46話 『餓狼』の拠点にアポ無し凸をぶちかましますけど? ④
「死ね死ね死ね死ね死ねぇぇええ!!」
此処に居る皆んなに擦り傷一つ負わせないと決めた俺は、【モード:エクスターミネーション】による広域殲滅攻撃で、道中の死霊系Aランク魔物を瞬殺しながら突き進んでいた。
5階層の小ボスはハイパーボーンというどデカい骨片のような形状Aランクボスだったが、コレも瞬殺。
我々は今、8階層を攻略中だ。
「か、神城君、余りにオーバーペースだ。
一旦、パーティーの連携での討伐に……」
「オラオラオラオラオラ死にさらせぇぇえ……」
「いい加減にして下さいまし!!」
バチーーン!!
俺が全力で殲滅をしている最中、いつに無く険しい表情の彩音が俺の頬を張った。
「ぶ……ぶったね?姉貴と雪乃ちゃんにしかぶたれた事無いのに!!」
「お黙りなさいまし!!
ユーキ様、いつもの貴方様らしく無いのですわ!ユキノさんも!
あなた方は初めて直面した“死”の恐怖に取り憑かれて、冷静さを欠いて居るのですわ!!
しっかりして下さいまし!!ユーキ様はまだ攻略中盤とは思えない程、体力も魔力も消耗しているではありませんか!?
今からそのザマで、この先益々強力になって行く魔物と、どのように戦って行くつもりですの!?
ユキノさんも、何故いつものように的確な指示を出さないのですか!?
視野が狭くなり過ぎですわ!!」
彩音にガチ説教を食らった…
だが、彼女のお陰で俺は冷静さを取り戻せた。
確かに、俺はコレまで経験したことの無い妙な感情に囚われ、周りが見えなくなっていた。
自分の消耗度合いも分からず、がむしゃらに殲滅していた。
「彩音、ありがとう。
おかげで、冷静さを取り戻せたよ。
お前がメンバーで本当に良かった」
「彩音さん、ごめんなさい。
私、リーダーとしての立場を忘れてました。冷静になれましたので、もう心配いりません」
俺と雪乃ちゃんは彩音の機転のおかげで少し落ち着く事が出来た。
元プロ格闘家(の鬼練を積み重ねて来た素人)として情け無い話だ。
死ぬ覚悟でリングに上がる事と、実際に死に触れる事がここまで違うとは思わなかったぜ。
あと、ハイペースで魔力を消費し過ぎてヤバいかも。皆んなには悪いけど、一旦休憩させて貰おうか……
ドバゴーーーーン!!
「此処からの道中魔物の間引きは私と理未さんと英治さんが引き受けますわ!!
ユーキ様はマジックポーションを飲んで回復に努めて下さいまし!!
彩音さんと栞さんはバックアタックの警戒をお願い致しますわ!!」
俺が一息つこうかと思っていたタイミングで、彩音の聖属性魔法『ホーリーバースト』が前方のエルダーゴーストの集団を吹き飛ばした。
素晴らしい破壊力を我々に見せつけた彩音は、全体に実に的確な指示を出してくれた。
俺がテンパっている間に『餓狼』の皆さんと話は付けていたようで、既に陣形は整っている。
俺達は気を取り直して攻略を再開したのだが……
「あ、あの…俺と春輝は…」
「うっさいわね!アンタと春はエルダーゴーストやレイスと相性が悪いんだから、大人しく見学してなさいよ!」
「な、何だと!?『餓狼』のリーダーは俺だぞ!?
指咥えて見てるだけとか、ふざけんな!!」
「はぁ?なら、アンタらが前線に出てエルダーゴーストと戦うワケ?」
「い、いや…そ、そういう訳じゃぁ…」
「フン!アンタらは大人しくドロップ品を拾って、マジックバッグに詰め込んでいれば良いの!
分かった!?」
「ぐぬぬ……栞に荷物持ち扱いされるとか、マジでムカつくぜ……」
な、何かアユマットさんと敷島さんが言い合いをしているんだが、大丈夫なのか?
「見苦しい所を見せてゴメンね。
栞さんと歩夢さんはいつもあんな感じなんだ」
「あ、ああ、そうなんですね」
俺が若干引いていると、同じく荷物持ち枠となった田沢さんが俺に2人の関係性を説明してくれた。
「2人は幼馴染でさぁ、歩夢さんは多分栞さんの事が好きなんだと…」
「オイ、春輝!神城君に変な事を吹き込むんじゃねえ!!
お、お、俺は別に、栞の事なんて女として見てねえっつうの!!」
「な、な、何よ!!
私だって、歩夢の事なんて男として見てないんだからねっ!!」
うぉぉ…何か、中学生みたいな…いや、小学生みたいなやり取りをしているぞ?
