71話 怪しい話を聞かされたんですけど!? 後編
「ふぅ……マッポの犬が去った所で本題に入ろうか」
色々とやらかした感のある公安警察の倉月が出て行った後、時雨はニヤニヤした表情から真顔になって本題に入ると言い出した。
正直、色々と聞き過ぎてもう既にお腹いっぱいなんだが……
「神城君、『蜷川コーポレーション』は『ディアブロ』が絡んでいる可能性が出て来たワケだけど、差し当たってコレからどうしたい?」
「う〜ん、でもまだ確定じゃないだろ?
高里の部屋で見つかった強請のネタも、『蜷川コーポレーション』とは無関係かも知れんし。
なんで、取り敢えずは今まで通りの生活をするかな」
俺は時雨の質問に対し、今感じている事を誤魔化さずに伝えた。
「いや、アレは『蜷川コーポレーション』の悪事の証拠で間違い無い。
USBに入っていた金の流れのデータに、吉賀が偽名で作っていた幾つかの口座情報が残っていた。
更に、『エピノロロジウム』なんて危険な橋を渡る企業なんて、そんなにゴロゴロいる訳がないからね」
「そ、そうか……でも確定じゃないだろ。
誰かが『蜷川コーポレーション』を陥れる為に……」
「オイ!ヤツらを連れて来てくれ!」
俺がそれでも時雨が教えてくれた情報を怪しんで反論しようとすると、時雨が誰かに大声で呼びかけた。
直後、部屋の壁際に設置していた大きな飾り棚が、ゴゴゴと音を立ててスライドした。
俺と藍口君が呆気に取られていると、KOZIさんと爽やか好青年が顔面をボコボコに腫れさせて後手に縛られた3人の男を連れて部屋に入って来た。
爽やか好青年の方はテレビで何度か見た事がある。
彼はメディアへの露出が極端に少ない『暁月』で唯一の有名人にして『暁月』不動のエース。Sランク探索者の桜井啓介さんだ。
「おう、神城、藍口!この間は世話になったな。
教えて貰った踏み込みと魔力操作の練習を毎日やってるぞ!」
「あ、コーズィさん、おはようございます。
コーズィさんからレクチャーして貰った剣術の基礎練をトレーニングに取り入れてます。
ご指導ありがとうございました!」
「コーズィさん、こちらこそお世話になりました。
俺もコーズィさんに教えて頂いた構えと素振りをアレから毎日取り入れさせて貰ってます!」
KOZIさんが和かに声をかけてくれたので、俺と藍口君は立ち上がって先日のお礼を返す。
最初に絡んで来た時は『漢気凸』の為に相当無理をしてキャラを作っていたようだが、素のコーズィさんは一見厳しそうに見えて物腰が穏やかな好人物である。
「2人とも、露骨にボクと対応が違うじゃん」
「いや、当然だろ。お前は一見ヘラヘラしているが、目はいつも笑ってない。
何考えてんのか分からんから警戒したくもなる。
あ、そちらの方はエースの桜井さんですよね?
初めまして、『ガチ勢』荷物持ちの神城雄貴です」
「桜井君、初めまして。
藍口竜樹といいます。
『スーパーゼットアルファゴールド』のCM、めちゃくちゃカッコ良いですね」
俺と藍口君は不満顔の時雨を適当にあしらって、桜井さんに挨拶をした。
藍口君の言う『スーパーゼットアルファゴールド』はゼリー状のグニュグニュしたバランス栄養食だ。
確かに、戦闘シーンからビタミンとカロリーをチャージする桜井さんは絵になっていてカッコいい。
「ははは、国民的スターの藍口君に褒めて貰えて嬉しいよ。
神城君、藍口君、初めまして。
『暁月』で人柱にされている桜井啓介です」
「桜井君、人柱とか誤解を招く言い方はやめてよ〜」
「だって、実際そうでしょう?
リーダーが圧倒的にイケメンなんだから、リーダーがCMやメディアに出るべきなのに」
爽やかな桜井さんはほんのり眉を顰めた表情で時雨に不満を述べたけど、そこまで関係性が悪くは無さそうだ。
KOZIさんのような侍魂を宿す真の漢も時雨に一定の敬意を払っているようだし、そこまで悪い人間では無さそうだな。
「う……ま、まぁその話はまた後にしよう。
さて、この縛られている連中だけど、コイツらは一昨日、神城君の元奥さんが入院している治療施設の周りを彷徨いてた暗殺者共だ」
「は!?瑠奈が入ってるあの治療院か!?
