64話 何か納得行かないんですけど… 後編
ザギン……そこは昔から小金持ちが集う街として有名だった……
高級宝飾店や海外のハイブランドの旗艦店が建ち並び、ワンランク上の夜の社交場としての顔も併せ持つ……
ソレがザギンという街だ……
そんな街の一角にデザインビルヂングが経っている……午後のお仕事の現場はこのサレオツなビルヂング内の撮影スタヂオなのだが……
「は!?何ですか?
この露出度の高いコスチュームは!?」
そんな撮影スタヂオの控え室に雪乃ちゃんのイラ立った声が響いている……。
雪乃ちゃんの仰る通り、用意されていた衣装が原因だ……。
「私もマネージャーとして納得出来ません!
清川さんは超一流の探索者だ!
露出を売り物にする馬鹿なグラビアアイドルや、アホなコスプレイヤーと同じ扱いをされては困ります!」
温厚な皆川さんもいつになく声を荒げてらっしゃる……。
正に皆川さんの言う通りだし、俺も雪乃ちゃん用の衣装を見た時はかなりイラっと来た。
何せその衣装というのは雪乃ちゃんがナンシィ(仮)に最初に製作して貰った、露出度高目のくノ一衣装よりも更に露出度が高いのだから。
上着は見るからに胸元が開いていて、下手したらお乳の先の方が出てしまうんじゃないかというくらいだし、スカートも確実にお尻が見えてしまうヤツだ。
だが、それを衣装さんに詰め寄るのも可哀想な気もする。
彼女はただ指示されたテイストのモノを用意しただけだろうし、今回雪乃ちゃんが表紙を飾る雑誌は女性探索者向けのファッション誌だ。
ダンジョンが出現して以来、社会的な傾向として男はより男らしく、女はセックスアピールをしてナンボという風潮が強くなっている。
かつては地上波のテレビは性的な表現に規制が入っていたが、ダンジョンの出現によって人々の動物的本能が高まったせいなのか、規制が甘々になって来た。
当然、それは女性のファッションにも現れていて、特に女性探索者のダンジョンアタック用の装備は露出度がハンパないモノが主流だ。
俺とて他の人に雪乃ちゃんがそんな衣装を着ている姿など、絶対に見せたくは無い……
……が、試しに着替えてみるくらいなら……うん、ちょっと着替えて俺だけに見せてくれるくらいなら、ギリギリオッケーだ!
いや、決していやらしい意味では断じてない!プロポーション抜群で凛とした美しさを持つ雪乃ちゃんならば、エロさを全く感じさせる事なく芸術的に着こなしてくれると思うのだ……
「……雄貴さん?
どうして婚約者の雄貴さんが、真っ先に言ってくれないんですか?
……それに、さっきから鼻の下が伸びまくってますケド?」
「ど、ドキィィィイ!!
ち、違うんだよ!ちょっと試着する位なら良いかなぁ、なんて事はコレっぽっちも思ってないから!!
いや、決して悪い意味じゃなく良い意味で!!良い意味で、雪乃ちゃん程の美少女ならば、良い意味で着こなせるんだろうと、良い意味で考えただけ……いぎゃあああ!!」
俺が必死に雪乃ちゃんの誤解を解こうとしていると、雪乃ちゃんは一瞬で背後に回って俺の尻をツネってきた……
その余りの痛みに、俺は床に倒れて転げ回ったのだった……
◆◇◆◇◆
「チクショウ……ちょっとくらいイイじゃんか……半同棲状態なのに、俺は雪乃ちゃんの下着姿くらいしか見た事が無いんだ……
それもたった一回、アクシデント的な感じで見ただけ何だぜ?
良いよなぁ、桐斗は毎日雪乃ちゃんと一緒にお風呂に入れて……」
俺はスタヂオの隅で盛大にいじけていた。
雪乃ちゃんとはチュウ以上の事は一切していないプラトニックな関係だし、それでも雪乃ちゃんとの婚約関係はこの上ない幸せだ。
でも、俺とて男の子である。
好きな女の子のセクシーな姿を見たいと思って何が悪いんだ?
何でセクシーな格好を見せてくれないんだよ……
「そういうムッツリスケベな所じゃないかな?」
「ギクーーーン!!」
不意に皆川さんに声をかけられて、一瞬心臓が鼓動を止めた。
や、やば……姉貴の婚約者にこんな事を聞かれるなんて気まずいんですけど!?
「ハハハハハ。雄貴君、中学生じゃないんだからそんなにキョドらなくても良いじゃないか」
「い、いや!べ、別にキョドってねぇし……」
「うん、うん。そうだよね。
それより、そろそろ清川さんの撮影が始まるみたいだよ。
探索時のいつもの装備だけど、いつも以上に綺麗だから婚約者の雄貴君が見ててあげないと」
俺は皆川さんに促されて、撮影場所に向かったんだが……
「うわ、やべっ!雪乃ちゃんめちゃくちゃ可愛いゼ!!
