72話 ダチのレベリングを手伝いに来たハズですけど!? 前編
「どうも〜!タッキーで〜す!」
「やぁ、諸君。『ガチ勢』荷物持ちの神城雄貴だ」
「ちょっ、何で俺だけ変な挨拶させて自分はしれっと普通の挨拶してんだよ!
あっ、今のは違くて……ああぁ!
取り敢えずこれから横浜の旭区ダンジョンでレベリングして来るんでヨロシク!」
色々とお腹いっぱいの午前中を乗り切った俺と藍口君は、中華街で軽くメシを食ってから旭区ダンジョンへとやって来た。
今はダンジョン入口で藍口君のチャンネル生配信をスタートしたんだが、冒頭の挨拶で藍口君がギャンギャン言い出した。
先日の訓練配信の時に2人で打ち合わせた漫才の出だしのような挨拶を敢えてスルーしてみたらオモロいかと思ったんだが、藍口君はその手のユーモアはお気に召さないようだ。
《藍口君もゲリラ配信癖がついとるwww》
《ニキに完全に毒されてて草》
《おい待て待て!横浜の旭区ダンジョンってBランダンジョンだろ!》
《藍口君を辱めるイケメンニキ最高!》
【¥50,000:木元めぐみ:竜樹サマ愛してます❤️】
《まだレベリング前のひよっこがニキとコラボとか嫉妬に狂いそう》
《Bランダンジョンでレベリングとか草しか生えねえwww》
《“アイグチ、今ならまだ間に合う。サンクトペテルブルク五輪でボクと対戦してくれ!”》
お、告知無しで配信したのに既に同接が1万を超えてるゾ!
何書いてるのか分からんが英語のコメも来てるし、流石元ゴールドメダリストだ。
注目度がパンピーとはダンチだな。
「ああ、そう言えば前のトレ配信のコメ欄で多かった質問が、俺と神城君の関係性についてなんだけど、今の内に語っても良いかな?」
「ああ、別に良いけどもっと人が集まってからの方が良いんじゃない?」
「いや、あまり大事にしたくないから同接が少ない方が良いんだ。
ええ、今から8年くらい前かな。
当時神城君が高校生で俺が大学の頃に、ボクシングスパーで神城君にボコボコにやられたんだよね」
「いや、ボコボコにやられたのは俺だろ?
俺が1RでKO負けしたんだし」
《は!?藍口君をボコボコに!?》
《イケメンニキってガチボクサーだったのか!?》
《ニキがKO負けとか胸熱なんだけど!》
《スポーツ紙の一面になるニュースを生配信開始直後に話すとか草www》
《どっちもボコボコってマジか!》
《“ゴールドメダリストとIKEMEN=NIKIがスパーリングをしたと言ったのか!?”》
《映像とか残ってないの?》
【¥100,000:『スポーツ放置』太田五郎:最高のネタをありがとうございます!明日の一面にします!】
《ニキと藍口のスパーとかトーキョードームが満員になるんじゃね?》
《当時の再現ヨロ》
《既に記者が入り込んどるwww》
何だ?大した話でも無いのに視聴者の食い付きがハンパないぞ?
黒歴史だから封印したかったんだが。
「いや、最後のKOパンチは完全にラッキーパンチだったし、俺とスパーやった時の神城君ってボクシング歴たった1ヶ月だったんだろ?
