42話 救えないヤツら
《備土瑠奈(元嫁)視点》
「何で俺らがこの先に入れねえんだっつの!!」
「ですから、高位探索者の居住区域に身分が不確かな人は法律上入る事が出来ません。
運転免許証やマイメンバーカード等の身分証をお持ちでは無いのでしたら、お引き取り願います」
コーキの提案で雄貴から直接金を奪う事になったんだけど、どーゆう事か雄貴んちがある東品川へ向かうルートにケーサツが立っていて、身分証を見せろと言われた。
アタシは免許証なんて無えし、マイメンカードもめんどいから作ってない。
コーキは飲酒運転で免許証を取り上げられたらしーし、マイメンカードも無い。
コーキはケーサツにゴネてるけど、身分証を出せの一点張りで通して貰えそうにない。
「あのさぁ、アタシ、この先に住んでる神城雄貴の元嫁なんだけど、どーして元旦那に会いに来たのを止められるワケ?」
「ですから、それを証明する物を見せて下さい。
それと、その話がもし本当だったとして、なぜ神城さんの前の奥様が身分不詳の男を連れて会いに行くんです?」
「んなもん、いしゃりょーを払って貰う為に決まってんじゃん」
「慰謝料?でしたら、弁護士を通すべきではありませんか?
それとも、其方のチンピラが弁護士だとでも?とてもそんな風には見えませんが」
「弁護士じゃ話になんねえから、こーして実力行使で金を払って貰いに来たんでしょ!!」
「小林君、彼女らは高位探索者に危害を加える可能性がある。
余りしつこいようなら、勾留した方が良いだろう。
応援を呼んでくれ」
「ちょっ、待て!今のジョーダン!!
ただ、俺らはカミシロユーキのサインが欲しくて来ただけだっつーの!!
また、身分証持って出直す!!
オラ、ルナ、行くぞ!!」
もう1人のケーサツが腰の手錠に手をかけた瞬間、コーキが慌てて誤魔化した。
マジで危なかった。
アイツらアタシらをタイホする気満々だった。
アタシとコーキは慌ててその場を離れて五反田駅へと引き返した。
「つーか、どーなってんだぁ?
オメエの元旦那って、ケーサツが動くほどヤバいヤツって事か?」
「分かんねえわ。
ハァ……つーか、アタシ、もういしゃりょーとかどーでもいーから、アンタと別れるわ」
五反田駅前のオターバックスでコーヒーをしばきながら、アタシはコーキに前々から考えていた事を伝えた。
この男はもうマジで使えねえ。
とりま、コイツと別れて雄貴に詫び入れれば、あの甘い雄貴の事だからアタシとヨリを戻すに決まってる。
ネットニュースで見たけど、雄貴は此間の吉祥寺ダンジョンに凸した時に配信の会社だかから詫び金だかで、100億くらい貰ったらしい。
ヨリが戻ればその100億はアタシの金っつー事になる。
この際、雄貴が桐斗にベッタリでもいい。その金でホストクラブにでも行けば、ホスト共はアタシを女王のように扱うだろーし。
「ふざけんなよ!俺はぜってぇ別れねえからな!」
「はぁ?そんなの知らんし。
仕事クビになって金も無いアンタと居ても意味ねえじゃん?
雄貴ん所に戻れば一気にセレブじゃんよ」
「はぁ?あのヘナチ◯の所に戻れる訳無えだろ。
ヤポウニュースにユキノとかゆー女と結婚するとか載ってただろーが」
は!?コイツ、何ホラ吹いてんの!?
雄貴はまだアタシに気が有るんだから、あんなクソガキと一緒になる訳ねえっつーの!
「お、あった!
この記事に書いてあんぞ」
アタシがクソみてえな嘘をつくコーキをケーベツしていると、コーキはスマホの画面を見せて来やがった……
……マジだ……
そこには『人気探索者清川雪乃、卒業後は英雄と結婚』という見出しと、2人が忌々しく腕を組んでいる写真が載っていた。
「つーか、オメエの元旦那ってヒデオっつーんだな。
イケメンのクセに地味な名前じゃねーか」
「ちげえわ!アイツは雄貴っつー名前だから!
バカな記者がヒデオって間違えただけだわ!
つーか、マジでありえねー」
アタシは怒りに震えながら記事を読んだ。
所々訳わかんねー漢字があるけど、雄貴が生配信中にあのガキと結婚すると言ったらしー。
にしても、ナニ?この記事?
神城雄貴って書いてんのに、所々で『東京を救ったヒデオ』とか、『ヒデオの結婚に祝福の声』とか、間違えて書いてる。
ああ、この記者バカだから、多分コレはガセだわ。
そーに決まってる……
「他にもコレとか変なタイトルだけどよぉ、『セイカワユキノ、ヒデオとドーサイか!?』っつってめっちゃ手ぇ繋いでる写真が載ってんぞ」
安心していた所に、コーキは更に別の記事を見せて来た。
ドーサイがどーいう意味か知らないけど、確かに2人で手を繋いで夜道を歩いている写真が載ってる。
その後も次々と雄貴とクソガキの婚約とか結婚の記事を見せられて、マジで凹んだアタシにコーキは何かを決意した顔で語りを入れて来た。
「なぁ、俺ぁルナの事マジで考えてんだぜ!
だからフツーに探索者になろーって決めた!
あのヘナチ◯でも百億稼げるっつーんだから、俺ならその上…千億、いや!万億稼げるにちげえねえ!」
何故だろう……アタシはこの時、このバカの言葉を信じようと思ってしまった……
雄貴とあの女のネット記事を見て凹みまくっていたアタシは、クソにも縋りたい気持ちっつーの?
そんな感じのテンションだったんで、もう一度コーキを信じてみる事にした。