幕間 小さな恋のメモリー 中編
「ちぇー、クソ痛えでやんの」
「ははは、あんだけコズエを悪く言ったんだ。
2〜3発は当然だろ?」
姉貴のトレーナーのタニシのオッサンに密告された俺は、案の定姉貴にグーパンで殴られた。
タニシのオッサンは止める事もしなかった癖に、ヘラヘラと笑ってやがる。
「つーか、ユーキよぉ。
お前さん、スリッピングアウェイなんていう高等技術を何処で身に付けた?」
「ん?スリッピングアウェー?
何だソレ?」
「パンチの威力を殺すテクニックさ。
さっきコズエに殴られた時、ワザと上体を逸らしながら首を捻ってただろ?」
「そりゃ、当然だろ?
姉ちゃんの拳は鈍器みてえだもの。あんなので殴られたら殺されるもの。
躱したら余計にムキになるし、首を捻ってダメージを減らすしか無いだろ?」
俺は姉貴との喧嘩で身に付いたディフェンステクが結構ある。
7歳からムエタイをやってる姉貴の身体は凶器だ。
ローキックだってちゃんとカットしないと足を折られてしまう。
「ちょっと待て。
お前さん……コズエのパンチを躱せるのか?」
タニシのオッサンはそんな大袈裟な事を言った。
って言うか、当時の俺の周りは結構大袈裟な事を言うヤツが多かった。
『天使のように可愛い』とか『美少年』といった容姿を褒められたり、姉貴の周りの格闘技関係の人からは『センスの塊』だの『体の使い方が凄い』だの『子供のパンチ力じゃない』等々。
子供だからそう言って煽ててくれていたんだろうが、当時の俺は子供扱いされているみたいで余りいい気分はしなかった。
「は?そんなの当然だろ?
今まで姉ちゃんに何発殴られて来たと思ってんだよ。
姉ちゃんは殴る時も蹴る時も、こうグッとするから躱そうと思ったら躱せるさ」
「マジかよ……おい、コズエ!
ユーキにムエタイ教えて良いか?」
タニシのオッサンは急にとんでもない事を姉貴に問いかけた。
こんなガキにムエタイを教えると言うのだ。
「は?何言ってんの?
タニシさん、私のトレーナーでしょ?
遅れて来た分、午後はみっちりミット持って貰うんだからダメよ」
「だが、ユーキは天才かも知れねえんだ!
コイツは凄え選手になるかも知れねえ!」
「ほう、弟クンはそんなに凄いのか?
ならば、私が指導しようじゃないか」
タニシのオッサンは日陰でサンドイッチを食べていた姉貴に問いかけたが、姉貴は速攻で却下した。
代わりに名乗りを上げたのは、何と美優先生だった……
◆◇◆◇◆
ズバンッ!!
「す、凄いな、弟クン……
子供のパンチじゃないぞ」
昼飯の後、我々一行はちゃんとしたトレーニング施設に移動して、そこで各々がガチな練習を始めた。
俺は美優先生にバンテージを巻いて貰い、姉貴の見様見真似で美優先生が構えるミットに右ストレートを打ち込んだのだが、パンチを受けた美優先生もまた大袈裟な事を言って来た。
「良し、先ずは徹底してパンチを鍛えようか。
今から鍛えれば、弟クンは世界王者になれるだろう」
「美優先生も俺を子供扱いするんだもんな!
俺はもう大人だぞ!大袈裟に煽てないでくれよな!」
「いや、煽ててる訳じゃ…
まぁいいさ。
ホラ、もう一回右ストレートだ!」
俺はその後、10ラウンド程ミット打ちをした。
美優先生は拳を心配して1ラウンドで終わらせようとしたようだが、俺は生まれ付き拳や手首が頑丈なようで、ヒリヒリはしたものの10ラウンド打ち続けられた。
「ねえ、何で美優先生は建物の中でもあんな変な水着を着ているんだ?」
小休憩中、俺は姉貴に気になっていた事を質問した。
ビーチでヒモ水着を着るのは分かるが、室内は適度にエアコンが効いている。
あの格好では下手すると風邪を引くのではと思ったのだ。
「ああ、アレは先生のスポンサー会社が作った水着らしくて、トレーニング中はアレを着て動いている所をアソコにいるカメラの人が撮影してんのよ。
どーせ、どっかのエロジジイの差し金でしょ。
ホント、男って弱いくせにスケベだし、サイテーの生き物ね」
「何で俺を睨むんだよ!
