62話 変な2人とバチバチの時に魔物が乱入して来たんですけど!? ⑧
《備土瑠奈視点》
あのクズ野郎を追って雄貴が凄いスピードで走り去ってから5分程して、柊彩音ちゃんがやって来た。
彩音ちゃんは人気アイドルとして有名なので最初はかなり緊張したが、言葉遣いは独特なものの物腰が柔らかで話しやすい女の子だった。
桐斗も随分と彩音ちゃんに懐いているようだ。
それから20分程、今日起きた事を彩音ちゃんに話していると、お隣のお嬢さんの清川雪乃ちゃんがやって来た。
「ああ、ママァ!たらいま〜!」
「うふふふ、おかえりなさい。
キィたんは今日も可愛いね〜」
「ママァ、んとね、あのね、ママがあいにきてくれたんらよ!
あ、れもユキノおねえたんじゃないママがね、きてくれたの!」
「あらぁ、そうなの?
それは良かったね〜。じゃあ、キィたんはママが2人もいるんだね!」
真っ先に桐斗が雪乃ちゃんに駆け寄って抱きついた。
……そっか……もう、桐斗は雪乃ちゃんをママって呼んでるんだ……
……仕方ないよね……雄貴と結婚するんだし、雪乃ちゃんは桐斗が赤ちゃんの頃からちょくちょく桐斗に会いに来ていたし……
もう、雄貴の人生に私が入る場所なんて無いんだよね……
いや、今はそんな事で落ち込んでる時じゃないわ。
私は雪乃ちゃんの前に行くなり、頭を下げた。
「雪乃ちゃん、本当にごめんなさい!
私は本当にアナタに酷い態度を取って、酷い事を言ってしまいました!」
「瑠奈さん……
いいえ、私の方こそ部外者なのに口を挟んでしまって済みませんでした!
でも、良かったです……雄貴さんからBOINで大まかなお話は聞きました。
あの頃の……私が憧れてた優しくて美人な瑠奈さんに戻ってくれて、本当に嬉しいです……」
「雪乃ちゃん……本当にゴメンね……心配かけちゃったよね……」
雪乃ちゃんの優しい言葉と笑顔のおかげで、私の心はとても軽くなった。
何となく救われた気がしたのだ。
「ママぁ、ボクおなかちゅいたぁ」
「あ、桐斗お昼ごはんまだだったのね?
気付かなくてゴメンね」
「じゃあ、皆んなでファミレスに行きましょうか」
「わぁい!ボク、おこたまらんちぃ〜!」
雪乃ちゃんの提案で、皆んなでファミレスに行く事になったけど、なんかちょっと気まずい……
3か月前に桐斗に会った時、本当に最低な事をしてしまったし……まだ、雪乃ちゃんに後ろめたさや、雄貴との事でほんの少し嫉妬のような感情を持ってしまっている。
私は何とも気まずい感じで、皆んなとファミレスに行ったのだった……
◆◇◆◇◆
久しぶりに桐斗とゆっくりご飯が食べられて、色々な話を聞く事が出来た。
私が出て行ってから1年半の間に、桐斗はとても朗らかな良い子に育っていた……
その事が凄く嬉しい反面、ママとして可愛い我が子の成長を見守れなかった後悔の気持ちも……
テンション高くお話ししてくれたり、お子様プレートに付いて来たミニカーで遊んで疲れた桐斗は、私に抱きついて眠っている。
……ああ……桐斗が本当に可愛くて堪らない……
「……あの、一つ聞いても良いですか?」
私がスヤスヤと眠る桐斗の背中を手のひらでポンポンしていると、雪乃ちゃんが問いかけて来た。
「ええ、何を聞きたいの?」
「どうして、雄貴さんをブサメンとか言ったんですか?」
「ああ……
雪乃ちゃんも心当たりがあると思うけど……
……アイツって、超鈍感なくせに無自覚に女にモテまくるじゃない?」
「あ!た、確かに……
何か、色んな女から凄い数のDMが来ますし、ちょっと目を離したら明らかに雄貴さんに色目を使って来ている女と気さくに話してます!」
「やっぱ今も変わって無いのね……
昔からそんな感じだったわ。
高校で一番モテていて、他の学校の女の子達も校門で出待ちするくらいだったのに、本人は全く自覚が無くて思った事を直ぐに口にするの。
『髪が綺麗だね』とか『笑顔が可愛いね』とか……
で、女の子をその気にさせておいて、デートの誘いをかけても『キックの練習があるから無理』とか言って突っぱねるじゃない?
本当に見ていてイライラして、最初は女の子に思わせぶりな事を言うなって注意していたんだけど、アイツ、何が思わせぶりなのか分からなくて……」
「は!私も最初にメロメロになったきっかけがソレです!
『雪乃ちゃんはモデルさんみたいに可愛い』って……
あんなイケメンさんにそんな事言われて、好きにならない女の子なんて居ないじゃないですか!?」
「ハァ……アイツは全く……
良い?雪乃ちゃん。
雄貴は女関係の事で気を緩めたら絶対にダメよ!
アイツ、真面目だから浮気はしないと思うけど、自分の旦那が他の女に惚れられてるって面白くないでしょ?」
「確かに……前は『東五反田のイケメンパパ』でしたけど、今は『東京を救ったイケメンパパ』になっちゃってめちゃくちゃモテまくってますし……
この間なんて、グラビアアイドルが裸の写真付きのDMを送って来て……」
「ハァ!?何ソレ!?
雪乃ちゃんと婚約しているの知っててそんな写真送って来るなんて、その女舐めてるわね!