小学生からボクシング一本でやって来た俺が生涯初ダウンを奪われてタコ殴りにされたんだから、あのスパーは俺の負けだよ。
金メダル獲得後にリベンジしたい相手として名前を挙げた『カミヒロユウヒ』君も、君の名前を間違えて覚えてただけだしね」
「うわ……めちゃくちゃ持ち上げるやん。
皆んな、藍口君は謙虚過ぎるから俺を立ててくれてるだけだからな!」
《明日の全スポーツ紙の一面確定!》
《やべえぞ!『カミヒロユウヒ』がニキだったとかヤバ過ぎる!》
《謙虚な竜樹様が尊過ぎる❤️》
《タイプの違うイケメン同士が学生時代にライバルだったとかアニメの世界みたいだな》
《“アイグチに敗北を与えたのがNIKIだとは思わなかった”》
【¥1,000,000:牌乙愛美:ユーキ様、お願いですからSNSのブロックを解除して下さい!】
《不世出の天才ボクサーが負けを認めるとか、イケメンニキは伝説級のボクサーだったんだな》
《ニキって学生時代から強かったのかよ》
《【悲報】奇跡のJカップグラドルの牌乙愛美サマ、ニキにブロックされていた【ストーカー女子】》
あ〜あ、コメ欄が『ガチ勢チャンネル』並にゴチャついてしまったよ……
俺とのコラボは『タッキーちゃんねる』にとってマイナスでしか無いかも知れんな……
俺は今後の藍口君との絡み方をどうすれば良いか考えながら、レベリングに同行するのだった……
◆◇◆◇◆
「ブルーリザードマンはこの立ち位置だと棍棒を振って来る予備動作が大きくなるから躱し易いんだ」
「なる程、確かにそこだと予備動作が心無しか大きくなっているみたいだね」
《何が予備動作なのか分からんのだがwww》
《藍口君と話しながら躱しまくるの草》
《レベリング前なのにイケメンニキと魔物の動きが目で追えてるの草www》
《棍棒を躱され過ぎて魔物が息切れしとるwww》
《普通はタンクが盾で受けるヤツ》
【¥3,000,000:『無双三連星』:兄貴、藍口さん、勉強させて頂きやす!押忍!】
《ニキが矢鱈と使う予備動作が一般人には理解不能な件》
藍口君は小ボス部屋でレベリングをする為、道中魔物との戦闘は俺が引き受ける形で進む事にした俺達。
せっかくだから道中のCランク魔物のブルーリザードマンの有利な立ち回りを藍口君にレクチャーしているんだが、相変わらずコメ欄が喧しい。
俺はスパチャをくれた『無双三連星』に軽く礼を言うと、コメ欄は極力見ないようにして集中力を乱されないように進む事にしたんだが……
「キャア、ユーキ様がウチのパンチラを見てるんだけど!」
「違うわ!私のお尻を見てるに決まってる!」
「藍口サマはアタシのビキニアーマーに釘付けみたいね」
「駄肉女が何ほざいてんの?タツキ様は絶対マミの美脚を見てるんだから!」
自意識過剰系の女性パーティーが俺らの前でキャアキャア騒いでやがる……
勘違いしないで欲しいんだが、俺は断じてパンチラやお尻を見てはいない。
どちらかと言うと俺は肉感的なビキニアーマーのコに目が釘付けで、藍口君はパンチラしているコに目が釘付けになっている。
ともあれ、横浜の探索者を舐めていた俺が馬鹿だった。
横浜は市内に3ヶ所ダンジョンが有って、旭区ダンジョン以外は桜木町ダンジョンがEランク、保土ヶ谷区ダンジョンがDランクとなっている。
Bランク以上の探索者が多い大都会東京ですら、Bランク以上のダンジョンは敬遠されがちで、主にCランやDランダンジョンを周回して稼ぐ探索者が多い。
自分と同ランクのダンジョンは当然命を落とすリスクが高くなるので、実入の良い指名依頼が来るのを待つというのが殆どなのだ。
東京と比べて横浜の探索者の何と逞しい事か。
小ボス部屋に向かうルートにパッと目に付く限り、我々の前方には4組程の探索者パーティーがいる。
おかげで進むのが遅くなっているが、それ程急ぐ事でも無いのでのんびりビキニアーマーの女性を眺めているとしよう。
《Bランダンジョンなのに何か探索者多くね?》
《ニキと藍口君目当てで凸したんじゃね?》
《ニキと藍口君の視線が前方の女に釘付けで草www》
《コラボや救援でもないのにダンジョンアタック中の他パーティーに凸するのはJSAの規定違反だから、Bラン以上のパーティーはそんな違反行為はしないと思われ》
《Bランダンジョンが繁盛してて草》
《他のパーティーが入らないように距離を開けた方が良い》
《皆んな知らんの?昨日横浜の地域板に旭区ダンジョン3階層で隠し部屋が見つかったってレスが複数あって、早朝から宝箱目当ての探索者が県外からも押しかけてるんよ》
コメ欄に面白そうな情報が寄せられたので、俺は速攻で手持ちのスマホでDLSアプリを開いた。
確かにローカル板の横浜スレに3階層に隠し部屋が見つかったが、中にいるハーミットオーク3体が邪魔で部屋奥に置いてある宝箱に近づけないらしい。
ハーミットオークは確かかなりレアなBランク魔物で、直接的な攻撃力はBランク相当だが、かなり厄介な幻惑魔法を使って来る。
幻惑魔法で連中の正確な立ち位置も分からない為、遠隔攻撃も難しい。
近くに宝箱があるなら広域殲滅魔法も使えない。
なる程、早朝から多くの探索者が訪れて、この時間まで宝箱の中身がゲットされていないのはそういう事か……
そんな事を思っている今も、俺達の後ろに別のパーティーがやって来た。
男女4人組の彼等も宝箱目当てのようで、ワイワイと騒いでいる。
今居るのは2階層だから、あと2時間もすればこの渋滞を抜けられるだろう。
そこから5階層の小ボス部屋までは藍口君を背負って全力ダッシュをすれば問題ない。
「ちょっと道を開けてくれぇ!
