63話 何か納得行かないんですけど… 前編
長い1日が明けた……ホントに長い1日だった……ホントに極限なバトルだったし、朧の話は重さとバイオレンス度合いがハンパ無かったし、ナンシィ(仮)にはセクハラされたし……
で、その後ファミレス前でタバコを吸っていた公安の倉月という男が俺の所に来て、昨日の事を根掘り葉掘り聞かれて、心身ともにグッタリして皆んなと合流したら、何故か瑠奈と雪乃ちゃんにジト目を向けられながら、俺は無自覚だから何だとか、グラビアの女が裸画像を送り付けて来た事でイロイロと責められてしまった……
ホント、昨日は散々な一日だったんだが、今日は一変してほのぼのとした雰囲気だ。
というのも……
「あらぁ!桐斗、自転車とっても上手よ!
もう、天才よ!」
「あははは!ママぁ、ういりぃらよ!」
「きゃぁぁあっ!桐斗ったら凄いわ!!」
いつもの公園で、桐斗と瑠奈が母子の時間を過ごしているのだ。
桐斗は最近習得したウィリー走行で、瑠奈にアピールをしている。
ククク…我が息子ながら可愛いヤツめ…
結局、昨日は桐斗が瑠奈にしがみついて離れなかったので、そのままウチに泊まって桐斗と一緒に寝てもらった。
大好きなママと久しぶりに一緒に眠れた桐斗は、朝からめちゃくちゃテンションが高く、ママに自転車を乗れるアピールがしたくて公園に来た訳だ。
「雄貴さん、本当に瑠奈さんと再婚しないんですか?
瑠奈さんも冒険者になったんだから、重婚出来るんですよ?」
俺の隣で2人の様子を見ている雪乃ちゃんが、ふと俺に問いかけてきた。
「ああ。瑠奈もそんな事は望んで無いからな。
それに、俺は雪乃ちゃんしか愛せそうにないからね」
「いやだぁ、雄貴さんったら……
私も雄貴さんしか愛してません」
「雪乃ちゃん…」
「雄貴さん…」
おお、朝から良い雰囲気だ……コレはチュウの流れか?
「ホラ、そこ!朝っぱらから公衆の面前でイチャイチャしないの!」
ド、ドキーーン!!や、ヤバい!2人の世界に入るあまり、朝の公園という事を忘れていた……
「きゃははは!パパとユキママがイチャチャちてりゅ!
ママぁ、パパねぇ、ユキママとねぇ、いつもチュッチュッってしゅるんらよ!」
「桐斗!へ、変な事を瑠奈に言うんじゃない!」
「き、キィたん、そんな事言いふらしちゃらめぇ!」
「ふ〜ん、2人にはお説教が必要なようね……」
瑠奈が俺達に鋭い視線を向けて来るんですけど……
だが、瑠奈がコーキと出会う前の感じに戻ってくれて、本当に良かった……
俺は今この瞬間の幸せを噛み締めつつ、瑠奈からお説教をされるのだった。
◆◇◆◇◆
「梢義姉さん、本当にごめんなさい!!
あんなに私の事を気にかけてくれた義姉さんの優しさを、私は最低な裏切りで踏み躙ってしまいました!
本当に……本当に済みませんでした!!」
あの後、皆んなで雪乃ちゃん特製の激ウマ朝ごはんを食べて、桐斗をセレブ限定託児所に送り届けると、俺、雪乃ちゃん、そして瑠奈はジャーマネの皆川颯太さんの家に向かった。
今日は俺と雪乃ちゃんの仕事があるので、瑠奈はついて来る必要は無かったんだが、彼女がどうしても皆川さんと同棲している姉貴に直接謝りたいと言うので連れて来たのだ。
瑠奈は出迎えてくれた姉貴に対して、しっかりと謝罪の言葉を述べてから深々と頭を下げた。
そんな瑠奈に対して姉貴は……
バビターーーン!!
思い切りビンタをブチかました……
元ムエタイのジュニアチャンプが、探索者になったとはいえ、素人の瑠奈を思い切りビンタしたのだ…。
コレは流石に通報案件か!?
俺が慌ててスマホを取り出そうとすると……
ギュウッ…
今度はいきなり姉貴が瑠奈に抱きついたぞ?どういう事なのか訳が分からんぞ?
「……今のビンタでコレまでの事はチャラね……
ぅぅぅ……ゴメンね、瑠奈ちゃん……私……私……瑠奈ちゃんの状況を知らなくて……
瑠奈ちゃんの事を心の中でずっと悪く思ってたの……
ゴメン……瑠奈ちゃんは悪い男に騙されただけなのに……ぅぅぅ……本当にゴメンね……」
「ぅぅぅ……梢義姉さんは何も悪くないんです……私が……私がバカだったから……ぅぅぅ……梢義姉さん……ゴメンなさい……」
それから2人は暫くの間、号泣しながら抱き合っていた……。
「な、何でだ!?何で瑠奈は姉貴に文句を言わないんだ!?
