47話 『餓狼』の拠点にアポ無し凸をぶちかましますけど? ⑤
例えば君達が高位探索者だったとしよう。
君達の恋焦がれている異性も同じく高位探索者だったとして。
その異性が強敵から致命傷を与えられた時、果たして君達は冷静に行動出来るだろうか?
そんなシチュエーションで冷静に行動出来る人間など殆ど居ないだろう。
日本を代表する大手クランを率いる若きリーダーも例外ではない……
「栞ぃぃぃいいい!ダメだ、ダメだ、ダメだ!
死んだらダメだぁぁああああ!!」
アユマットさんが目に涙を溜めながら、首を斬られて崩れ落ちる敷島さんの方へと駆け出した。
無防備に。
まるで車に轢かれた愛犬に駆け寄る子供のように。
周りの事など見えていないかのように。
一心不乱に敷島さんの元に向かう。
シュンッ……ザパァァァアッ!!
突如アユマットさんの背後に現れた漆黒の首無し騎士が、その無防備な背中を大剣で斬り付けた……
「ガハァァァアッ!!
ゲホッ!……し、しお、り………」
アユマットさんは致命傷を負って地面に倒れ伏しても尚、敷島さんの名を口にする……
その光景を目の当たりにした田沢さんが、佐藤さんが、小田さんが、2人の方へと足を踏み出す………
『餓狼』に冷静に動ける人は1人も居なかった………
シュオンッ………ガキンッ!!
混乱と恐怖が場を支配する中、雪乃ちゃんは冷静にダークデュラハンの胸部に向けて魔力コーティングクナイを投げ付けた。
惜しくもクナイは大剣に弾かれたが、一瞬ヤツの動きを止めてくれた功績は果てしなく大きい。
彩音の喝のお陰で冷静に立ち戻れた俺達『ガチ勢』は、それぞれが今成すべき事を冷静に判断して、既に行動に移している。
俺は先ず、敷島さんの元へと駆け寄り、【アイテムボックス】から取り出した最上級ポーションを手早く首の傷へとかける。
漆黒の首無しはワンテンポ遅れで俺の行動に気付き、スキルを使おうと魔力を練り上げている。
敷島さんの首が斬られた時も、アユマットさんの背中が斬られた時も、ダークデュラハンはまるで瞬間移動のようなスピードで一瞬で2人の近くに移動していた。
コイツを目だけで追っていると、暗黒首無しは超スピードの持ち主と思うだろうが、そうでは無い。
絶えず魔力を探っていた俺達には分かる。コイツは影から影へと移動するスキルを持っている。
その事が分からない人には脅威だろうが、タネが分かればどうという事も無い。
ヤツが魔力を練り上げた時、移動先の影にもヤツの凶々しい魔力が宿る。
まぁ、3回も同じスキルを使わせるつもりは無いけど。
見に回っていたので後手に回ったが、俺達の連携によって今度はヤツが一手遅れとなっている。
馬鹿なダークデュラハンは、自分が後手に回った事に気付いていない。
ドゴォォォオン!!
ダークデュラハンから距離を置き、全体を見渡せる位置にポジショニングを取った彩音のホーリーバーストが、首無し野郎の背中に炸裂した。
俺は最高の仲間達のアシストを決して無駄にはしない。
視覚だけに頼り過ぎる事なく、ドス黒い首無し鎧野郎の魔力を感知しながらアユマットさんの方へと距離を詰める。
ビュオンッ……ドパァァアン!!
一瞬、彩音と俺のどちらをターゲットにしようかと迷ったダークデュラハンの左肩を、雪乃ちゃんの超速クナイが吹き飛ばした。
俺達を訓練ジャンキー呼ばわりした視聴者達よ、見ているか……
「これが毎日訓練に明け暮れる『ガチ勢』の連携じゃあああ!!」
バギョォォォオン!!
