33話 黒歴史を語りますけど? 前編
昨日の井上選手の激闘の熱とブクマ登録や高評価を頂いてテンションが上がったので、本日も投稿します!
因みに、ボクシングネタとなりますが、この話は先月執筆済みだった物に少し修正を加えたモノで、昨日の試合に当てられて書いたモノではありません。
「まだ反応が遅いな。
コボルトは子供のような体型だが、Fランク魔物の中では敏捷性が高いから、それでは攻撃を受けてしまうぞ」
「ハァ…ハァ…う、うす!
も、もう一本お願いしやす!」
リョウちゃんパパ救援から1週間が経った朝7時。
俺達『ガチ勢』&キリトはJSA(日本探索者協会)東京本部の訓練施設に来ていた。
今日は『無双三連星』とトレーニングコラボという事で、今はリーダーのトドロキに稽古を付けている所だ。
最初は軽薄そうでチャラチャラしたイメージの彼等だったが、意外と礼儀正しい青年達なので、探索者登録の日以来、ちょこちょことDMで連絡を取り合っていた。
これまで多額のスパチャをくれていたし、探索者登録後に収益を振り込んでくれたお礼をしたいと考えていたので、今回は我々のドローンは付けずに『無双三連星』伝説の独占生配信にしたのである。
既に同接500万人越えで、スパチャの額も相当なモノになっている。
彼等の懐も随分潤う筈だ。
「ママァ、これみてぇ。
ボク、あしょこまれジャンプれきるんらよ!」
「わぁ、キィたん凄いね〜!
大きくなったらヘクターになれるね〜」
「うん!ボク、ヘッタになりゅ!」
訓練施設の隅では雪乃ちゃんが桐斗の面倒を見てくれている……って言うか、最近桐斗は雪乃ちゃんに甘えて離れないのだ。
実はリョウちゃんパパ救援の2日後、俺は雪乃ちゃんとのデートリベンジを敢行。
オサレなディナーの時に、勇気を出して雪乃ちゃんに結婚を前提の交際を申し出て、見事にオーケーして貰えたのである。
そ、そ、その時、キ、キ、キッスはしたが、それ以上の事は未だにしていない。
あの日以来、雪乃ちゃんも俺の家で一緒に暮らしているが、断じてキ、キ、キッス以上の事はしていないんだ。
何せバツイチがJDに如何わしい事をするなんて逮捕案件だからな。
「ハァ、ハァ、ゼェ、ハァ……も、もう腕が上がらないのですわ……」
「ハァ、ハァ……や、ヤベェっす……自分、脹脛パンパンす……」
「お、俺は…ゼェ…ゼェ……
腕も、足も上がらな…ウップ!」
我々から少し離れた所では、彩音、インテリ担当のシモカワ、イケメン担当のヨータが床に転がっている。
彼女らはまだ基礎体力が不十分なので、40キロのダンベルを両手に持ち、5分間片足でスキッピングしながら交互にパンチを振るトレーニングを6セット行ったのだ。
《朝から地獄過ぎるんだが……》
《彩音様!もう1セット頑張ってオッパイ揺らして下さい!》
《何この人達?何かの刑罰を受けてるの?》
【¥100,000:『パゲ&アスタ』陣内達夫:『無双三連星』の根性に感動した!】
《汗まみれで床に転がってハァハァする彩音様がエロ過ぎる件》
《見てるだけでこっちまで吐きそうになる…》
《先ず、朝一で20㎞を20分で走る時点でヤバかった。イケメンニキ、雪乃ちゃんはケロっとした顔で走ってたし》
コメ欄の人達は皆んなど素人のようだ。
この程度は軽いアップでしか無いのに、何を騒いでいるかが分からない。
「良し!では、10分5ラウンドのシャドーで締めだ!
『無双三連星』は2日後の千駄木ダンジョンに出現するコボルトをイメージしろ!
『ガチ勢』は日程が決まって無いが、吉祥寺ダンジョンのオーガをイメージしてシャドーだ!」
《10分5ラウンド……》
《魔物と戦う新しい格闘技の練習か?》
《ニキの動きがヤバ過ぎる》
《キリトちゃんも一緒にオモチャの剣を振ってて可愛い》
《ニキは何体のオーガと戦う所を想像してるんだ?凄えスピードで動き続けてるが…》
【¥30,000:東原陸:『無双三連星』頑張れ!】
《Bランクパーティーで剣士の俺氏、うかうかしていたら『無双三連星』に追い越される気がする》
《雪乃ちゃんの動きもヤバない!?移動が速すぎるだろ!》
《トドロキ君、マジで根性あるよな。三連星の中で1人だけフットワークを続けてる》
《彩音様だけ直立で動いてねえ》
コメ欄はわちゃわちゃとした状態だが、俺はサボっている彩音に喝を入れ、その後も黙々とシャドーを続けたのだった。
◆◇◆◇◆
「兄貴、姐さん、本日は俺らのような底辺の為に貴重なお時間を割いて頂いて、本当にありがとうございました!」
「イ、イケメンの兄貴の……ウプッ!つ、強さの真髄が分かりやした!」
「ゼェ…ハァ…あ、兄貴ぃ…姐さん…じ、次回はもう少し加減を…うぇぇえ…」
朝トレ生配信を終えた『無双三連星』は礼儀正しく横並びになり、わざわざ俺に頭を下げてくれた。
俺と雪乃ちゃんと彼等は同期なので、そこまでしなくても良いのに律儀な青年達だ。
「別に畏まる必要なんてないのに、君らは礼儀正しいな。
それにしてもトドロキは距離感も良いし、近接戦闘のセンスがあるな。
何か格闘技を習っていたのか?」
「あ、あざっす!
兄貴に褒められて光栄っす!
俺は高校の頃にボクシング部に所属しておりやした!」
「ほう、ボクシングをやっていたのか。
道理で筋が良い訳だ。
そう言やぁ、俺が唯一負けた相手がボクサーだったなぁ…」
「えっ!?
兄貴程の方が負けた事が有るんすか!?」
俺がトドロキのバックボーンを聞いて、ふと過去の手痛い敗戦の事を思い出して口にすると、トドロキは大袈裟なリアクションをした。
コイツは俺を何だと思っているんだ?
俺は格闘技の才能は凡人並みだったんだから、負ける事だってある。
生涯無敗なんて、余程キャリアの短いヤツか一握りの超一流選手だけだろう。
「そりゃ負ける事も有ったさ。
(スパーリング)107戦106勝106KO1敗が、俺の格闘家時代の戦績だ」
「す、凄えッス!!
100戦以上して、KO率100パーじゃないっすか!!
無敵の強さを誇る兄貴が負けた相手って、世界王者とかっすか?」
「いや、世界王者なんていう大層な選手じゃないさ。
アマチュアの……確か、藍口竜樹っつったかな?無名のアマチュアだよ」
「はぁっ!?
藍口って、ローマ五輪のウェルター級で金メダルを取った天才ボクサーじゃないっすか!!
どこも無名じゃないっすから!!
え!?藍口との試合はどんな感じだったんすか!?」
トドロキの口から驚きの情報が飛び出した。
まさかアイツが五輪金メダリストだったとは……道理でパンチが見切りずらかった訳だぜ……。
俺は当時を思い出しながら口を開いた。