクセイ・ザコビッチはCランクまで上がったものの、直ぐに脊髄に損傷を負ってリタイアを余儀なくされました。
コレは貴方の意見が誤りである証拠だと言えます。
それを受けて貴方の意見を聞かせて下さい」
「ふん、ど素人の記者はコレだから。
先ず初めに、俺はファイターとしてザコビッチ氏をとてもリスペクトしている。
その上で、ザコビッチ氏のファイトスタイルについて言及したい。
彼はディフェンス度外視のゴリゴリのパワーファイターだ。
まぁ、度外視と言っても、相手の攻撃の芯は外して打撃を受けているのも凄い技術だが。
63戦47勝の内、36KO勝ちという記録は素晴らしいが、判定になると勝率は半分以下。
判定勝ちも全てスプリットディシジョン。
この事からも彼のディフェンスはザルだったと言えるだろう。
多少の攻撃ではびくともしないタフネス。組みに来られてもトップ級の技術でなければ力技で回避。
こんなスタイルが染み付いているファイターが探索者になるとどうなるか?
魔物の攻撃は人間の打撃と違って、受けるポイントをずらした程度で被ダメを食い止められない。
芯を外せば攻撃を受けても戦いを続行出来る格闘技とは違い、魔物の攻撃の破壊力というのは緩く無いんだよ。
俺が思う格闘玄人は距離感や防御を重視するカウンターファイターだ。
MMAだとフェザー級絶対王者だったボルブ・ナマゴメニドフ氏、試合が塩で面白くないと言われているが、ロイ・バステム氏、キックでは欧州のライト級タイトルを長期防衛したオーランド・キリエンコ氏、日本人ではお馴染みテンドー・オガワ氏、ボクシングでは破格の身体能力と見切りを誇ったトイ・ケインズJr.氏、ディフェンスマスターのライオネル・ヴィッキー氏、日本人のレジェンド王者のナオキ・イノグチ氏は間違いなく凄い探索者になっただろう。
パッと思いつくだけでコレだけだから、攻守が一流の選手は俺なんかより遥かに優れた探索者になると思う。
レジェンドばかりだから何も全盛期ならばという話になるがね。
と言うか、君らはプロ記者の癖に、ローマ五輪金メダリストのタツキ・アイグチを知らんのかね?
彼は俺同様、レベリング前にワーウルフを単騎で圧倒して見せただろう?
あのファイトが俺の言う玄人格闘家の姿だ」
「そ、そうですね…ハイ…分かりました。
もう結構です」
何故か記者のトーンがダウンした。
良いや、続けよう。
「まぁ、全世界の探索者を煽るような発言は謝るよ。
だが、此方の『S.W.A』のベイツとミュイは僅か2日の訓練でかなり動きが洗練された。
2人とも元々の才能が凄いんだろうな。
彼ら以外にも日々のトレーニングを地獄のフィジカル追い込みトレや技術の反復トレに当てがうだけで、破格の成長をする探索者はゴロゴロしているだろう。
明日の完全攻略後に『S.W.A』のトレーニング生配信を『VISITORS』STATIONと『ガチ勢』チャンネルで行う。
世界中の探索者に見てもらえるとありがたい。
あと、探索者達は沢山のスパチャをくれよ」
ふぅ…今回はアメリカ全土に生配信されるから、余り煽る事は言うなと職員のアメリカン・ガイに言われていたからな。
コレで炎上は防げるだろう。
「な、何…あの口の悪いイケメンニキが探索者を褒めた…だと!?」
「ミュイとベイツを天才…と言ったのか?
あの性格最悪なミスター・カミシロが?」
「口だけファイターで常に周りを見下すニキが、レジェンドファイター達を自分より優れていると認めたぞ!?」
「う、嘘だ…あんな男では無い…カミシロは他人の才能を認める人間では無いはずだ…」
く、クソ!何だこの記者達は!?
俺の人間性の評価はどれだけ低いんだよ!?
「ああ!クソ!
こうなったら、テメェらの欲しがってるコメントを言ったらぁ!!
ミュイとベイツは天才だが、『S.W.A』の他の3人はゴミだからな!
あと、『カマチョ&ザ・ファミリーストーン』何てど素人集団だからな!
俺が3体まとめて瞬殺したマンティスマン1体相手に全滅とか、何の冗談だよ!?」
言った……ぶちかましてしまった……
その後、俺はメアリーからもWSA職員からも大目玉を食らったのだった。