エリナがやべえんだ!!早く病院に連れて行かねえと!!」
皆んながワイワイしている中、前方から切迫した感じの大声が響いて来た。
モーゼの樹海のように人集りが割れて行き、中央を1人の男と3人の女が歩いて来る。
3人の女の内、真ん中の女がやたらと顔を上気させて、ハァハァとけしからん吐息を漏らしながら内腿を擦り合わせるようにしている……
アレは、ハーミットオークの例の幻惑魔法が直撃したのだな……
そう。ハーミットオークの厄介な幻惑魔法とは、超強力な催淫効果があるのだ。
特に女性への利き方は尋常じゃ無く、下手するとハーミットオークの苗床にされてしまうという都市伝説さえある。
ダンジョン魔物が女を苗床にするとかは同人誌とかで散々擦られたアレなので、只のネット上のデマかと思っていたが、あの女性のハァハァ具合と内腿を何かしらの液体が伝っている所から見るに、強ちデマとは言い切れないと感じてしまうな。
因みに、ハーミットオークから極稀にドロップされるという『ハーミットジェル』はダンジョン禁制品に指定されている。
その効果は……言わなくともお分かりだろう……
場にいる男達(藍口君を含め)がだらし無く鼻の下を伸ばす中、紳士の鑑と名高い俺は全く動じる事なく彼等の方へと進む。
《めちゃモッコリしとるwww》
《ニキがモッコリしながら歩くの草》
【¥1,000,000:澤聡美:ユーキ様の崇高なモッコリへのお布施です❤️】
《“オー、ジーザス……ハンサムなだけじゃなく、ナニもデカいのかよ……”》
《雪乃ちゃんに言いつけるぞ、この野郎!!》
【¥5,000,000:『無限天領』YUNA:はぅぅ…ユーキ様のモッコリが漢らし過ぎますぅ……】
《ニキって動き易さ重視の軽装備だからモッコリがバレ易いんよな。ミスリルの全身鎧とかにすればバレないのに》
《ニキのモッコリにお布施が投げられたwww》
《YUNA様がニキのモッコリに毎回反応するの草www》
《【悲報】ニキのモッコリの収入がワシの年収を超えた…【圧倒的敗北】》
クッ、コメ欄なんて無視じゃい!!
確かにエロけしからん雰囲気ムンムンで、うっかり下半身は反応したかも知れん。
だが、冗談抜きであの幻惑魔法は早目に一本数億の最上級万能ポーションを飲ませなくては、エロ過ぎる妄想に脳がやられて廃人と化してしまう。
「突然失礼、彼女にコレを飲ませてやれ!」
「え?あ!ウソ!イケメンニキ……
あ、でも最上級万能ポーションなんて払うお金が…」
「金の事は良いから、早く彼女に飲ませろ!」
俺は突然の事に驚くパーティーリーダーっぽい男性に、【アイテム・ボックス】から取り出した最上級万能ポーションを渡した。
男性は何度も頭を下げて礼を言うと、けしからんムードを周囲に撒き散らす女性に最上級万能ポーションを飲ませた。
ふぅ……コレで少し体を休めれば彼女は大丈夫だろう……
「なぁ、どうして無茶をするんだ?
