69話 怪しい話を聞かされたんですけど!? 前編
トレーニングコラボ配信の3日後、俺は雪乃ちゃんと一緒に桐斗をセレブ限定託児所に送った後、藍口君と合流して一緒に横浜へと向かっている。
因みに、雪乃ちゃんは夏休み前最後のテストが有るので、お嬢様女子大に行っており、彩音は『千人羽織』だかいうアイドルグループのコンサートで仙台に行っているので、本日2人は同行していない。
実は昨日、『暁月』リーダーの時雨からDMが来た。
どうやら『蜷川コーポレーション』関連で、裏ルートの情報を得たらしい。
正直、時雨は掴みどころがなくて不気味なヤツで、完全に信用できる相手とは言えない。
だが、少なくとも俺達に害を及ぼそうという凶々しい雰囲気は感じなかったし、正直苦手なタイプだが悪人ではないだろう……正直苦手なタイプだが……
そんな訳で、藍口君の愛車であるベンゾの『ベランダワーゲン』で横浜の繁華街に聳え立つ『暁月』のクランビルにやって来たんだが……
「な、何か如何わしいビルだね……」
「た、確かに……つーか、クランビルじゃなくて風俗ビルの間違いなんじゃないのか?」
20階建のビルにはゴテゴテと如何わしい看板が付いていて、藍口くんもその淫猥な雰囲気にドン引いている。
このビルは1階から5階迄はキャバクラやオッパブが入っていて、6階から10階迄がファッションヘルス的な店のフロアー。
そして、11階と12階が3年前から合法となったソープ的な店が入っていて、正に男の欲望を満たす為に作られたビルである。
初っ端から度肝を抜かれた俺達は、見るからに朝から風俗に行く気マンマンのオッサンと、人目が気になるのか挙動不審な青年と共にエレベーターに乗り込んだ。
挙動不審な青年は『パイオーツ・オブ・エーゲン』、『JK専用車両』、『奥様は美魔女』と表示されている8階で降りた。
「なぁ、あの彼、どの店に行くと思う?
ちな、俺の予想は『奥様は美魔女』かな。アイツ、熟女とか好きそうだし」
「や、やめろよ、神城君!
オッサンが嫌な目で見てるじゃないか!」
お堅い藍口君の予想は聞けないまま、エレベーターは『殿様の泡風呂』、『終末洗体パイレンジャー』、『踊れ電◯御殿』と表示がある11階に止まった……
「……イケメンニキよぉ、俺ぁ『終末洗体パイレンジャー』に行くからな。
変な予想すんじゃねえぞ」
「……カッケェ……」
「どこがだよ!ていうか、これから時雨と会うのに緊張感無さすぎだろ!」
オッサンは堂々と自分が向かう店を言い放った。
俺はそんなオッサンに漢を感じたんだが、藍口君は余りその手の話題が好きではないようで、ガミガミ言っている。
「てか、藍口君って溜まったらどうしてんの?
自家発電しちゃう系?」
「ちょ、ちょっと!受付のお姉さんが笑ってるじゃないか!
やめてくれよ!」
13階の『暁月』の受付で取り継いで貰ってる間、俺は藍口君に気になっていた質問をぶつけたが、藍口君は乗って来ない。
こんな如何わしいビル内にあるクランの受付嬢なら下ネタに耐性はあるだろうに、どうやら藍口君はムッツリスケベタイプの男のようだ。
「じ、自分こそどうなんだよ?
あ、でも清川さんと付き合ってるから、アレだよね」
「アレが何を指すのか興味深いが、俺達はプラトニックなんでもっぱら自家発電さ。
元嫁と離婚してから雪乃ちゃんと付き合う迄の空白の時期はデリってたな」
「デリってたって何だよ!?」
「ん?デリバリーヘルスの事だが?」
「えぇ!!ユーキ様程のイケ様が自家発電とかデリを呼んでたんですか!?
何そのデリ嬢、羨まし過ぎるんですけど!!
……あ……し、失礼しました……」
俺が藍口君の質問に答えていると、まさかの受付のお姉さんまで加わって来た。
俺もムッツリなんで好きな女性とは下ネタを話せないが、自分と無関係な性にオープンな女性とは普通に下ネタを話すスキルを持っている。
そんな俺が何故か顔を真っ赤にして目を潤ませている受付嬢と下ネタを楽しんでいると、秘書的な服装のメガネお姉さんが俺達を呼びに来た。
俺は下ネタの続きを秘書的なお姉さんと楽しみながら案内された部屋に入ると、お高そうなソファに腰掛ける時雨が声をかけてきた。
「やぁ、神城君。ウチのクランビルは最高だろ?」
「あぁ、最高っていうか浪漫の塊だな。
ただ……俺は昔からキャバクラやオッパブは興味をそそられない。
アレのどこが良いのか分からんのだ」
「まぁ、人の趣味嗜好はそれぞれだからね。あの手のお店に夢を持つ人も一定数いるのさ」
ナルホド…俺はこれまで些か視野が狭かったようだ…
雪乃ちゃんという最高の婚約者がいるから行く事はないだろうが、これからは元同僚のカケルがオッパブに入れ込んでいる事に一定の理解を示した方が良いかも知れん。
未だにカケルからはオッパブに誘われるし、雪乃ちゃんの承諾を得た上で一度くらいはカケルの誘いに乗るのも良いかも知れんな。
おっと、ソレどころでは無い。今日は重要な話があって来たのだ。
「例の件に行く前に、横浜は『暁月』のテリトリーらしいから断りを入れておきたい。
午後からこちらの藍口君のレベリングの為に『旭区ダンジョン』に潜らせてもらう」
「へ?レベリングだって!?
