57話 変な2人とバチバチの時に魔物が乱入して来たんですけど!? ③
ゴンッ!……ドシャァッ……
ヤツの右ストレート?をスリッピングアウェイ(首を捻ってパンチの威力を流す高等テクニック)で受け流し様、俺は左フックのプルカウンターを朧のテンプルに叩き込んだ。
何故右ストレートに疑問系が付くのかというと、ヤツのフォームが素人に有り勝ちな出鱈目なモノで、フックとストレートの中間のような軌道で飛んで来たからだ。
俺の絶妙なカウンターを食らった朧は、後ろに倒れ込んで手足をバタバタさせている。
《オボロが魚の活け造り状態で草www》
《またしても2人の動きが見えなかった……》
《ノーニート・ドナイラーのプルカウンターだ!》
《“アンダーソンを殺したテロリストがNIKIと戦っているとネットニュースで見て飛んで来たんだが……もう終わったようだね”》
《オボロが寝とる内に逮捕しろ!》
《【悲報】身体を変形させるテロリストよりもニキの方がバケモンだった【ワンパンKO】》
【¥10,000,000:MARY J BRADLEY:“ユーキ、明日にでも日本に向かうから、是非『VISITORS』に入って”】
コメ欄の中にドナイラーを知っている人がいるのか。
確かに今のはドナイラーがエルナン・モントリエールを仕留めたカウンターを真似たモノで、藍口君といつかリベンジマッチをした時に備えて猛練習したヤツである。
「さて、コメ欄に格闘技通がいる事が分かったのは嬉しいが、朧はまだ本気じゃ無さそうだ。
それに、ソイツからは嫌な魔力が漂っている。下手に手錠を掛けに近付いたら何をされるか分からん。
捕縛するのは完全に戦闘不能にしてからの方が良いだろう」
「ふぅん…以外と冷静なのね…
ウチはここまでコケにされて、腑が煮えくり返るくらいムカついてるけど」
俺がキャメラに捕縛に行かない理由を説明すると、一瞬手足をジタバタさせていた朧がカウント20位で立ち上がって来た。
忌々しそうな表情の彼女は一瞬で懐に入って来て、今度は右ボディを放って来た。
モーションはドシロートだが、ステータスがバカ高いだけでドシロートフォームのどテレフォンパンチでも脅威たり得る。
ドゴーーーンッ!!!
ガードの為に下げた俺の左腕に朧の右拳が触れた瞬間、拳との接触面が爆発した。
突如発生した衝撃波と爆炎の高熱で、俺の左肘付近がとんでもない事になっている……
「ククク……コレがウチの戦闘スキル【豪爆撃】!!
ウチの打撃に触れた所は爆発するのぉぉぉぉおりりりりぃぃぃい!!」
邪な笑みを携えた朧は実に楽しそうに左右のフックを連打しやがる……
ドバンッ、ドゴゴゴゴ…ドッバァァアン!!
一応連打は左右の腕でガードしたが、その度に腕が爆発するので、雪乃ちゃんに見立てて貰ったオサレTシャツの袖口がボロボロになってしまった……
「ククク…良い事を教えてあげる。
ウチはまだ2回変身が可能なの。変身する度にステータスは爆上がるわ。
1度目の変身でそのザマのアンタには絶望的な情報よね?」
《2回も変身する……だと?》
《少年漫画のテンプレキターーーー!!》
《クソ!ニキはもうボロボロだ》
《今からでも逃げてくれ!》
《ニキの両腕がプスプスいってて草》
《ユーキ様逃げて下さい!!》
《お、ニキが動くぞ!?》
《爆発パンチを10発くらい貰ってたのに大丈夫か!?》
ベリベリ……ズシンッ!!
ベリベリ……ズシンッ!!
ベリベリ……ズシンッ!!
ベリベリ……ズシンッ!!
真剣勝負を茶化そうとする連中が多いコメ欄は無視して、俺は両腕と両足の超重量サポーターを外して地面に放って見せた。
このサポーターは超一流装備品職人のナンシィ(仮)に作って貰った一つが重さ50キロの代物である。
「ふぅ…コレで随分と自由に手足が動かせるようになったゾ!
朧よ、第2ラウンドと行こうか!!」
《ニキも少年漫画のテンプレで草www》
《スマン…真剣に見ていたんだが、コレは草しか生えねえwww》
《オボロさんが呆気に取られた表情なのもイイ!》
《次は空中戦とかになりそうw》
《オボロの第3形態はツノとか生えるのかな?》
《何だか知らんがワクワクすっぞ!!》
《オボロたんがネタキャラっぽくなりそうで草》
「クッ!スマホの画面をこっちに向けるなァァア!!」
コメ欄を見たくない俺はドローンの向きを変えて朧にコメ欄を見せてみたが、彼女もコメ欄の連中にイラついたようだ。
怒りの表情で距離を詰めて来るが、動きが余りに直線的過ぎて草しか生えねえ。
笑いを堪えながらフットワークを使う俺氏は、朧のサイドに回りながらジャブを付いた。
シュパンッ、シュパパッ、ズドッ!!
