115話 世界ランキングが更新されましたけど?
「お前ら、マジで何やってんの?
同じ世界ランカーとして俺は悲しいよ」
ベイツとマックスの乱闘が収まった後、JSA専属受付の美鈴さんにお願いして会議室を空けて貰った俺氏。
今は乱闘した2人にお説教中である。
「す、済まない……
だが、そもそもその雑魚が俺を煽って来たから…」
「何だと?このハゲ寸前の馬ヅラ野郎が!
ちょっとランクが一位だからってチョーシ乗りやがって!」
ダメだ、コイツら……
口を開けば相手をディスろうとしやがる。
ベイツは立ち上がってマックスの胸ぐら掴んでるし……
「ベイツ、やめろ!
ハァ……まったく……お前ら昔のヤンキー漫画を知らんのか?
普通は殴り合いをした後は“オメエ強えな”とか“男気あるジャンよ”とか言って仲良くなるモンだろ」
「いや……昔の日本のコミックなんて読んだ事ないし……
聞いてくれ、ユーキ。
ここ2年くらい15位から12位を燻ってる雑魚のコイツが、5年間トップに君臨する絶対王者の俺に喧嘩売ってくるのが悪いんだ」
「な、何だとコラ!!
絶対王者だからって、俺の女に手を出しても許されるっつーのか!?
テメェなんて王者じゃなけりゃ、ただのハゲ散らかしたオッサンだろうが!」
「ふん、負け犬がほざくな。
そもそもセシルはお前と付き合ってないだろ。
お前の片想いなのに、突っかかって来るな!
王者にはお前みたいな雑魚には理解出来ない程の重責がのしかかる!ストレス発散にイイ女を抱くのは当然だろうが!」
ううむ、コイツらどうすれば仲良くなるんだ?
マックスは他の人には王者である事をひけらかさないが、ことベイツにだけは矢鱈と王者マウントを取ろうとするし……
ピコン♫ピコン♬ピコン♫……ブブブブ……
俺が途方に暮れていると、テーブルの上に置いていたスマホから通知音が連続して鳴り出し、続いてバイブし始めた。
何だ!?皆川さんからの緊急連絡かな?
俺がスマホを確認しようと手を伸ばすと……
バンッ!!
シュタタタ…ムニッ…
「うおっぷ……」
「弟クン!!凄いぞ!!
5位にランクアップしてる!!
ああ、流石私のダーリンだ!!
今すぐメチャクチャに抱いてくれぇっ!!」
スマホを手に取った瞬間、会議室のドアが勢いよく開いて、美優先生の豊満な胸が俺の顔面をイイ感じに包み込んだ。
「ぷはぁっ!
み、美優先生、ここじゃマズいですって!
てか、そんなに興奮してどうしたんですか!?」
「す、済まん!私とした事が取り乱してしまった!
取り敢えずコレを見てくれ!」
俺は美優先生が持つスマホの画面に目を向けると、そこには……
【20XX年最新版】WSA公式 探索者世界ランキングTOP10【個人別】
1位 ミュイレラ・イヴァンチェノバ(『S.W.A』/US支局)
2位 マックス・フォルモンド(『FANKY RADIO』/US支局)
3位 ベイツ・ストラドリン(『S.W.A』/US支局)
4位 メアリー・J・ブラッドリー(『S.W.A』/US支局)
5位 神城雄貴(『ガチ勢』/JSA)
6位 アルバ・マルタン(『BONNE NUIT』/FR支局)
7位 ホセ・ナバナレス(『BAMOS』/MEX支局)
8位 ルイーズ・シュヴラン(『BONNE NUIT』/FR支局)
9位 清川雪乃(『ガチ勢』/JSA)
10位 エドゥアルド・ロレンテ(『TE QUIERO』/ESP支局)
………
「………」
「………」
「………」
「むっ?どうしたのだ?
弟クン!大丈夫か、弟クン!」
ハッ、しまった!
ランキングが色々と衝撃的過ぎて、俺もマックスもベイツも意識がトんでいたようだ……
シュタタタ…ビュオンッ!ドズッ!
「かはっ!」
「パパァ〜!パパァ!
むいねぃたんがクインになったんらよ!