『旭区ダンジョン』はBランクだよ?」
「ああ、問題ない。
藍口君は超一流の格闘家でポテンシャルが高いからな」
「ふぅん……何かウラがありそうだね……
じゃ、ボクも同行させるなら許可するよ」
俺が藍口君のレベリングの件を伝えると、食えない男代表の時雨が条件を突き付けて来た。
だが、そんな条件は飲めないな。
「断る。そもそも拠点近くのダンジョンをテリトリーだと主張しているクランは『暁月』だけだ。
JSAもそんなモノは認めてないし、強制力はないはずだ」
「……確かに……他所の探索者がウチに話を通して貰うのは、地元の探索者とのトラブルを避ける為だからボクには何の強制力も無い。
でも、良いのかい?
ウチの認定バッジを付けてないと、ダンジョン内で揉めるかもよ?
横浜の探索者は実力者が多いし血の気も多い。
『イケメンニキ』に好意的じゃない層も結構いるよ?」
「フン、そんな脅しにビビると思っているのか?
俺達に吹っかけて来るようなチンピラが居たら、ワンパンで失神させてやるだけだ」
「わわわ!ジョーダン、ジョーダン!
ちゃんとバッジ渡すから、変なトラブルは起こさないでよ!」
ハァ……コイツもナンシィ(仮)と同じく面倒くさいヤツだな……
俺が序盤からペースを乱されてぐったりしていると、部屋の外から誰かが騒いでいるような声が聞こえてきた。
やべえ……もう一人面倒くさいヤツを呼んでるのを忘れてた……
「ですから、アポイントを取ってない人は通せないって……」
「どけ……俺は神城に呼ばれて来た……」
「キャアッ!」
ドバァァアン!!
「フー……邪魔をする……公安の倉月だ」
そう……この間の朧と儚の件でしつこく話を聞いてきた、公安の倉月和哉を呼び出したのだ……
倉月を呼んだ事を時雨に話しておくの忘れてた……
賑やかに登場した倉月は色々とツッコミ所が満載である。
先ず目に付く所で言うと、ヤツが何故かムッチリとした美女を侍らせてやがるのだ……
「ア、アンタ、何で『終末洗体パイレンジャー』のミオちゃんを連れてんだよ!
あの店は店外デート禁止なんだぞ!!」
どうやら、倉月の隣に居るのはエレベーターで会ったオッサンが向かったソープ店の嬢らしい……
つーか、行ったのか!?行って色々とスッキリしてから来たのかよ!?
「……フー……彼女は相性が良かった……
これからは俺のセフレになって貰う事になった」
「クラツキさんのテクヤバかったから、お友達になっちゃったのぉ」
す、凄え……プロを骨抜きにする程のテクニシャンという事か……
こ、後学の為にどんなテクを使ったのか教えて貰えないだろうか?
「つーか、アンタ何つーツラでカキタレの乳揉んでんだよ!!
タレを侍らせて良くそんなツラ出来るなぁ!!」
え?ツッコむ所そこ!?
確かに倉月は女を侍らせているとは思えない程眉間に皺寄せてるけど……
場が混沌とした所で、常識人の藍口君が口を開いた。
「あ、あの〜……それより公安の人が何でここに?」
「ああ、倉月は俺が呼んだんだよ。
今日は『蜷川コーポレーション』関連の裏情報を聞けると言うんで、この際倉月にも掴んでる情報をゲロして貰おうと思ってね」
「……ああ!もうっ!
そういう事なら先に言っておいて欲しいよ!ったく……
取り敢えず立ち話もなんだから適当に腰掛けて」
俺が藍口君に事情を説明すると、時雨も事情を察したようで何とかイライラを抑えてくれたようだ。
時雨に従ってソファに腰掛けると、倉月が口を開いた。
「フゥ……先ずは大した情報もない俺から話そう。
昨日神城がBOINで頼んで来た情報なんだが……
『蜷川コーポレーション』の裏に繋がる反社会的組織の情報は不自然なくらい出て来なかった。
フゥ……今の所、五味九図夫が個人的に繋がりがあるという、反グレグループしか掴めていない……フゥ……」
何だよ……勿体付けておいてマトモな情報を掴んでいないのかよ……
まぁ、それは別に良い……日本の警察組織は優秀だというし、テロ疑惑がかけられている『蜷川コーポレーション』の捜査には殊更注力してるんだろう……
ただ、一つだけ……一つだけ言っておかなくては……
「何で、禁煙のビルディング内でタバコ吸ってるかなぁ!?
たかが話し合いの30分も我慢出来ないのかよ!
もしかしてソレ、『エピノロロジウム』入りなのかぁ?
『エピノロロジウム』が入ってるから中毒になってるのかぁ!?」
俺は先程から溜め込んでいた思いを倉月にぶつけた。
普通に禁煙のビルでタバコ吸うとか有り得んだろ!つーか、他のヤツらは何で注意しないんだよ!?
「何を言ってる?
此処は風俗店がひしめいたビルだ。言わば大人の店しか入ってないのに禁煙にしている方がどうかしてる」
「わ、分かった……もう何でも良いから、情報が無いならさっさと帰ってくれ……」
「そう邪険にするな。
……情報……という程の情報じゃないが……
8年ほど前からネットでウワサになっている『ディアブロ』という組織を知っているか?」
何か人とズレた倉月から明かされた『ディアブロ』という言葉。
それを耳にした俺と藍口君と時雨は一瞬顔を見合わせ、盛大にため息を吐くのだった……。