こ、これは後世に残すべき美しさだゼ!!」
「うふふ、面と向かって言われるとちょっと恥ずかしいですけど、凄く嬉しいです」
メイクを終えて装備品に着替えた雪乃ちゃんを見て、本日二度目となる心臓が鼓動を止める衝撃を味わった。
何だろう……いつも可愛いと思っているんだが、そこに更に美人なテイストが加わったというのか……上手く言えないが、とにかく雪乃ちゃんはヤバい程可愛いのだ。
「取り敢えず、時間も押してるんで神城さんは端の方に行って下さ〜い!
じゃ、ユキノちゃん、軽くポージングしてみて」
俺が雪乃ちゃんに見惚れていると、軽薄そうなキャメラマンが声をかけて来やがった……。
イラっと来たが、仕方ない。今は雪乃ちゃんの仕事の時間なのだ。
俺はキャメラマンの指示通り、スタヂオの端の方へと移動した。
「ああ、ちょっと堅っ苦しいな。
もうちょい、こう躍動感のある感じで。
お尻をもう少しクイっとコッチに向けるような感じで!」
さっきのヤツといい、キャメラマンは皆んなこういう人をイラっとさせるような事を言うモノなんだろうか?
俺が口を挟むべきじゃないんだろうが、ちょっとイラつくな……
「うーん、何か違うんだよなぁ。
その衣装、もっと胸元開けないの?
ユキノはオッパイデカいんだから、谷間見せてナンボでしょ?」
は!?コイツ今何つった!?
俺は人の婚約者を馴れ馴れしく下の名前で呼ぶキャメラマンにかなりムカついた。
一言怒鳴り付けてやろうと足を踏み出し……
「絶対に嫌です!
私はそんな軽い女じゃありませんから!」
かなり強目の怒気を発した雪乃ちゃんが、ムカつくキャメラマンの指示を拒絶した。
俺の怒りが引っ込む程の強い怒りを感じる……
「いやいやいや。軽い女って……
女の探索者なんて、所詮胸やパンツ見せてナンボでしょ?
エロで売って視聴者増やして稼いでるくせに、何を清純ぶってんの?」
「おい、テメエ!いい加減に……」
余りに失礼な態度を取るキャメラマンを怒鳴り付けようとした瞬間、一帯を恐ろしい迄の殺気が覆った……
俺が恐る恐る、殺気を発している方を見ると……
雪乃ちゃんの目付きがいつもの可愛らしいつぶらでキラキラした感じから、猛禽類を思わせる鋭過ぎるモノに変わっている……
あの目付きの雪乃ちゃんはヤバい!
あの猛禽類的なアイ・オブ・ザ・イーグルは俺も一度しか見た事が無い……吉祥寺ダンジョンでラミアさんを惨殺したあの一度だけしか……
しかも、クナイを持つ手に力が入っている!!
アレは絶対に殺すヤツだ!!
「お前!今すぐ雪乃ちゃんに誠心誠意謝罪しろ!!
ブッ殺されるぞ!!」
「はっ!?何言ってんの?
探索者が一般人を殺したら死刑じゃん……」
「もう良いっ!!
清川さん、雄貴君、行きましょう!こんな低俗な仕事なんてする必要は有りません!」
殺気に鈍感過ぎる早死に系キャメラマンの言葉を遮ったのは、かなりお怒りの様子の皆川さんだった。
あの姉貴から我儘を言われても、いつも穏やかに姉貴を窘めている仏の皆川さんがここまで怒っているのを初めて見た……。
「み、皆川常務!そ、それはあんまりだ!
事前に契約していたのに、これは重大な契約違反ですよ!?」
「羽目板編集長、ウチの『ガチ勢』は低俗な格好をして衆目に晒す程安くは無いんですよ?
アンタ方の雑誌は日本初のSSランクパーティーを侮辱した!
それ相応の覚悟をしておいて下さい!」
先方の偉いさんが皆川さんに詰め寄って来たが、皆川さんは強気を崩さずに雪乃ちゃんを庇ってくれた。
彼が俺達の担当マネージャーで本当に良かった…
俺と雪乃ちゃんは皆川さんと共にスタヂオを後にした。
「こんな低俗な雑誌の仕事を受けた僕の判断ミスです。
本当に申し訳ありませんでした!」
外に出るなり、皆川さんは俺達に向かって深々と頭を下げた。
俺も雪乃ちゃんも皆川さんには何の落ち度もないと返したのだが、彼は自分の調査不足だと言って再び頭を下げて来た。
今回の仕事はイラっとする事が多かったものの、皆川さんが信頼出来るマネージャーだと再認識出来たので、結果的には良かったと思う。
俺も雪乃ちゃんも皆川さんの為にも、仕事を一層頑張ろうと決意を新たにしたのだった。




