79話 神城雄貴に焦がれるヤツ 後編
《吉永美優視点》
「ウソ!?弟クン!?
レベリング前にワーウルフを倒したとはどういう事だ!?」
パブに備え付けの大型モニターから聞こえて来たニュースに私は速攻で飛び付いた。
今は性欲なんてどうでも良い。
彼の情報が見たい。
『コレは“ユーキチャンネル”という彼のDLSチャンネルの録画配信の映像だ!!
この映像をニュースで流すのに、ミスター・カミシロに300万ポンドも払ったんだ!
瞬き厳禁だぜぇ!!』
アホ丸出しのキャスターが大袈裟な前振りをした直ぐ後に件の映像が流れた。
それは、日本独自に設けられたJSAという組織が管轄するレベリング時のモノ。
そこには大人になって、以前より更に男前になった弟クンが映っていた……
マズいぞ!!弟クンの顔を見ただけでお股がヤバい事に!!
誰か、この胸のドキドキを止めてくれぇっ!!
冒頭でそんなザマの私は、戦闘が始まって余計に大変な事になった……
「凄過ぎる……あのスピードは間違いなくレベリング前の人間のモノだ……
なのに、何でワーウルフの攻撃を貰わない!?」
弟クンが14歳の頃、ジムでのスパーを何度か見に行った事がある。
あの頃も信じられない見切りから凄まじいカウンターをバンバンぶち込んでいたが、今見ている弟クンはあの時の比じゃない程見切りも早く、体捌きも超一流の格闘家を遥かに凌駕している……
「……カッコいい……」
私は思わず思った事を口にして赤面してしまった。
だが、他の新人探索者を守る為にレベリング前の彼が果敢に闘い、Bランク探索者でも梃子摺るワーウルフを圧倒しているのだ。
雄々しく、それでいて冷静に、あんなハンサムな弟クンが立ち回っている……
レベリング前の人間があれ程の動きが出来るようになる迄、果たしてどれ程の修練が必要か……
彼は格闘家の道を諦めた後も、強くなる修練を欠かさなかったんだ……
私は感動に胸を締め付けられる想いになった。
「ヨォ、ミユーよぉ。
お前なんてどれだけ頑張ってもランキング59位止まりなんだ。
いつまでも一位のマックス・フォルモンドとか言ってねぇで、俺様に抱かれておけ!
な?」
「貴様、邪魔だ!!
……イヤァァァアア!!弟クン、らめぇぇえ!!」
弟クンの動きが悪くなったタイミングで、先程の男がまたしつこく声をかけて来た。
私は邪魔な男の額をムエタイ仕込みの肘でパックリやって退かせたのだが、その瞬間、弟クンがワーウルフの一撃を喰らって吹き飛ばされた。
「もう無理だ、弟クン!早く逃げろ!!」
録画映像だと紹介があったのに、私は我を忘れて、まだ闘おうとするモニター内の弟クンに声をかけた。
『うるせぇ!!
俺は……俺は桐斗の父親だ!!
どんな強敵が相手だろうが………どんな困難に見舞われようが………俺は屈する訳には行かねえんだ!!
俺はいつまでも、桐斗が誇れる父親であり続けなきゃならねえんだよぉっ!!』
直後、モニターの弟クンが発した心の叫びに胸を締め付けられた……
……はぅぅ……か、カッコ良過ぎるぞ、弟クン!!
で、でも、息子さんが居るのか……いや、だが、それもイイ!!
マインドが暴走しまくった私のお股は大洪水になっていて、とにかく色々とマズい状態になっていた。
そして、左腕を潰されているにも関わらず、鮮やかにワーウルフの攻撃を躱して、留めの一撃を放った弟クンの勇姿を見て更にマズい状態になった。
「ダメだ!弟クン以外の男に抱かれるとかは有り得ない!!て言うか、今すぐ弟クンに押し倒されたくて堪らない!!
どうしてくれるんだ、弟クン!!弟クーーーン!!」
パブの床をビチャビチャにする前に叫びながらパブを出た私は、ダッシュで自宅マンションに帰って『ユーキちゃんねる』に登録した。
そして、弟クンの動画で……色々と熱くなったのだった……。
◆◇◆◇◆
「なぁ、ミユーもいい歳だろ?
どーせランキング一位のマックスになんて届きゃしねえんだから、俺とイイ関係になろうぜ」
あれから3ヶ月が経ったある日、WSA UK支局のロンドン支部内エントランスでイライラしながら指名依頼を物色していると、ランキング58位のジョシュアが言い寄って来た。
何故イライラしているのかと言うと、弟クンが全然私に会いに来てくれないからだ。
あれから私は弟クンの事を色々調べた……って言うか、イギリスに居ても弟クンのネット記事はバンバン上がって来るので、彼を追うのは楽だった。
会いに来てくれないのはまぁ、向こうも色々忙しいだろうし何とかギリギリ納得は出来る……
だが、弟クンは現役JDの雪乃ちゃんという、可憐でお淑やかな美少女と婚約しやがったのだ!
「五月蝿いぞ、貴様!!
貴様のせいで弟クンが若い娘に取られたでは無いか!!
