122話 凄まじい怒りが込み上げましたけど!
「つーか、西部方面隊のダンジョン特科って尉官が連隊長やってんすか?
西部はマジで終わってるッスね」
「……貴様、いい度胸だな。
無能な男の分際でこの有能な私を虚仮にするとは、余程早死にしたいと見える」
俺氏がお帰り頂く為の言い訳を考えていると、『ポイズン・ベリー』リーダーの春日部くんが黄緑髪BBAこと、副田さんを露骨に腐した。
副田さんこと黄緑髪BBAはコメカミをヒクヒクさせてらっしゃる。
「だって、俺チャソが前に所属してた東部方面隊のダンジョン特科は、一等陸佐がダンジョン特科の連隊長だったッスよ?
そもそも三等陸尉が陸自の連隊長なんて聞いた事無いッスけど、アンタ本当に連隊長ッスか?小隊長じゃなく?」
タタタッ……シュパパパパパパンッ!
見るからにイラついている黄緑髪BBAに追い討ちをかけた春日部くん。
そんな春日部くんに対して、黄緑髪BBAは駆け寄りざまに腰に携えていた武器を振り抜いた……が、そんな見え見えの攻撃が体内魔力操作を身に付けた春日部くんに当たるはずもない。
春日部くんはBBAが腰の武器を抜いた瞬間に急加速して、BBAの背後に回り込んで見せた。
ふむ、黄緑髪BBAは相当レベルが高いのだろう…が、いかんせん距離の詰め方と攻撃のモーションがど素人過ぎる。
それよりも驚いたのは、彼女の股間とコードで繋がっているあの鞭のような武器だ。
あの乗馬用鞭のような武器を一度振るっただけで、鞭の先端のフラップが八つに分身して、様々な角度から春日部くんが居た空間へと向かって行った。
かなり特殊な効果が付与された武器のようだ。
「!!…き、消えた!!
そんな馬鹿な!?」
「フゥ…いきなり武器を振り回すとか、物騒なBBAッスね」
「ひ、ひうっ!
き、貴様、いつの間に後ろに回った!?」
一泊遅れて攻撃を空ぶった事に気付いた黄緑髪BBA。
春日部くんは相変わらずBBAを挑発するような言葉を吐いた。
「ユーキさんの教えを受けた俺チャソが、BBAのスットロい攻撃を喰らう訳無えでしょーが」
「クッ……有能な私が駆る『挿入武装・鞭万』の一閃を躱すとは……
無能な男の中では少しはマシなようだな」
黄緑髪BBAの口からけしからん風が吹き抜けた。
『挿入武装』とかエロ系ラノベに出て来そうな武器じゃんか。
あのお股と武器を繋ぐコードがさっきから気になってしょうがないしヨォ……。
「はぁ?『ソーニューブソー』って都市伝説じゃ無かったんスか?
俺チャソはどっかのエロいチューボーが考えた架空の武器かと思ってたんスけど?」
ほう、『挿入武装』とやらは都市伝説になる位には噂になってたのか。
何をどこに挿入するかは大いに気になる所だが、黄緑髪BBAの後方に控えている早川チャンの赤ら顔とモジモジ感で何となくは察する事が出来るかな。
「フン、都市伝説なものか!
『挿入武装』こそが至高の武器!つまりは『挿入武装』を装備可能な女こそが至高の存在なのだ!
私がステータス制限の魔導具を付けていて命拾いしたな?
さもなくば、貴様の如き無能など今頃肉塊と化していたぞ!」
「へえぇ、俺チャソもアンタと同じくステータス制限の魔導具を付けているんすけど?
ステータス制限された俺チャソの動きも目で追えなかったアンタに、ステータス解放された俺チャソの動きを捉えられるんスかぁ?」
ううん…春日部くんは意外に舌戦が強いな。
俺としてはあの2人を適当に言い含めて早々にお帰り願いたいんだが、春日部くんの煽りによって黄緑髪BBAが相当ヒートアップしてやがるし…。
あ、黄緑BBAがムキになって鞭を振り回し出したゾ!でも、あんなに予備動作がデカいと日が暮れても春日部くんには当たらないだろう。
それにしても、『挿入武装』とやらは熟達した人間が使うと恐ろしい武器になるだろうな。
何しろ武器の攻撃箇所が幾つにも分身して、様々な角度で対象にヒットするんだから。
俺氏が『挿入武装』の無限の可能性に思いを馳せる事5分ほどで、ようやく後ろに控えていた早川チャンが黄緑BBAを制止した。
「連隊長、もうお辞め下さい!
ひぅぅっ、む、無抵抗の者に『挿入武装』を濫用するのは…んっ、の、後々問題になりかねません!」
「ハァ、ハァ、ハァ……チッ!……
ス〜、ハ〜……ス〜、ハ〜……
……良かろう。
無能な男の割に貴様は使えるようだ。
貴様に有能過ぎる私の下僕となる事を許そう。
先程の口振りでは貴様は元自衛官だな?恐ろしい迄に有能な私の権限で西部方面隊のダンジョン特科・第三小隊に入れてやるというのだ。
ありがたく…「いやいやいや、俺チャソよりザコいアンタの下に付く訳無えでしょーが。
俺チャソが下に付くのはAYUM@兄貴以外有り得ねえッスから」
「享……」
深呼吸をして少し落ち着いた感じの黄緑BBAが、かなり上からな感じで春日部くんを引き抜こうとするも、春日部くんは食い気味に断った。
春日部君の言葉を聞いたアユマットさんは感極まった様子。
うぅん…どうやってお帰り願おうか……断り文句にディスが入っていた事で黄緑BBAが顔を紅潮させてプルプルしてらっしゃる……
『FUNKY RADIO』の面々も『S.W.A』の面々も当然ながら我関せずといった感じで、陸自の2人を追い出す事に加勢はしてくれなさそうだし……
「き、貴様ぁ!どこまで私を愚弄するつも…「いい加減にして貰えませんか!?」
妙齢のせいか沸点の低い黄緑BBAが声を荒げて春日部くんに食ってかかろうとした瞬間、更に高い怒りのボルテージを含んだ大声が轟いた。
場の全員が驚いて、声の主に視線を送る。
そこには眉間に縦皺を拵えた敷島さんの姿が……
「あなた、自衛隊の連隊長なのに、自衛隊と民間探索者の相互不干渉を知らないんですか!?
