23話 幸せいっぱいなんですけど!?
ブクマ登録と高評価を下さった皆様、本当にありがとうございます!
お陰様で執筆が順調に進んでおります。
ブクマと高評価を頂く度に執筆意欲が湧く生き物なので、まだの方は是非ブクマ登録と高評価をお願い致します!!
「ふわぁぁあ…そろそろ朝ごはんを作って…桐斗を起こさないとな」
甘酸っぱい夜が明けた。
雪乃ちゃんとはお互いの事を色々と話せて、結構距離が縮まった感じだ。
当然、俺は彼女に指一本触れてない。
雪乃ちゃんは客間で寝て貰っているので、寝室も別にしてある。
俺がチキン野郎という事も大きいが、正直桐斗を一番に考えて生活する事に入れ込み過ぎていて、色恋ごとを考える余裕が無かった。
雪乃ちゃんの気持ちを聞いて嬉しかったけど、俺が雪乃ちゃんを真剣に愛しているのかは正直分からない。
好意を持っているのは確かだが、異性として愛しているかがまだ良く分からない。
そんな中途半端な状態で、なし崩し的に関係を深めるのは雪乃ちゃんに失礼だと思ったんだよな。
でも、多分コレはそういう気持ちなんだとは思うんだが…
さて、色々と理屈を捏ねたが、今日は朝ごはんを食べたら公園で桐斗の自転車の練習だ。
もちろん補助輪付きだけど、子供にとって自転車というものは無限の可能性を秘めた乗り物だ。
俺も子供の頃は自転車が有れば、この道を何処まででも行けると思っていたっけ。
あのワクワク感に桐斗は足を踏み入れようとしているのだ。
はぁ…我が子の成長を見守る事が出来るのは、何と幸せな事なんだろう…
どうぶつさんの鳴き声もどんどん覚えているし、簡単な絵本ならば読めるようになっている。
託児所で出来たお友達のリョウちゃんやシン君、マホちゃんとの仲もとても良い。
これで雪乃ちゃんと真剣に交際が出来て、ゴールインなんて事になれば…
あれ?台所から物音がする。
「あ、ユーキさん、おはようございます。
お台所を勝手に使ってしまってごめんなさい」
「ああ、お、おはよう。
何だかお料理を作って貰って悪いね」
「いえ。先ずはユーキさんとキィたんの胃袋を掴んでおきたかったんです。
男の人って、お料理が上手な女性に惹かれるって言いますし」
雪乃ちゃんはそう言って可愛らしく微笑んでいるけど、俺は何気に雪乃ちゃんのエプロン姿に惹かれている。
普段俺が付けている紺色で可愛さのかけらもないエプロンだが、雪乃ちゃんが付けると何とも堪らん。
元嫁は料理なんて全く出来なかったので、余計に新鮮な感じがする。
改めて見ると、雪乃ちゃんは凄まじく可愛いな…
「はは、い、意外と策士なんだね。
う、うん、それ以外にも色々と惹かれるけどね」
「うふふ。色々が何なのか気になります。
あ、そう言えば、ユーキさんのスマホが繰り返し鳴ってました。
何か急用とかじゃないですか?」
こんな朝早くから何度も着信があるとか嫌な予感しかしないんだが…
俺はリビングのテーブルに置きっぱなしだったスマホを見るなりギョッとした。
着信相手が瑠奈だったのだ。
しかも、3回の着信後にSMSでクソな事が送られている。
端的に言うと慰謝料を寄越せというものだ。
コイツは慰謝料の意味が分かっているのだろうか?
寧ろ浮気の慰謝料を請求出来るのは俺の方なんだが?