どう見ても、2人はお互いを好き合っている感じなのに、素直になれない感がヒシヒシと伝わって来る。
ここは日本一の美少女を婚約者にした恋愛マスターの俺が、2人の仲を取り持ってやるしか無いかな…
「雄貴さん。
お2人を見てやれやれっていう顔をしてますけど、雄貴さんなんてもっと酷かったんですからね?
私が1年以上好き好きアピールをしていたのに、雄貴さんは私に嫌われているとか思っていたんですよね?」
うっ……痛い所を突かれたゾ……
た、確かに、雪乃ちゃんは俺が元嫁から離婚した頃からずっとアピールしてくれていたらしいが、俺は全く気付かなかったものなぁ……
雪乃ちゃんに鋭く指摘された俺は、その後は黙ってマジックポーションを飲みながら回復に努めたのだった……。
◆◇◆◇◆
その後、彩音と『餓狼』の見事な連携によって10階層の中ボスのアンダードッグを屠り、道中魔物も排除して行った我々は、遂に15階層のダンジョンボス部屋前へとやって来た。
相変わらず、栞さんとアユマットさんは口喧嘩をしているが、皆んなは完全にスルーを決め込んでいる。
《最早、AYUM@とシオリーナの口喧嘩はデフォ》
《ラップバトル並みにディスり合うよな》
《毎回アユマット氏の惨敗なのに何度も立ち向かうのだから、氏のハートはめちゃくちゃ強い》
《まぁ、いつものイチャイチャだからスルーで良くね?》
《シオリーナはアユマットをディスらない時はめちゃくちゃお淑やかで可愛いんだがな》
《あ!アユマットさんがぐぬぬしか言わなくなった!》
《今日もアユマットの負けだな》
《最後はいつもワンサイドwww》
どうやら視聴者にとっても2人の口論はデフォらしい。
『餓狼』の幹部達のダンジョンアタックは毎回テレビ夕陽の有料コンテンツでのPPVだから、俺は探索者登録後の2回しか見た事が無い。
その2回とも、家事や桐斗との時間の合間を縫って見る感じだったから、しっかりと見た事が無かった。
まさか、毎回2人がこんな言い合いをしていたとは……
桐斗は託児所で、リョウちゃんやマホちゃん達とこの様子を見ているのだろうか?
セレブ限定託児所は保護者が高位探索者の場合、PPVを子供達に見せる場合があるらしいから、可能性はある。
まぁ、『ラッキー・パンチライン』の生配信はリーダーの永遠さんが下ネタを連発するから、消音モードで見せているようなので、桐斗達が見ていたとしても2人の口論も消音にしているだろう。
俺はそんな事を思いつつ、損耗のチェックを入念に行なった。
俺の魔力は8割にまで回復しているし、彩音も魔力のコントロールが飛躍的に伸びた為に、魔力はまだ余裕があるようだ。
雪乃ちゃんも数える程度しか戦闘をしていないし、全くのノーダメージ。
『餓狼』の面々も特に問題は無いようなので、アユマットさんが敷島さんにコテンパンに言い負かされたタイミングで、我々はダンジョンボス部屋へと足を踏み入れた。
「やはり虹色か…」
攻撃魔法の使い手である小田さんが、ボスの召喚魔法陣から放たれる光を見て呟いた。
コレはSSランクボス確定演出なので、正直絶望感しか無い。
ヒュポポニムスの時はただ運が良かっただけで、今回はダンジョンの特性から俺とは余り相性の良くない亡霊系のSSランクボスだろう。
俺も小田さん同様に陰鬱な気持ちになっていると、虹色の光の向こうから2メートル程の巨体の影が見えて来た。
「マズい!!ダークデュラハンだ!!
全員、戦闘態勢を取れ!!絶対に気を抜くな!!」
アユマットさんが全員に呼びかける。
ダークデュラハンは初めて耳にする名前だが、ヤツから放たれる魔力だけで相当ヤバい相手である事が伺える。
先ずは躱す事を優先して、ヤツの初動を見極め無くては。
俺は即座に雪乃ちゃんと彩音にハンドサインを送った。
2人は既に同じ事を考えていたようで、緊張感を持った表情でコクリと頷いている。
魔法陣の光が収まると、ダークデュラハンは腰を落として大剣を構えた。
その動きに合わせて、『槍聖』の職業スキルを持つ敷島さんが槍に魔力を込めようとしている……
「敷島さん、攻撃するな!!
左に躱……」
シュンッ………ザシュッ……
俺が敷島さんに声をかけた瞬間、ダークデュラハンが動いた……
敷島さんの首が斬られて、大量の血が吹き出している……
「栞ぃぃぃぃい!!」
ボス部屋内に、アユマットさんの悲痛な叫び声が響いた……