俺はエロジジイじゃないんだからな!」
「アンタもどーせ、将来エロジジイになるわよ。
でも、美優先生が我慢してあんなエッチな水着を着てくれてるから、こんな立派な施設を使わせて貰えるんだけどね……」
その時俺は美優先生が痴女ではない事を知った。
いや、我が身を恥に染めてまで他のムエタイJKやアマチュアの姉貴の為にスポンサーを繋ぎ止めているのだから、寧ろ痴女では無く聖女だろう。
「神城、私は弟クンのミットで汗をかいてしまったから、軽くシャワーを浴びて新しい水着に着替えて来る。
暫く離れるが、練習を続けてくれ」
俺は美優先生の慈愛に感激していると、先生はシャワーを浴びると言って訓練場から出て行った……
お着替え&シャワー……?……コレは是が非でも見たい!
いや、そうじゃないんだ。いやらしい意味じゃなく、良い意味であの未知の技術が駆使されたヒモ水着をどのように着脱するのか見てみたいという知的好奇心の芽生え的なソレだ。
何しろあんな水着は一時世界最先端の魔導具技術を誇ると言われた旧『蜷川コーポレーション』ですら再現不可能だろう。
つまり、俺はそう言った知的好奇的なアレで、こっそりと美優先生の後を尾けた。
案の定、自室に戻って着替えやタオルを持った先生は女子シャワー室へと入って行った。
女子シャワー室……コレは小5の俺でも分かった……
覗いたりしたら犯罪だと……
しかし、未知の技術に触れたかった俺は、コッソリとシャワー室のドアを開けた。
此処で想定外の言葉が起きる。
てっきりロッカールームで水着を脱いでシャワーの付いている個室に行くのかと思いきや、美優先生は着替えをロッカーに入れた後、水着のままでシャワー個室へと入ったのだ……
コレは諦めるしかない……いや、諦めたらそこで10カウントというのは格闘技界の常識だ。
俺の知識欲は誰にも止められねえゼ!!
俺は美優先生が入った個室の隣のシャワー室に入り、美優先生側の壁にジャンプ一番飛び付いた。
ここのシャワー室は幸いな事に壁が天井まで付いて無い。
俺は天井付近の隙間に手を掛け、自慢の腕力で自らの体を引き上げて見せた。
さて、美優先生のヌード……じゃなくて、あの水着を脱ぐ所を拝ませて……
「……弟クン、ノゾキとは感心しないな」
や、ヤベェ!美優先生に見つかった!!
ズテーーーン!!
「い、イテテテ……ヤバっ!早く逃げな……」
「ノゾキ犯が何処に行くつもりだ?」
見つかった事に動揺して壁から落ちた俺が慌てて逃走を試みるも、既にシャワー室の出入り口には美優先生が仁王立ちしていた。
オワタ……俺の人生オワタ……小5でサツタレされてマッポに捕まるなんて……親父殿と母ちゃんが泣くな……いや、その前に姉ちゃんに殺される……
「ち、違うんだ!俺はノゾキじゃなく、先生を……
先生を俺のお嫁さんにしてやるって言いに来ただけなんだ!!」
タイーホされたくない俺は咄嗟に言い訳を口にした。
何故、嫁にしてやると言ったのかその時は分からなかったが、この時俺は美優先生に恋心を抱いていたんだ。
「ふふ、美少年の弟クンが嫁にしたいと思って貰えるなんて、私も捨てたモノでは無いらしい……
だが、生娘の裸を覗こうとするような姑息な男の嫁になど、誰がなるモノか!!」
「ガビーーーン!!ひ、酷い……一世一代の告白だったのに……」
俺は盛大に落ち込んだ……効果音を敢えて口で言う程落ち込んだ……
ある意味、サツにパクられるよりもショックだった……
「ははは、そう落ち込むな。
私は覗きなんてするなと言ったのだ!
素直に頼めば、私の裸くらい幾らでも見せてやる!」
「え!?ほ、本当に!?」
「弟クンは私を嫁にしてくれるのだろう?
将来の旦那様になら、裸くらいお安いご用だ」
そう言うと、先生はヒモ水着の所々に付いている輪っかをパチパチと外し、しゅるりと紐水着を脱いだ……
恐ろしく綺麗でど迫力なパイオツだった……一流の彫刻家でも再現不可能な圧倒的に美しい身体だった……
ズテーーーン!!
俺はショックの余り大量の鼻血を出して失神し、シャワー室の床に大の字に倒れたのだった……