ポジションを変えつつ、ジャブ3連打からの右ボディストレートがクリーンヒット。
朧は力一杯両拳をぶん回しているが、高速フットワークを駆使する俺を捉える事が出来ない。
「グッ、ちょこまかと…
そんなペチペチパンチがウチに効く訳ねぇ…」
ズパーーン、バゴーーンッ!!
朧が動きを止めて悔しそうに負け惜しみをほざいた所で、俺はステップインして肩を入れたジャブから右ストレートに繋げてみせた。
意識の隙を縫った強パンチは功を奏したようで、朧の膝がガクガクと揺れている。
「バカなヤツだ。
パンチに強弱や緩急を付けるのはボクシングの初歩だぞ?
ステータス任せで全て力一杯拳を振るうドシロートの貴様には理解出来ないだろうが、軽い攻撃や緩いリズムに身体が慣れた所に鋭く強いパンチを貰うと、想像以上のダメージを受けるモノなのだ」
俺は朧にボクシングの初歩を説きながら、牽制のジャブにダメージングジャブを織り交ぜて付き続ける。
朧はゴツくなった両腕を上げて、只管ガードに徹している。
人型のダンジョン魔物や朧なんかは格闘技ドシロートなので、蹴り技は使わない。
いや、使えないと言った方が正しいだろう。
格闘技の蹴りは日々の練習が必要である。前蹴りにしても回し蹴りにしても、素人が使っても上手く体重や遠心力が乗らないし、ドシロートがフォーム関係なしに力任せに蹴った所で返って本人の脚を痛めてしまう。
俺はパンチに頼るしかないドシロートの朧に合わせて、ボクシングで戦う事にしたのだ。
左右のフックを上下に散らして、ヤツのガードを外側からのパンチに意識を集中させて……
ゴギャッ!!
ガードが開いた瞬間に、右ショートアッパーを朧の顎にハードヒットさせた。
大きく上に頭部を弾かれた朧は両膝を地面に付いてから、前のめりにダウンした。
「分かるか?
外側へ意識を持って行かせておいて、右ストレートではなくアッパーに繋げた訳だ。
俺は右ストレートを決め打ちしていたから、貴様は俺が右拳を引き絞って腰を落とした瞬間、右ストレートが来ると判断しただろ?
プロ格闘家の攻撃は一筋縄では行かない。
同じ予備動作から軌道の違うパンチを繰り出す事が出来る訳だ」
《ニキがオボロにボクシングの手解きをしとるwww》
【¥50,000,000:『餓狼』AYUM@:神城君の技術解説と先日の件のお礼も兼ねて】
《ニキってやっぱ元プロボクサーだったのかな?》
《雄貴様が素敵過ぎる❤️》
《動きが速すぎて生中継だとニキのパンチが見えん》
《テロリスト相手にドヤ顔でボクシング技術語るの草》
《うぉぉお!アユマット様のスパチャがヤベェ!!》
「お!アユマットさん、いつにも増して高額スパチャありがとうございます!!
次は、『餓狼』の皆さんと訓練コラボお願いします!!
……さて、そこの君はいつまで身を潜めているつもりだ?」
俺はアユマットさんに礼を言うと、2分程前から俺が身を潜めていたゲートで此方を伺っていた何者かに声をかけた。
「……へぇ……私に気付いていたとは驚きました。
アナタは予想以上の化け物みたいですね?」
ゲートから姿を現したのは、コレまた存在が異質過ぎる女だった……。
真っ白な長髪に赤い瞳……白を基調にした着物……そして、飴ちゃんをペロペロと舐めている……
……その姿はまるで……
「日本旅行に舞い上がって、変な柄の着物を買ってしまった外国人観光客のような女だな。
お前もそこに突っ伏している朧の仲間か?」
「はぁ?……どうやらアナタは人をイラつかせる才能があるみたいですね……
朧ちゃん?いつまで無様に転がっているつもりなのかしら?」
変な着物の女は露骨に顔を顰めて朧に声をかけた。
朧は女の声を聞くなり、慌てて身を起こしている……その表情は怒りではなく、緊張しているように見受けられる。
着物女は朧よりも立場が上という事なのだろうか?
「は、儚……どうしてここに?」
「神城さんがご丁寧にそこのどアホの追跡を生中継してくれましたからね……
まだ人前に姿を晒すつもりはありませんでしたが、こうなった以上仕方ないでしょう……
さっさと神城さんを殺して戻りますよ?」
「……わ、分かった……」
2人は言葉を交わすと、俺の方へと向き直って構えだした。
コレは2対1の戦闘になりそうだな……
俺はかつてない死闘を予感しつつ、儚という不気味な女の方へと足を踏み出したのだった……