非武装の探索者に武器で襲いかかった上に、引き抜きまでするとか度が過ぎている所では済みませんよ!?
この事はJSAのラミレス会長と弓削総理に報告させて頂きますから、相応の覚悟をしておいて下さい!」
怒りの敷島さんは早口に捲し立てた。
敷島さんの怒りの矛先は黄緑BBAにも関わらず、何故か場にいる全ての人は自分が怒られたかのようにしゅんとしている……。
「クッ……貴様は女として、無能な男がトップのこの国に危機感を抱かぬのか!?
総理が無能の男だから下賤の探索者などを優遇して、日本の防衛の要を担う陸上自衛隊から貴重な人材が探索者へと流れるのだ!
私はただ、不当に流れてしまった人材の補填をしているだけだ!
問題になるはずが…」
ガラガラ…
「パパァ、ユキママァ、ぴんくママぁ!ごはんあむあむするんらよ!」
「ハハハ!弟クン、桐斗ちゃんがお腹を空かしてしまったようだ。
皆んなでお昼に……」
黄緑BBAが話の本筋を逸らしつつ自分を正当化しようとした所で、タイミングが悪い事に美優先生が桐斗と手を繋いで訓練場に入って来てしまった……
あの黄緑BBAは最初に美優先生の名を口に出していたし、余計にややこしい事になりそうだ……
「む!貴君が吉永美優で間違いないな?」
「ん?私が吉永美優だが」
「うむ、配信で見た通り良い面構えだ。
私は陸上自衛隊西部方面隊・ダンジョン特科連隊長の副田珍恵3尉だ。
貴君を栄えある私の配下にしてやろうと思ってここに来た。
下らぬ探索者など辞めて、有能過ぎる私の配下になるがいい」
クッ…あの黄緑BBA…美優先生が来た途端に勢いを取り戻しやがった。
「断る!」
「な、何だと!?
何故だ!?陸上自衛隊のダンジョン特科の部隊はエリート集団なのだぞ!
貴君もその一員に…いや、私の権限で中隊長にしてやっても良い!」
「私は弟クンこと、神城雄貴の専用便器だ!
神城雄貴の元を離れる事は絶対に無い!」
み、美優先生……桐斗がいるんだから専用便器とか言わないで欲しいんですけど……
「クッ…貴君程の優秀な女が無能な男の慰みモノになる事を選ぶとは…
私と一緒に来い!ダンジョン特科でその腐った性根を叩き直してくれる!」
黄緑BBAはそう言うと、美優先生の方へと歩いて行く。
コレは流石に黙っていられない。
俺は黄緑BBAの行く手に割って入ろうと足を踏み出した。
「おい、黄緑BB…」
シュンッ…
「みゆママをつれていったららめなんらよ!」
俺よりも先に美優先生との間に割って入ったのは桐斗だった。
3歳児とは思えぬ程の俊敏な動きに、黄緑BBAは一瞬フリーズした……が……
「む、無能なクソガキめ!
そこを退け!」
直ぐに黄緑BBAは俺の可愛い桐斗に罵声を浴びせて、右手を腰に回した。
あ、あのBBA!まさか桐斗に武器を使う気か!?
BBAの意図に気付いた俺は一瞬で加速して、鞭を振り上げたBBAの右手首を掴んで桐斗への攻撃を阻んでみせた。
俺と同時に動いたミュイはいち早く桐斗を抱き抱えて、訓練場の外へと桐斗を避難させてくれている。
ありがとうな、ミュイ……
……それにしてもこのクソBBA……マジでコロさねえと気が済まねえ……
ガシッ!ミシミシ……ゴキンッ……
「イヤァァァアア!!手、手がぁぁあ!」
桐斗が避難済みと知って怒りのメーターが一気に振り切れた俺は、BBAの右手首を力一杯握って骨を砕いた。
BBAの耳障りな叫び声が俺の怒りを更に掻き立てる……
「このクソBBA!良くも俺の可愛い桐斗に……「弟クン!そこを退け!!」
俺が殺意を膨らませた瞬間、美優先生の殺気に満ちた怒声が響いた……
恐る恐る美優先生の方を向いた俺氏。
「…聞こえなかったか?弟クン…
早くそこを退けろ…
天使な桐斗ちゃんに危害を加えようとしたそのゴミを私にコロさせろ」
美優先生の皮を被った悪魔が、濃密な殺意を滾らせている……
俺は直ちに黄緑BBAの右手首を離して、10メートル程距離を空けた。
先程まで泣き叫んでいた黄緑BBAは恐怖の余りガチガチと歯音を立てて震えている。
いや、震えているのは黄緑BBAだけでは無い。
訓練場に居る美優先生以外の全員が恐怖の余り震えているのだ。
こうして、正午の惨虐劇は幕を開けたのだった……。