58話 変な2人とバチバチの時に魔物が乱入して来たんですけど!? ④
思えば、初見から何とも表現し難い不気味さと違和感をこの儚という女に感じていた。
その違和感の正体がこうして近接戦闘に身を投じる事で、漸く理解出来た。
コイツの着物の着崩し方……全体的なフォルム……細身なハズの儚が妙にもっさりとして見えるのは、対峙する者に僅かな距離のズレを与える為のコイツなりの工夫というヤツか……
まただ……渾身のボディストレートの当たりが浅い……
儚を殴った時に俺の拳に伝わるハズの衝撃が軽く感じるのは、俺がヤツとの距離を誤認しているからに他ならない。
当然、何メートルも誤認している訳ではない。
ほんの半歩程…つまり、14センチ程俺の踏み込みが浅いんだ。
その14センチの差は、ボクシングに於いて途轍もなく大きな誤差なんよなぁ……。
俺にとって最も体重が乗るヒットポイントからズレている為、ボディへの当たりが浅い。
おかげで、滑らかに動き回る儚の足を止める事が出来ない。
距離の誤認と着物女の機動力によって、俺は得意な近接戦闘で優位に立てずにいる。
ヤツの足捌きというか歩法は独特で、足の裏を殆ど地面から離さない摺足のような感じだ。
平たく言えば日本の武道のような足運びというのか……
キックやボクシングのステップワークに慣れている俺には、ヤツの動きを把握出来るまでに少々時間が必要だ。
ドゴォォォオン!!
スルスルと俺の射程から外れて行く儚に気を取られていると、斜め後ろから距離を詰めて来た朧の拳を食らってしまった。
だが……
ドグワシャァッ!!
俺は後頭部に受けた打撃をモノともせずに、振り返り様の打ち下ろしを朧の顔面に叩き込んだ。
「顔面を殴ってスマンな。
お前はダメージで足の踏ん張りが効かなくなってるから、俺に有効なダメージを与える事が出来ない。
暫くそこで寝ておけ」
「余所見をするなんて余裕ですねぇ?」
スシュンッ!!
クッ……余裕ぶっこいて朧に話しかけていたら、鋭利な刃物で左肩をスッパリ行かれてしまった……
初めて攻撃に転じた儚は手に中二臭い鉄扇を持っている。
【魔闘戦鬼】のスキル効果で体表を魔力ガードしている俺の肩を裂いたという事は、ヤツの鉄扇の扇面から伸びた刃は魔力でコーティングされているという訳か……
中二臭い武器だと侮っていたら、痛い目を見そうだな……
「第三形態ぃぃぃい!!
……ハァ…ハァ…アンタ、死んだわね……
確実に死んだわ……運以外のステータスが4,000越えになった第三形態のウチと、ステータス10,000越えの儚を相手取れる訳がない……」
ほう……地面に大の字になっていた朧が一瞬で姿を変えたか……第三形態とやらは随分とムチムチした体型になるんだな……
《ふひょーー!オボロたんがエロテロリスト化シターーーー!!》
《俺は第一形態のオボロたんが好き》
《体型がエロ過ぎて草》
《何か第三形態とやらは強そうに見えんのだが》
《ツノ生えるとか言ってたヤツ息してる?》
《ティッシュタイムが来たか》
《色気でニキを惑わすとか最高かよwww》
【¥50,000:紳士村上:オボロさん、おぢさんが美味しい町中華に連れて行ってあげる。大丈夫、おぢさんは紳士だから】
「コメ欄をコッチに向けんじゃねぇぇええ!!」
ドゴゴゴゴゴゴゴゴォォォン!!ズドォォォオン!!
コメ欄の民度の低さに盛大に御立腹な朧さんは一瞬で俺の懐に入り、倍増したステータスで超強化された【豪爆撃】の連打をかまして来た。
打ち方が出鱈目な上に、手打ちな上に、正確性皆無な連打だが、爆上がったステータスが齎すハンドスピードと爆発の威力は決して侮れる代物では無い。
ガードした両腕が少しだけヒリヒリするし、防壁まで吹っ飛ばされてしまった……
まぁ、大したダメージじゃないけど……
「うおらぁぁぁあっ!
死ねやクソイケメン野郎がぁぁ…」
「待ちなさい、朧ちゃん!!」
激しく防壁に叩きつけられた風の俺に追撃をかけようとした朧を儚が制止した。
チッ……もう少しだったのに……
「神城さん、私を余り舐めて貰っては困りますね。
アナタは派手にやられてるように見せて、その実殆どダメージを負ってないですね?」
流石に超実力者の儚の目は誤魔化せなかったようだ。
俺は仕方なくネタをバラす事にした。
「ククク……バレていたなら仕方ねえな…
貴様らに絶望的な情報をくれてやろう……
俺はこのブレスレットで魔力と身体能力系のステータスに制限をかけている。
今の俺の魔力と身体能力系ステータスは500だ…」
「な!?バ、バカな!?
