80話 ついにあの人とご対面しますけど!? 前編
「へっ!?
俺に面会の申し込み?」
「うん。何でも相手は海外で活躍する世界ランカーの女性探索者らしいけど、どうしよう?
ホテルで密会するだけでウチ経由で10億を振り込むって言ってるけど」
オタパーの姫と一悶着あった翌日、桐斗を託児所に送って雪乃ちゃんと一息付いていると、珍しく姉貴の婚約者兼マネージャーの皆川颯太さんが秘書と共にやって来た。
皆川さんは我が家に来るなり、何やらきな臭い話をした。
「……海外で活躍……女性探索者……世界ランカー……ホテルで密会……
……それって、この間話していた先生じゃないんですか?」
雪乃ちゃんがあり得ない推測を口にした。
「この前も話しただろう?
美優先生は世界ランカーじゃないって。
アプリで最新ランクを見ても『MIYU』なんて名前は何処にも無かったじゃんか」
「どうしてそんなにムキになって否定するんですか?
名前を変えて世界ランカーになってるかも知れないじゃないですか!
あれ以来、美優先生の話を振っても、変に避けようとするし……
……本当はまだ好きなんじゃないんですか!?」
「好きだよっ!!
大好きに決まってるじゃんか!!
あんな豪快で、繊細で、美しくて、厳しくて、優しくて……そんな美優先生を忘れられる訳無いじゃんかよぉっ!!
……俺が美優先生と何としても一緒になりたくて、どれだけ必死に格闘技に打ち込んでいたか分かるか?
遊びたい盛りでも脇目も振らずに練習して!フィジカルを極限まで鍛えて!畑違いのボクシングも学んで!
それだけ夢中になってた夢を……目標を……諦めた時の絶望が分かるのかよ!!
誰よりも愛していた美優先生との誓いを果たせなくなった俺の無念を分かるのかよ!!
……今すぐにでも会いに行きたいよ!
でも、今の生活があって……何より大切な桐斗が居て……愛する雪乃ちゃんがいる……
今更全部を放り出して、もう結婚している可能性が高い先生に会いにイギリスに行くなんて、出来る訳無いだろうがっ!!!」
気付いたら俺は涙を流していた……
「ご、ごめんなさい……」
雪乃ちゃんが悲しそうな表情で謝罪を口にした。
気まずい空気が流れてしまった……
「あ、えーと……この話、断ろうか。
エージェント経由で話が来ていて、先方の詳しい情報を教えて貰えないし……
……その……その方だったら何かさ……雄貴君の気持ち的にさ……」
「……雄貴さん、行って下さい!
そして、もし相手が美優先生で、先生が独身だったら、先生がまだ雄貴さんを愛してるなら、結婚してあげてください!」
皆川さんが空気を読んで、やんわり話を断る流れになった所を雪乃ちゃんが遮って、とんでもない事を言い出した。
「馬鹿な事を言うんじゃない!
確かに先生は忘れられない人だけど、俺は雪乃ちゃんを心から愛してるんだ!
雪乃ちゃんと一緒に幸せになりたいんだよ!」
「は、はぅぅ……嬉しいですけど、皆川さんやマネージャーさんの前でそんなコト……
いや、そうじゃなくて、雄貴さんは最高位探索者じゃないですか。
だから、奥さんが2人いても3人いても大丈夫じゃないですか?
私だって先生の話を聞いて色々不安になったし、嫉妬もしちゃいました……
でも、雄貴さんが先生に目を背けて私と一緒になられるより、私と先生の2人と結婚すれば後ろめたさや後ろ髪を引かれる事なく生活出来ると思うんです」
雪乃ちゃんがいつもの感じに戻って、彼女なりの考えを伝えてくれた。
だが……
「さっきは怒鳴ったりしてゴメン。
雪乃ちゃんが俺の事を考えてくれたのは嬉しいけど、いきなり先生と結婚とか、そんな事は今答えを出すようなモノでは無いと思うんよ。
でも、確かに雪乃ちゃんの言った通り、先生は探索者ネームを変えたかも知れないし、こんな変なオファーを出すのも先生っぽいと言えば先生っぽい……
いつまでも過去から目を背ける事なんて出来ないしな。
皆川さん、とりあえず、雪乃ちゃんも同席して良いなら会っても良いと先生っぽい相手の人に伝えて下さい」
こうして俺は、約9年振りに先生と再会することになったのだった……。
◆◇◆◇◆
「はぁ……何だか緊張して来ました……
私、美優先生と仲良くなれるでしょうか?」
「いや、別に雪乃ちゃんが先生と仲良くなる必要ないじゃないか」
先生との再会の日を迎えた。
俺と雪乃ちゃんは皆川さんの運転する高級車『ロールスレイス バンタム』に乗って、先方が指定した赤羽に向かっている。
赤羽を指定するのも先生らしい。
小5で先生と婚約して、合宿から戻って直ぐに2人で初めてデートした場所が赤羽だった。
正直、赤羽はJKと小学生がデートするような場所じゃ無かったが、美優先生が初めての彼氏とは大国主神社に行きたいと言って初デートしたんだよなぁ……
「いいえ!仲良くなりたいんです!
同じ男の人を愛した同士として、先ずは『雄貴さんを愛してます連合』を作って、雄貴さんをどう攻略するか相談したり、昔の雄貴さんの恥ずかしバナシなんかを共有しないと……」
「頼むから、そんな変な連合は作らないで。
お願いします……」
俺が美優先生との思い出に浸りながら雪乃ちゃんと話していると、本日先生と再会する『ダンジョンパレス赤羽』という探索者御用達のホテルに到着した。
場所は3階の会議室という事で、皆川さんを先頭にしてエレベーターへと乗り込む。
はぁ……いよいよ先生との再会か……どうしよう……何かドキドキして来た……
会議室の前で待っていた先生のエージェントと思われる女性が会議室の前に立っていて、俺達を見るなりノックをして扉を開いてくれた……
この部屋の中に美優先生が……
ドキドキする胸を押さえつつ、俺が部屋に入ると……
「“ああ、ユーキ!!ようやく会えたわ!!
ねぇ、ハグしても良い!?”」
「………誰?」
何か見た事も無いブロンドヘアのチャンネエが席を立つなり何か英語で話して来て、満面の笑顔でこちらに歩いて来た……
肩透かしを喰らって無性にイラついた俺は、ブロンドヘアの外人ギャルに足払いをして思い切り床に転がしたのだった……。