ガォン、ガキャンッ……
既に【ジャイアント・キリング】と【モード:アクセル】を解放済みの俺は、雪乃ちゃんに左肩を吹き飛ばされてグラついたダークデュラハンとの距離を詰め、右のミドルキックを見舞った。
ヤツの体はボス部屋の壁まで吹き飛んで、激しく壁に叩きつけられてから地面に転がった。
「良し、これで回復の時間が稼げるぜ!!」
俺は手早くアユマットさんの背中に最上級ポーションを振りかけると、地面に転がるダークデュラハンに向き直る。
ヤツはガシャガシャと鎧音をたてながら、ゆっくりと立ち上がろうとしている。
野郎が立ち上がるまでのんびりと待っていてくれる程、ウチの女性陣は甘くない。
次々とクナイや魔法がデュラハンに着弾。
ヤツのめちゃくちゃ硬そうな漆黒の鎧はボロボロになった。
「桐斗ぉぉお、見てるかァァア!?
カッコいい必殺技でボスを倒すからなァァア!!
【モード:ブラスト】!!」
俺はドローンの向こう側へと呼びかけると同時に、【モード:ブラスト】を解放。
次の瞬間、俺の両肩の辺りに二本のバズーカ砲が出現した。
「ファイアアアアア!!」
ドドゴォォォオオオオン!!!
ド派手な爆音と共に発射された超威力魔力砲が、ダークデュラハンを一瞬で粉微塵にした。
【『超越者』神城雄貴が、3回連続で『管理者』エリン・エ・ラ・テュルネイレ・マッシオ・ノ・ム・セマーリオ・ゲキオコ・ノリュヘイエム様の試練を乗り越えた事を確認しました】
【これより『エリア112』、国名:日本の全てのダンジョンが1年間のクールダウン期間に入ります】
【クールダウン期間中は、日本国内の全てのダンジョンはあらゆる異常が発生しなくなります】
【『超越者』神城雄貴にはコンプリートボーナスが与えられます。
また、管理者試練を二度乗り越えた『超越者』清川雪乃にはクリアボーナスが与えられます】
漆黒のデュラハンが消滅したタイミングで、脳内では無くボス部屋内に無機質な女性の声が響いた。
色々と気になる事を言われた気がしたし、コメ欄はめちゃくちゃ凄い勢いでコメントが流れているが、今はそれどころじゃ無い。
俺は先ず敷島さんとアユマットさんが命に別状が無いかを確認した。
「田沢さん、佐藤さん、小田さん。
お2人は大丈夫です!傷も塞がっているし、呼吸も安定してます!」
俺は2人の状態を呆然と立ち尽くす田沢さん達に伝えると、3人は俺達の方へと駆け寄って来て口々にお礼を言ってくれた。
5分程経ってアユマットさんと敷島さんの意識が戻った時、ボス部屋にいる全員のスマホが一斉に鳴り出した。
着信相手は皆んなバラバラだ。
スポンサー企業のお偉いさんだったり、家族だったり。
で、俺に電話をかけて来たのは……
「ああ、もしもし。
タテイシ・ラミレスから電話をくれるなんて珍しいな」
『神城さん!本当に良くやってくれました!
勿論、清川さんも柊さんも本当に素晴らしい!
信じられますか!?
今まで測定器が異常値を示していた日本各地のダンジョンが、軒並み平常値になったんですよ!?
偉業を成した御三方に、心からの感謝をお伝えしたくて電話をさせて頂きました!
『ガチ勢』と『餓狼』には、日をあらためて特別報奨金をお贈り致します!』
「ああ、そっか。
でも、手放しには喜べないな……前途有望な若者達を救う事が出来なかったんだ……」
『そ、そうでしたね……
申し訳ありません。
『清水の花園』の件を失念しておりました…
JSA(日本探索者協会)会長として、『清水の花園』メンバーのご遺族には誠意を持って対応させて頂きます』
「ああ……俺は報奨金は要らんから、俺に渡す分を彼等のご遺族にお渡ししてくれないか?
金でどうこうなる問題では無いのは分かっているが、彼等の尊い犠牲に何かしらの形で報いたいんだ」
『神城さん……
分かりました。
私どもJSAからも当然補償金をお出ししますので、神城さんからのお気持ちも合わせてという事で、充分な金額をご遺族にお渡しして参ります』
俺はタテイシ・ラミレスとの通話を終えると同時にスマホの電源をオフにした。
他の面々もはしゃいでいる者は1人もいない。
ボス戦迄は無理矢理気持ちを奮い立たせていたが、攻略を終えた今は皆それぞれ清水君達の死を悼んでいる……
その後、無言でボスドロップとダンジョンコアを回収した俺達は、哀しみを胸に転移魔法陣で地上へと帰還したのだった。