たった500のステータスで、あんな打撃を打てる訳がない!!」
ククク……朧さんは本当に良いリアクションを取ってくれる……
良し、ついでにとっておきの情報も教えてやろう……
「ククク……更に言うと、俺は今のところ戦闘スキルを使ってない。
職業スキルだけでお前らを相手取っていたのだよ……
この俺がステータスと戦闘スキルを全開放したらどうなると思う?」
「ど、どうなるっていうの?」
「今の戦闘能力が10,000倍に跳ね上がるのだよ!!」
「そ、そんな……バ、バカな……」
《ニキが悪役になってるんだがwww》
《完全にラスボスのセリフで草》
《わ、悪い……真剣に見ていたのに草しか生えねえwww》
《まるでコントのようなバトルw》
《悪役のユーキ様も素敵過ぎる❤️》
《一々動揺するオボロたんがエロ可哀想》
《俺は我儘バディになったオボロたんを応援するぞ!!》
《エロくなったオボロたんに死刑宣告するとか、イケメンニキはくたばれ!》
ククク……コメ欄の連中まで俺のフカシに騙されている。
1万倍になるという部分は嘘だ。ステータスとスキルを全開放しても、せいぜい800倍くらいにしかならないだろう。
これで降参してくれれば楽なんだが……
「朧ちゃん?何を敵の口車に乗せられているのかしら?
1万倍なんて大嘘も良い所です。
それよりも、さっさと何時ものポジションに付いて戦闘体勢を整えなさい!」
どうやら儚を騙す事は出来なかったようだな……
レベリング済みの人間とのガチ戦闘は、格闘技の域を遥かに越えた殺し合いの領域だ。
幾ら破格の能力が備わったとは言え、人間相手に進んで死闘をしようなんてヤツは只のサイコパスだろう。
例え相手がテロリストであっても、俺は朧と儚を殺そうとは思えない。
本当は敢えて力を制限しておいて、2人の油断を誘うというのが咄嗟に考えた作戦だった。
で、油断しない場合はネタバレと共にフカシをかまして、ヤツらに投降して貰おうというのが予備の作戦という感じだったんだが……中々此方の思うように事が運ばないな……
儚の指示に従って、朧は彼女の斜め前に移動して魔力を練り上げだした。
「さて、心理戦に失敗しちゃったみたいだし、俺も少しだけ本気になるか……」
「ウフフフ…アハハハ!
少しだけ本気?神城さん、それでも揺さぶりをかけているつもりですか?
アナタは人を殺す事を躊躇っている。
本気を出す覚悟が無いのは一目瞭然ですよ?」
クッ……儚のヤツ見抜いてやがる……コイツはマジで厄介だ。
せめて一対一なら無効化出来るかも知れないが、二対一では殺さずに捕縛出来る自信が無い……
俺の心の迷いを見切ったように、儚が凄まじいスピードで刃付き鉄扇を投げて来た。
俺はそれを余裕のサイドステップで躱しつつ、ブレスレットの力制限を緩めて更に加速。
しかし、2人がかりの戦いに慣れているっぽい朧は俺が躱すスペースを塞ぐように踏み込んで来た。
2人の予備動作はど素人どころの騒ぎじゃ無いほどお粗末だ。
儚は移動だけは分かりづらいが、攻撃のモーションが完全にど素人。
朧は全てがど素人。
だが、2人ともベースのステータスが恐ろしく高い。
そんな2人が殺しに何の躊躇も無く、連携して襲いかかって来るのだから、手加減なんて出来る筈も無い。
クソ……せめて一対一に持ち込めれば……ん?中々の魔力を持つ巨大な何かが此方に向かって来るぞ?
朧が近接戦で爆発する拳をぶん回し、俺が距離で躱そうとしたタイミングを見計らって儚が仕掛けて来るというコンビプレイを何とか凌いでいると、俺の魔力感知に気になる魔力反応が引っかかった。
もしや、ヤツらの仲間か!?
俺が第三の刺客に警戒していると、その巨大な何かはダンジョン入り口を囲む防壁を飛び越え、朧の真上に落ちて来た。
「ウォォォォォォオオオ!!!」
ドグォォォォォォォォォン!!!
地獄の底から響くようなド低音の咆哮と共に、アスファルトが砕けて周囲に飛び散った。
砂煙の向こうに巨大な影が見える……人型っぽいからオーガキングとかかな?
もしかして、朧は今のオーガキングの上からの一撃で死んだかも……いや、朧の魔力反応はある。
どうやら間一髪で飛び退いたようだ。
砂煙が晴れて来た……オーガキングはゴツい斧をゴツい手に握りしめている……
いや、待てよ!?オーガキングは大剣か棍棒を持っているハズ……斧を持っているオーガキングなんて見た事も聞いた事もない……という事は、アレは……
「ォォォオオオオボロォォォッ!!
テメェをブッ殺しに来てやったゼェ!!!」
「な、何ぃぃぃい!?
……お、お前はナンシィ(仮)!?」
何と、乱入して来たのはオーガキングでは無く、巌窟堂店主のナンシィ(仮)だった……
「フン……誰かと思えば、東堂巌じゃない。
まだ生きてたなんて驚きね」
更に驚きの事実が朧の口から明かされた……ナンシィ(仮)の本名は東堂巌というようだ……
朧が本名を口に出した瞬間、ナンシィ(仮)改め東堂巌から先程よりも濃密な殺気が溢れ出したのだった……