雪乃ちゃんに黙っているのも悪いので、SMSの内容を伝えると、雪乃ちゃんは心底呆れたように「馬鹿な人は放っておいた方が良いですね」と言った。
俺も全くの同感だ。
一瞬嫌な気分になったが、雪乃ちゃんの作ってくれた朝食を見てそんな気持ちも吹き飛んだ。
焼き鮭にだし巻き卵、ほうれん草のお浸しに揚げ出し豆腐、そして長葱のお味噌汁…
うん、完璧過ぎる朝ごはんだ。
俺には焼き鮭と味噌汁以外、再現不可能な朝ご飯である。
感動した俺は早速桐斗を起こしに行く。
桐斗は比較的朝の目覚めは良い方で、起きてしばらくはポケーっとしたものの、雪乃ちゃんの名前を出すと直ぐにパジャマから普段着に着替え出した。
因みに、最近の桐斗の服は結構良いブランドのモノを揃えている。
直ぐに体が大きくなって着られなくなるのは分かっているのだが、桐斗本人が洋服が好きなようなので、常識的な価格帯のものを本人に選ばせている。
親バカなようだが、子供は可能性の塊だと思う。幸い十二分な蓄えがあるので、本人が興味を持った事はどんどんやらせようと考えたのだ。
ともあれ、雪乃ちゃんの料理はめちゃくちゃ美味かった。
だし巻き卵も揚げ出し豆腐もお味噌汁も、日本人に生まれて良かったと感じる逸品だった。
桐斗なんかはうまうまを連呼して、お代わりをする程だ。
如何に普段の俺の料理が残念か良くわかる。今度、雪乃ちゃんに料理を教えて貰おう。
朝ごはんの後の洗い物は俺が行い、雪乃ちゃんは桐斗の相手をして貰う事にした。
桐斗は雪乃ちゃんの事をママと呼ぶようになっており、雪乃ちゃんもそう呼ばれる度に嬉しそうに笑っている。
その姿を見て、俺は中途半端な気持ちのまま彼女の好意に甘えるのは駄目だと気を引き締めた。
雪乃ちゃんは素晴らしい女性だと思う。他にも良い男を選び放題なのに俺みたいな冴えない男を選んでくれた。
だからこそ、俺が彼女を心から愛していると堂々と言える程気持ちが固まってなければ、彼女はただ都合の良い女に成り下がってしまう。
そんな失礼な事は絶対にしてはならないのだ。
「ゆ、雪乃ちゃん…よ、良かったら、俺と探索者のぱ、ぱーちーを組んでくれないだろうか?」
洗い物を終えた俺は、意を決してパーティー結成の申し出をした。
桐斗を膝の上に乗せて絵本を読んでいた雪乃ちゃんがフリーズしている。
やはり、嫌だっただろうか?
「あ、ち、違うんだ!
た、探索者活動を一緒にする事で、た、沢山同じ時間を過ごせるし、れ、恋愛ばなれしていた俺も、し、しっかりと、雪乃ちゃんにむ、向き合う事がで、出来るとお、思った訳で…
い、いや、やっぱ嫌だよな!ご、ゴメン!い、今のは…」
「嬉しいです!私もユーキさんと一緒に探索者活動をして行きたいと思ってたんです!
是非、パーティーを組んで下さい!」
「ボクもパパとママとぱーちーしゅる!」
何故か桐斗までパーティーに名乗りを上げたが、パーティーが何なのか分かって無い感じが堪らなく可愛らしく、俺と雪乃ちゃんは顔を見合わせてから同時に笑った。
桐斗も同様に笑っている。
ああ…本当に幸せだ…
ほっこりタイムを堪能した俺たちは、近所の公園に来ていた。
そう。桐斗の自転車練習の為である。
俺は補助輪付き自転車を異空間収納から取り出した。
桐斗はサポーターとヘルメットを着装済みである。
「ボクのマシンらぁ!ブンブンマシンら!」
自転車に跨った桐斗はテンション爆上がりである。
「良いかい桐斗、このハンドルをしっかり握るんだ。
危なくなったら直ぐにこのブレーキをギュッと握るんだぞ」
「あい!」
桐斗が元気一杯に返事をして、ゆっくりとペダルを漕ぎ出した。
何ともぎこちない感じだが、俺は必要以上に口は出さない。
上手く行かないという経験は糧になる。
俺の格闘技もそうだった。
上手く行かないから自分で必死に考え、必死に練習して、自分だけでは上手く行かない時は周りにアドバイスを求める。
桐斗も今、どうすれば上手く漕げるのかを考えているようだ。
俺はあれこれ口を出したい衝動を堪えて、可愛い息子が少しずつ自転車を乗り熟せるようになる様を雪乃ちゃんと共に見守る。
そして10分後……。
「パパ〜!ママ〜!じてんちゃブンブンらよ!
ブーン!ブーン!」
めちゃくちゃ乗りこなしとる…
信じられんスピードで、縦横無尽に爆走しておる。
流石は俺の子だ…普通、初自転車であんな超スピードでは走れない。
広い公園で良かった。
「キィたん、危ないからもっとゆっくり漕いで!」
「いや、雪乃ちゃん。桐斗ならあの程度は大丈夫だろう。
次のステップに移るか」
俺は気配を殺しながらスゥと歩き出す。
桐斗は夢中で自転車を漕いでいて、俺が近付いている事に気付いていない。
タイミングを見計らって桐斗の前に飛び出した。
ズドン!ズシャアアアッ!
俺は桐斗の漕ぐ自転車に跳ねられ、大いに転がってみせた。
「あああ!パパ!パパァ!!」
桐斗はお面ライダー自転車から飛び降りて、俺の方に駆け寄って来る。
「ふふふ。桐斗、ブレーキを忘れていたな?
自転車は人にぶつかると危ないんだ」
「ふぇぇぇん…パパごみんたい…ごみんたい…」
「泣かなくて良いんだ。でも、直ぐに止まれるくらいの速さで漕がないと危ないって分かっただろう?
次は直ぐに止まる練習だ」
「う、うん。ボク、しゅぐとまりゅ」
うむ。切り替えの速さも流石だな。
その後は桐斗もスピードを落として走り、何度か俺を跳ねたものの、見事にブレーキをかけられるようになったのだった。