ていうか暗殺者ってどういう事だ!?あの施設の敷地はタテイシ・ラミレスが手配したBランク以上の元探索者が24時間体制で警備しているハズだろ?
大体、何で『暁月』が瑠奈を守るんだ?」
時雨の言葉に困惑した俺は、思わず声を荒げてしまった。
暗殺者が差し向けられるのはある程度予想済みだが、施設内をウロチョロ出来る程警備体制はぬるくないハズだ。
それに、何故『暁月』が瑠奈を守るのかが分からない。
「あ、安心して。
ソイツらは施設内に入った訳じゃなくて、離れた場所から施設の様子を伺っていただけだから」
「そ、そうか…でも、何でそんなヤツらから瑠奈を守ってくれたんだ?」
「コレは他言無用でお願いしたいんだけど……
『暁月』の幹部の大半はダンジョン犯罪で大切な家族を奪われているんだ……
当然、ボクもね……
ボクらが殆どメディアに出ないのも、ダンジョン犯罪に手を染める連中に顔が割れないようにする為なんだよ。
キミの元奥さんを守ったのは、朧と儚を逮捕してくれたお礼みたいなものさ。
ボクは大事な妹を……結衣を……エピノロロジウムでラリったクソゴミ野郎に殺されてるからね……」
時雨の悲痛な表情は演技とはとても思えない。
彼の話は本当なんだろう。
「……そこのクズ共は吉賀の子飼いの暗殺者だ。
例の【看破(極)】持ちの変態クンが調べたから間違いない……それに……真ん中の坊主頭は高里殺害の実行犯の1人だ」
「何!?本当かよ!?
じゃあ、何で公安の倉月がいる時にコイツらを突き出さなかったんだ!」
「あんな無能なイヌ野郎共に何が出来るんだ!!!
アイツら公安がエピノロロジウムをしっかり取り締まってくれていれば、結衣は殺される事が無かったんだぞ!!!
KOZIさんの奥さんも、桜井君の母親も……
済まない……ボクがキミに接触した理由はさっき言った通り、公安の無能どもが長年尻尾を掴めなかった『蜷川コーポレーション』を壊滅してくれたお礼が言いたかったんだ。
本当に……本当にありがとう!神城君!」
時雨は目に涙を溜めながら深々と頭を下げた……
「……それともう一つ……ボクらは『蜷川コーポレーション』のウラで手を引いている連中も暴くつもりでいる。
恐らくそれは『ディアブロ』だと思う。
一筋縄で行くような相手じゃ無いし、キミの力が必要になるかも知れない……
その時が来たら……どうか、どうかその力を貸してくれないだろうか!?」
「……分かった……と言いたいが、俺はお前の3日前の態度が引っかかった。
礼を言いたいなら、何故俺の背後を取ったり脅しをかけるような事を言った?」
「それはキミが『蜷川コーポレーション』の連中やその関係者に命を狙われると思ったから、先に忠告をしたかったからだね。
実際に会ったキミはお人好し過ぎると感じた。
非道な連中は手段を選ばずに報復して来る。特に『蜷川コーポレーション』はタチが悪過ぎるんだよ。
朧や儚のように市街地で戦闘スキルを使って人を殺す事を微塵も躊躇わないヤツらが多いんだ。
だから、キミに警戒されるのを覚悟した上で、敢えてああいう行動に出たんだ」
ふむ、確かに時雨の言う事に嘘は無い。
念の為に【極細鑑定】を使ったが、コイツの話に嘘は無い事が分かった。
変に取り繕っているヘラヘラモードの時雨は好きになれないが、本音を晒している今の時雨は好感が持てる。
「うん。そういう事なら『暁月』と協力関係を結ばせて貰おう。
それと、瑠奈を守ってくれてありがとな!」
「あ、ありがとう!神城君!!
ボクら『暁月』もキミの大切な家族に危険が及ばないよう、最大限の協力を約束するよ!」
俺はこうして『暁月』と協力関係を築く事になった。
この事が後に世間を騒つかせる事になるとは、この時の俺は思ってもみなかった……。