元ムエタイジュニア王者にビンタされたんだぞ!?
格闘家が素人を殴るとかダメだろ!?」
俺はそんな謎な行動をする2人を見て、思わず思った事を口にした。
だってそうだろ!?特に立技の格闘家は、人間の脳に効果的にダメージを与える術を研鑽しているんだ。
そんな人間が無防備な素人の頭部を殴打するとか、普通に有り得ないだろ。
「ハァ……雄貴君……君はもう少し女性の気持ちを学んだ方が良いと思うよ」
「ハァ……雄貴さんはそういう所が残念ですよね……」
俺は何故か皆川さんと雪乃ちゃんに盛大に溜息を吐かれて呆れられてしまった……
くそぅ……何か納得行かないんですけど……
◆◇◆◇◆
「キャアッ!雄貴さん、めちゃくちゃカッコいいです!
ちょっと待って下さい、スマホで撮りますから!」
あの後、泣き止んだ姉貴にケツキックされた俺は、皆川さんの運転で銀座にやって来た。
銀座6丁目に昨年建てられた『探索者学院』が、『ラブリー・ワン』所属一発目のお仕事の現場である。
俺は新入生募集のパンフレットのモデルになるという事で、シングルライダースのような黒いレザージャケットにダボ付いたズボンを履かされ、ヘアメイクのお姉さんに勝手に髪をカラーリングされた。
髪の毛の先の方だけ銀色になって違和感しか無いんだが、同行していた雪乃ちゃんはキャアキャア言ってスマホで俺を撮影しまくっている。
「あの……勝手に髪の色を変えられたんですけど、コレって訴えてもイイヤツですか?」
「何言ってるの、雄貴君。
コレも立派なお仕事なんだから、それくらい我慢してくれないと。
それに、メイクさんが言っただろう?
そのヘアカラーはダンジョン製品を改良したもので、1週間で髪色は元に戻るってさ」
「そうですよ!
それに、その髪凄くオシャレでカッコいいです!
ハァハァ……そのヘアスタイルの雄貴さんに、壁ズドンして貰いたいですぅぅ…」
納得行かない俺を、皆川さんと雪乃ちゃんがやんわりと窘めて来た。
雪乃ちゃんは何かハァハァ言っているけど、体調が悪いんだろうか?
この後は雪乃ちゃんの雑誌の撮影らしいので、心配になって来る。
俺はそんな心配を胸に、生まれて初めてのモデルの仕事に臨んだんだが……
「表情が堅いですよ、神城さん!
学生さん向けのパンフなんで、もう少し柔らかに!且つ男らしくワイルドに!そこにほんの一握りの憂いを表現しましょうか!」
キャメラマンがゴチャゴチャうるせぇ……
つーか、なんだよ一握りの憂いて!?柔らかだのワイルドだの、どうやって表現しろっつーんだ!!
「それじゃあ只睨んでるだけですよ!
ああ、もう!コレだからど素人のモデルは嫌なんだ!!
ちょ、何かイイ小道具無いかな!?
ど素人に細かい表現は無理だ!ワイルドさは小道具で表現するしかねぇゼ!!」
おい、このキャメラマンマジでムカつくな!
そんなボロクソに言われるなら、こんな仕事降りても良いんだ……イヤ、良くないな……せっかく皆川さんが取ってくれた仕事を降りては、彼の顔を潰す事になる。
それから俺は私情を押し殺した……
何故か一度も装備した事のない大剣を持たされ、何故か一度も吸った事のないタバコを咥えさせられ、何故か上半身を裸にされて直でレザージャケットを羽織らされ、何故かズボンを腰の所まで…ヘアギリギリの所まで下ろされても、文句を言わずに耐えた……
「おお〜!イイっす!神城さん、めっちゃワイルドで、且つセクシーさもありーのでめちゃくちゃカッコいいっス!!
はい、そのまま少し微笑む感じで!」
俺はイラつきを堪えながら、キャメラマンの要求に応えてポージングを取った。
「ハイ、オッケーで〜す!
もう、バッチリっスよ!コレで『探索者学院』はわんさか応募が来ますよ!」
フゥ……良し、何とか短気を起こさずに仕事を乗り切ったゾ!
次は雪乃ちゃんの雑誌の撮影か……まぁ、雪乃ちゃんは超絶美少女だし、スタイル抜群でオシャレだし、俺みたいに苦労したりイライラするような事はないだろう。
俺は心の中で、そんな風にフラグを立てたのだった……。