その裸写真、週刊誌に売りましょ!」
「ちょ、ちょっと、興奮し過ぎですわ。
もう少しお静かにしないと、キリトちゃんが起きてしまいますわ」
雪乃ちゃんと盛り上がっていると、彩音ちゃんに窘められてしまった。
確かに、桐斗が可愛らしく寝ているのを忘れてしまっていた。
「……キィたん、本当に瑠奈さんが大好きなんですね。
寝ているのにギュって抱きついて……
瑠奈さん、私に遠慮せずにキィたんに会いに来て下さいね」
「雪乃ちゃん……
ぅぅぅ……ありがとう……本当に……本当にありがとう……」
私は雪乃ちゃんの優しい言葉を聞いて、思わず涙が溢れてしまった。
こんな最低な事をした女なのに優しく受け入れてくれて、昔と変わらず話をしてくれる……。
ガシャァァアン!ガタンッ!ドサッ!グワシャーン!!
感激して泣いていると、急にファミレスのあちこちから凄い音が響いた。
遅れて他のお客さん達の悲鳴も聞こえて来る。
何事かと慌てて周りを見回すと、あちこちに人が倒れていた。
黒いスーツに身を包んだ強面の男達が、倒れている人に手錠をかけている。
周囲が騒つく中、無精髭を生やした影のあるイケメンが此方にやって来た。
「食事中済まない。俺は公安警察ダンジョン犯罪対策課の倉月だ。
ここに倒れている連中はテロリストに関与している容疑がかかっている為、魔導具を使って気絶させた。
神城雄貴氏はテロリスト容疑のかかっている朧、儚、小島幸樹の3名を見事捕縛した。
連中の手下と思しき連中も我々とJSAで捕縛している。
貴方達に危害が及ぶ事は無いだろう。
安心して食事を続けてくれ。
それでは失礼する」
は!?何!?テロリストってどういう事!?
まぁ、別に幸樹にテロリスト容疑がかかっていようがどうでもいいけど、私達がテロリストに狙われてたって事!?
倉月という男はタバコに火を付けると、踵を返して去っていった。
手錠を嵌められた連中も次々と連行されて行く…。
雄貴……アンタ一体何をやらかしたの?
私は幸樹を追いかけたきり戻らない雄貴が、とんでもない事をしたのでは無いかと心配になるのだった。
◆◇◆◇◆
《神城雄貴視点に戻る》
朧から語られた話は……何とも言えない哀しさがあった……
余り良い話では無いので掻い摘むと、儚と朧は記憶喪失の状態で群馬県の太田ダンジョンの9階層外れルート奥で倒れていたらしい。
その2人を保護したのが、当時Dランク探索者だった五味が所属していた『グッド・バイブレーションズ』というパーティーだった。
見るからに日本人では無い儚と朧を、『グッド・バイブレーションズ』のリーダーだった古屋敷という男が皆んなでけしからん事をした後で、反社会的な組織に売り払おうと言い出した。
それを止めたのが五味だった。
五味は有り金を全部渡すから2人には手を出さないよう古屋敷に頭を下げて頼み込み、それまでに蓄えた貯金も全て渡して2人の身柄を引き取った。
日本語も母国語も何も分からず怯える朧と儚の為に、五味は借金をしてまで住環境を用意して、根気強く言葉や一般的な知識を教えたらしい。
当然、五味は彼女らに如何わしい事は何もしなかったようだ。
『朧』と『儚』は名前も分からない2人に、五味が付けてくれた名前なのだとか。
五味の用意してくれた安アパートで暮らすようになって1年が過ぎる頃には、2人はカタコトながら日本語を話せるようになり、大まかな世の中の仕組みも理解できるようになった。
朧曰く、その頃が一番幸せな時期だったそうだ。
しかし、そんな暮らしも長くは続かない。
戸籍の無い儚と朧はまともな仕事に就く事も出来ないし、Dランク探索者の五味の収入では2年が経つ頃には経済的に厳しくなっていた。
結構な額の借金もあった五味は、当時探索者の従業員を募集していた『蜷川コーポレーション』に就職する事にした。
『蜷川コーポレーション』に入ってからは五味の収入がどんどん上がって行き、2人は生活に困らなくなって行ったが、五味と会える時間はどんどん減っていった。
そして、偶に顔を見せる五味は見るからに窶れていた。
五味を父のように慕うようになった2人は、自ら力になれないかと申し出た。
最初はその申し出を断った五味だったが、ある出来事で2人に破格のスキルとステータスが宿っている事を知った時から、2人に裏の仕事を頼むようになったらしい。
そこから朧と儚は闇の人生を歩み始め、紆余曲折を経て今に至るという事だ……
◆◇◆◇◆
「済まなかったな……進の仇を取らせてやる事が出来なくて」
朧達の話を聞いた後、駆け付けた公安の人らに朧、儚、コーキの身柄を引き渡した俺は、神妙な面持ちのナンシィ(仮)に声をかけた。
「ううん……良いの。
オボロ達にも事情があったって分かったし、進サマも復讐なんて望む人じゃなかったモノ……
後は法律に任せるわ……」
ナンシィ(仮)はそう言うと、悲哀に満ちた表情で微笑んだ……
窟田進はコイツが真剣に愛した人だったんだろう。
ナンシィ(仮)の過去を詮索するのは古傷を抉るようなモノだし、何も聞かずに去った方が……ムギッ……
この野郎!!俺のケツを揉みやがった!!!
「それに、アタシには新しいダァリンが出来たから…」
ドバゴーーーーン!!
何て野郎だ!!心配して損したぜ!!
俺はしれっとセクハラをかまして来たナンシィ(仮)の顔面にグーパンを叩き込むと、猛ダッシュで皆んながいるであろうJSA本部近くのファミレスへ向かったのだった……。