はぁ……はぁ……」
「ソ、ソーリー……
"オトートクン"と言うのは良く分からないが、気が立ってるみたいだな。
だが、言った通り君はもう30歳で若くない。
ランキングも59位から上がる事は無いどころか、コレからは下がる一方だ。
世界最強の夢は諦めて、そろそろこのアンディ・ジョシュア様にそのナイスなヒップを委ねても……」
「殺すゾ?
私の尻は貴様如きが触ってイイほど安くは無い。
そもそもランキングが一つ上な程度で上からモノを言うな!」
私はしれっと尻に触って来ようとするジョシュアに向けて殺気を放った。
コイツは大手のクランに所属している後ろ盾でランキングが私より上に位置されただけで、実力的にはSランク探索者と大差は無い。
ビビり野郎のジョシュアは尻を触ろうと伸ばしていた手をピタリと止めた。
こんなアホの相手なんてしてられん。
それよりも、弟クンの事だ!
彼を追いかけて日本に戻るか?
いや、だが、日本は探索者の質が低い上に、弟クンの大活躍でダンジョン異常が発生しなくなった。
世界ランカーも80位代を燻っているKOZIしか居ないし、日本のクランはBランク以上のダンジョン攻略に取りかかろうとしない。
低レベルな環境に身を置いても、私の世界ランキングが50位以内に入る事は無いだろう。
クゥ……下手に弟クンの逞し過ぎる身体を味わってしまっただけに、日々弟クン動画を見て慰めるしか無い私は生殺し状態だ!!
こんなにお股を洪水にし続けるくらいなら、いっそあの時、弟クンに抱かれなければ良かった……イヤ!全然良くない!!
あんなに天にも昇るような極上の幸福感と凄まじい快感を味わえたのだ!!
あの時の判断に一片の悔いなし!!
だが、どうする?このままでは私は自分を慰め過ぎて廃人と化すやも知れぬ!!
「おい!WSAが世界ランキングを更新したぞ!
デビューしたばかりのジャップが2人もランキング入りしやがった!!」
私が思考のループに陥っていると、エントランスにいた名も知らぬ探索者がスマホ片手に騒ぎ出した。
場を同じくしていた他の面々もスマホを見てザワついている。
私も最新ランキングが気になって、WSAアプリを開いた……
「ウソ!?弟クンが27位に入ってる!?
……ハッハッハッ!凄いじゃないか!弟クン!!」
私はアプリに表示されたランキングを見て思わず笑ってしまった。
デビュー僅か4ヶ月でランキング27位なんて前代未聞だ。
しかも、彼と同じパーティーの雪乃ちゃんと彩音ちゃんもランク入りしている。
私は残念ながら61位に落ちてしまったが、そんな事はどうでも良い!
弟クンと同時期にデビューした雪乃ちゃんまでランキングしたという事は、弟クンは短期間で強くなれる秘訣を持っているという事だ!!
私は日本にいても世界ランキングが上がる可能性がある!!
「良し、変なプライドは捨てて弟クンに抱かれに行こう!」
雪乃ちゃんも彩音ちゃんも若くてメチャクチャ可愛いが、私もレベリングの影響で、初めてダンジョンに潜った21歳から殆ど老化していない。
今でも毎日最低5人の男からベッドに誘われるし、私のファンクラブを作っているロンドンの探索者もいる程だ。
今の私こそが最高の抱かれ時まである!!
例え3番目の妻でも良いから、弟クンにこの極上ボディをメチャクチャにして貰おう!!
思い立った私は席を立ち、WSAから出て行こうとドアノブに手をかけた。
「おい、ミユー!
まだ話は終わってねえ!勝手に出て行くんじゃねえ!!」
クソッ!人がせっかく迷いを吹っ切ったというのに、ウジ虫ジョシュアがしつこい!
だが、ここで取り乱してトラブルを起こすと出立が遅れるかも知れん。
クールに対応しよう。
「済まんな。急用が出来たんだ」
「そんなに急ぐような事じゃねえんだろ?
コッチに来て俺の話を聞けよ!」
「フッ、悪いな。
私はこれから世界一の男に抱かれる為、日本に帰らなくてはならないんだ」
「ハァ?ランキング一位のマックスはアメリカだろ?
日本はザコの巣窟だろうが。
日本人のザコに抱かれるくらいなら、俺様が抱いて……」
「日本人を馬鹿にするな!
……フッ……弟クンを舐めるとか、本気で殺してやろうか?」
私は思わずジョシュアに殺気を向けた。
今回のランキング更新で98位に転落したジョシュアは思い切り怯んでいる。
「フッ、私如きの殺気で怯むとは話にならんな。
日本の“ユーキ・カミシロ”を覚えておけ。
間違いなく世界一になる男だ……
……そして、私のこの極上のカラダを好き放題に抱ける唯一の男だ!」
私はクソみたいなジョシュアに声高らかに言い放つと、今度こそWSAの建物を後にした。
フフフ……弟クン、君の事を考えるだけで、迂闊に椅子に座れぬ程にお股が大洪水になるのだ……この責任は取って貰うよ?