彼女の状態を見るに、かなり至近距離から幻惑魔法を食らったんだろ?
皆んな一応は状態異常耐性の付与されたブレスを嵌めてるようだが、300万程度の装備ではハーミットオークの幻惑魔法を防げないのは分かっていたハズだ」
俺は女性の様子が落ち着いたのを確認してから、リーダーらしき男性に問いかけた。
「い、いや、でも、あの部屋の宝箱はブルーシルバーなんです……」
ダンジョン内の宝箱はその見た目によって中身の大まかな区分けがされている。
彼の言うブルーシルバーはスキルスクロールが入った激レア宝箱だ。
《ブルーシルバー!!それは浪漫しかない!!》
《ブルーシルバー宝箱は戦闘スキルのSR以上確定だから無茶もしたくなる》
《死んでも欲しいヤツじゃん!》
《最低のSRスキルだったとしてもオークションで億以上だもんなぁ》
《どっかのバカが広域殲滅魔法をぶっ放さない事を祈る!》
《掲示板でも色までは情報が無かったな。コレは旭区ダンジョンに探索者が大挙しそう》
《俺は今からシータクに乗って向かうぞ!》
ふむ、今の情報を生配信したのはまずかったか……
余計な混乱を生まない為にも俺が人肌脱ぐか……
「済まないが藍口君、生配信を中断してくれ。
それから、今列に並んでいる探索者諸君も生配信しているヤツは全員中断してくれ!!
前の方のパーティーにも3階層への階段前のセーフゾーンに集まるよう伝えて欲しい!!
俺から破格の提案がある!!」
俺は大声で場に居る探索者達に呼びかけた。
多少ザワザワしたものの、俺の周りの探索者達は指示に従ってくれた。
30分程で3階層に並んでいた連中も集まってくれたので、俺は皆に聞こえるように声を張り上げた。
「良いか!この中のパーティーでJSA横浜営業所に所属しているパーティーのリーダーは挙手をしろ!」
俺の呼びかけに対して手を挙げたのは15組のパーティーの内7組のリーダーだった。
念の為に探索者証を確認した所で、俺は7人のリーダーに前に出て貰って提案をする。
「これから俺が隠し部屋のハーミットオークを瞬殺する。
宝箱はこの中でくじ引きをして当たりを引いたパーティーに譲ろうと思うが、どうだろうか?」
「ちょっ、それはズリぃだろうが!
俺らは朝から並んでたんだ!横浜所属じゃないからってそりゃねえだろ!」
「そうだ!そんなのはSSランク探索者の横暴だ!」
「断固抗議しますから!」
俺の提案に反発したのは案の定、横浜以外から来た連中だ。
見ると、1組以外は『暁月』の認定バッジを付けてない。
「君らの殆どは『暁月』にすら話を通していないようだが、JSAには申請を出したのか?
宝箱関連は地元を管理しているJSA営業所への申請が義務付けられているが」
そう。宝箱というのはレア度が高い銀以上のモノは今回のように取りに行くのが条件的に困難な場合が多く、発見されても暫く開けられない事はザラである。
余所の探索者に地元ダンジョンのレアアイテムを掻っ攫われるのを黙認しては、その営業所の湖圏に関わる上に、所属探索者に見限られかねない。
ただ、実際は宝箱のレア度が高い程無断でレア宝箱を取りに行くヤツが多いのが現状だ。
そもそも、その規則を知らないヤツすらいる。
話は逸れたが、案の定他所から来た連中は『暁月』に申請した一組以外、横浜営業所の申請を得てなかった。
「俺も横浜営業所には藍口君のレベリングの申請しかしていない。
だから、隠し部屋の宝箱の障害だけ取り除いて、クジに当選した地元探索者に宝箱を取って貰う。
無論、彼等に金なんて請求しない。
俺はタダでツユ払いをするだけさ。
それが今まで地元を命懸けで守って来た彼等に対して通すべきスジだと思うけど?」
俺がビシッと理屈を捏ねると、不満を述べていた連中は一斉に押し黙った。
ククク……正義の屁理屈は強いのだよ……
俺は悪い笑みを浮かべながら余所者共にお帰り頂き、くじ引きの段取りをするのだった。




