13話 職場を追放されたんですけど!?
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「神城さん、是非我々『POP PUNK』と契約を!
探索者デビュー配信はPPVをお約束しますから!」
「うるさい!弱小クランは引っ込んでろ!
神城様!ウチの『堅守速攻』はデビュー配信のPPVだけで無く、契約金3億円を…」
「どきなさいよ!ゴミクランの雑魚共!
神城君、私たち『薔薇の方舟』は美女ばかりの花形クランよ!
契約金だけじゃ無く、飛び切りの美女を好きなだけ性奴隷にして良いわ!」
3週間たっぷり有休を消化した俺は久しぶりに魔石加工場に出勤したんだが、待ち受けて居た様々なクランのスカウト連中に速攻で取り囲まれてしまった。
レベリングされた今の俺がちょっと力制限の魔導具の効果を緩めれば、彼等を撒くことなど訳ない。
俺は一度空を見上げて驚いた表情を浮かべる。
つられて周りの連中の目線が上を向いた刹那、俺は身を屈めるように低い体勢で急加速。
見事にスカウト連中を撒いてみせた。
それにしても、レベリングされるとここまで身体機能が変わるのか。
休みの間は桐斗とたっぷり遊んだ傍ら、JSA(日本探索者協会)東京本部の訓練施設で力を制御する特訓もかなりの時間行った。
基本は走り込みと、いつものシャドー。後は地味なステップワーク、ダッキングやウィービングからの即リターンの反復練習で、他の人からすると退屈な繰り返しなのだが、俺の中では重要なルーティーンだ。
他にも、新たに宿った魔力を操作、制御するトレーニングやスキルを使用した特訓をみっちり行ったので、この3週間でかなり戦えるようになった筈。
ファーストダンジョンアタックが今から楽しみである。
俺はそんな事を考えながら裏道を走っていると、会社の建物が見えて来た。
探索者特別法により、探索者やその家族の勤務先や自宅、学校に報道陣やスカウト、スポンサード企業等が押し掛ける事は基本的に禁止されている。
ただ、実際にそれで逮捕されるケースは殆ど無かった。
立ちションは軽犯罪だが、それで逮捕される人が殆ど居ないという事と同じような感じ。
しかし、俺は探索者界隈で相当有名になったようで、JSAが積極的に動いてくれたらしい。
元々自宅に押し掛けて来る非常識な連中はほんの数名だったけど、今では職場に大挙していた報道陣やスカウトも居なくなったようだ。
ダンジョン関連の税収は日本政府にとって無視出来ない程多いらしいから、ダンジョン経済を動かしているWSAや JSAの権力は凄まじい。
そんな協会が圧力をかけたんだから、この現状は頷ける。
ただ、報道陣やスカウト連中はおめおめと食い下がるつもりは無いようで、今のように通勤ルートに当たりを付けた待ち伏せをしているという訳だ。
俺はその後も迂回をしながら待ち伏せを躱し、余裕で職場に着いたんだが…
「済まん!神城君!
君は本日限りでクビだ!」
出社早々工場長に呼び出された俺は、会議室に居た本社の人事部長からクビを宣告された。
「ああ、まぁ別に良いですよ。
そんな気はしてましたから」
「いや、納得出来ない君の気持ちは良く分かる。
これまでの君の働きは本社の我々の耳にも入る程、素晴らしい事は理解している。
だが、君が勤務している限り、君の熱烈なファンが工場内にまで侵入したり、取材申し込みの電話やらメールが大量に来て、稼働もままならんのだ!
退職金も色を付けて渡すから、どうか…」
「だから、クビで良いですって」
「……は!?い、良いのか?
君は確か男手一つで幼い息子さんを育てて居るのだろう?
マイホームのローンも相当残っているだろうし、収入的にも厳しいのでは無いか?」
「あ、俺はもう働かなくても充分食って行けるだけの貯えが出来たんで、金には全く困ってません。
残っていた住宅ローンも一括で払っちゃいました。
本当は今月末で辞めようと思ってたんで、自主退職って事で退職金も普通の額で大丈夫ですよ」
俺は慌てた様子の人事部長に自分の意向を伝えた。
部長は俺の言葉が信じられないようで、目をパチクリとさせて暫し無言になった。
まぁ、探索者業界を知らない一般の人には、レベリングしたての新米探索者がそれ程稼げるとは思って無いのだろう。
俺も色々と調べて分かったんだが、日本では新米探索者でもWSA公式アプリのダンジョン・ライブ・ストリーミング(DLS)で生配信を行う事で、一般的なサラリーマン以上の稼ぎを得ている。
これはJSAという日本固有の組織の功績が大きく、日本版のDLSアプリに広告を出すスポンサー企業にダンジョン資源の供給を優先する代わりに、動画再生数当たりの広告収益を増やすよう働きかけたおかげらしい。
では何故、ダンジョン生配信が多く再生されるのか?
それは、ダンジョンという存在が民間人にとって身近な脅威である為だ。
日本でも過去に5回ダンジョンのオーバーフローやスタンピードといったダンジョン災害が発生している。
オーバーフローは単純にダンジョン内魔物の間引きが間に合わず、飽和状態になった魔物がダンジョン外に溢れ出す災害である。
スタンピードはオーバーフローと同じで飽和状態の魔物がダンジョン外に溢れるのだが、魔物のランクが上がった上に一体一体が凶暴化して、通常よりも強化された状態で溢れ出して来る。
更に、スタンピードはランクが上のダンジョンボスまで外に出て来るのだから、脅威度が尋常ではない。
また、オーバーフローよりも外に溢れる魔物の数が圧倒的に多く、過去に一度起きたスタンピードでは青森県で5万人以上が命を落とした。
唯一の救いはオーバーフローは発生後48時間で溢れた魔物がダンジョン内に強制転移され、スタンピードは発生後96時間で魔物やボス魔物がダンジョンに戻される点だろう。
オーバーフローでも数千人規模で被害が出る為、探索者のダンジョンアタック配信を見る事は、自分達の身の安全を確認する為にも大事な事なのだ。
まぁ、そんな背景からDLSアプリは大半の民間人もインストールしていて、特に自分の地元のダンジョンで活動する探索者は新人だろうとチェックする人が多い。
新人パーティーでも平均同接が3万人で、1回の生配信でのスパチャも平均7万円というのだから、新人探索者の平均月収が40万円というのも納得だろう。
話が脱線したが、俺はこれらの探索者界隈の金の流れをざっくりと説明して、部長に退職届を提出した。
俺と桐斗の事を気遣ってくれて勤務時間を調整してくれたり、職場近くの託児所を手配してくれたり、この会社には大きな恩がある。
そこで、俺は最後に人事部長に破格の申し出をした。
「部長、これは後でご返事を頂いて結構なのですが、俺が開設したユーキちゃんねるは配信前から既に登録者数が500万人以上いるんです。
来週の金曜日に初めてダンジョン生配信をするのですが、革鎧の胸部の一番良い所に『長嶺魔石加工株式会社』の名前を入れますので、俺のメインスポンサーになって貰えないか本社に戻って打診していただけませんか?」
「は?ウチをメインスポンサーに?
だ、だが、ウチはそれ程予算はさけないぞ?
君の話では、かなりの大手企業からスポンサーの打診を受けてるそうじゃないか」
「確かに月数千万でメインスポンサーにさせてくれとオファーは受けてますが、俺はこの会社に恩返しがしたいんです。
月5万円でメインスポンサーになって頂けないか、掛け合って頂けませんか?」
「ちょわっ!ちょっ、ま、待ってくれ!
月5万だって!?500万の間違いじゃ無いのか!?」
「いえ、きっかり5万円です。
書面にサインしても構いませんよ。
配信の時にスポンサー紹介の時間も取りますので、結構な宣伝効果にはなると思うんですよね。
それで利益が上がったら、この工場で働いている人達の給料を利益率に応じて上げるという条件は飲んで頂きますが、それ以外は何も此方からは要求しません」
「ほ、ほ、本当かね!?
ちょ、ちょっと待っていてくれないか!?
社長に電話するから!」
部長は興奮して席を立つと、一旦会議室を出た。
10分後、やはり興奮して戻って来た部長は満面の笑みで俺のスポンサーの件を快諾してくれた。
明日、改めて本社に赴く事になり、そこで正式な契約書を交わす事となった。
かなりゴタゴタしたが、俺は工場で最後の仕事に取り掛かる。
コンベアから流れて来る粗削りされた魔石に、仕上げの研磨をするのが俺の仕事だ。
この作業も今日が最後だと思うと、何とも感極まるモノがあるな…。
俺は目に涙を溜めながら、慎重に研磨作業を行ったのだった。