あのねぇ、うんとねぇ、クインってパパよりいっぱいえらいんらって!」
う、うお…桐斗が凄い勢いで走って来て、俺の鳩尾にダイビングヘッドをぶちかました……
い、息が……
「くふっ…はぁっ、はぁっ…
そ、そうだな…ミュイが女王になったんだよな…」
「ふふふ。
ミュイの言った通り、ミュイが最強。
ミュイに比べたらマックスもユーキもザコ」
桐斗に遅れて部屋に入って来たミュイがめっちゃ腕を組みながら、めっちゃドヤ顔を向けて、めっちゃ勝ち誇ったように宣った。
クソッ!コイツに勝ち誇られるのはマジでムカつくんですけど……
「………ハハハッ!
良くやった、ミュイ!
そこのハゲ散らかしたオッサン、誰が絶対王者だって?
あれあれ?俺を雑魚呼ばわりした割に、俺とのランキング差は一つしか変わらないみたいだけど?」
「クッ……チクショウッ!
納得出来ん!!何だ、このランキングは!?
イカサマじゃないか!
断固としてWSAに抗議するっ!」
ようやく現実に意識を戻したベイツが先程までのヤマを返さんと、一気にマックスに攻勢を強めた。
怒りの表情のマックスは直ぐにスマホを持って会議室を出て行った……
まぁ、マックスの気持ちは良く分かるよ。
5年間も王座に君臨していたのに、ミュイのようなオタク女に出し抜かれてしまったんだから納得出来ようも無い。
まぁ、『S.W.A』は世界で初めて犠牲者を出さずにAランクダンジョンを完全攻略したんだから、ランキングが上がるのも分かるけど。
気持ちを落ち着かせた俺は、JSAアプリを開いて世界ランキングのTOP100の方に目を通した。
お、彩音が12位か。
アイツは本当に努力を惜しまないタイプだし、俺なんかの婚約者にもなってくれたので、これからはバンバン贔屓をしよう。
美優先生は……残念ながら71位に降格か……でも、美優先生なら直ぐにランキングトップ10に入るさ。
日本人はそれくらい……ん?93位に西澤まりもという人が入っている。
96位にも片桐心奈という人が……どちらも『自宅警備系女子』というパーティーのようだ。
聞いた事の無いパーティーだが、他県を拠点にしているのかな?
インキャがつけそうなパーティー名はどうかと思うけど、日本人が6人も世界ランク入りするなんて凄い事だ。
俺はじきにアユマットさん達もランキング入りするだろうと期待を抱きながら、怒り心頭のマックスを窘めに向かった……
ーーーーーーーーーー
《片桐心奈視点》
“夢”を観た……悲痛な男性の胸の内が直接私の脳内に流れ込んで来るようなリアルな夢を……
「心奈ちゃん、こんにちはです」
私が“夢”の事を思い出していると、パーティーリーダーのまりもが部屋に入って来た……
ハァ……このコはマジで……
「あのさぁ、何度も言ってるよね?
ちゃんとチャイムを鳴らしてから入って来て」
「はいなのです!」
まりもは返事だけは良いのに、この手の事は直ぐに忘れちゃうのがマジで……まぁ、いいや。
「……ウチ、心奈の部屋キライ……
青一色で落ち着かない」
ハァ……今侵入して来た日向も、まりもと同じく無断で人の部屋に侵入して来る。
『自宅警備系女子』のメンバーは常識を大きく欠如しているコばかり。
何度注意しても無駄だから、もう良いわ。
ってゆーか、既に約束した時間を10分以上過ぎてるし。
「ハァ……もう日向には注意する気にもならん。
ってゆーか、まりあと美羽は?」
「美羽ちゃんとまりあは私のおウチで裸のままゴロゴロしているのです!
あの様子だとおウチの中から出てこないのですぅ……」
「どこでテンション下げてんの?
ハァ……あのコら、マジで服を着る習慣付けさせた方が良いよ?
この間、全裸でコンビニ行こうとしたんでしょ?
夜中だったし、直ぐにアンタが連れ戻したから良かったけど、昼間だったら通報されてるよ?」
「……そんなのどうでも良いから、早く要件言って。
この部屋に長居したくない」
常識人の私がまりあと美羽の女として終わっている部分を指摘していると、非常識の塊の日向から話を進めるように促された。
コイツにも色々と言ってやりたいけど、確かに今日の件はこの先の日本に大きな影響が出る可能性がある。
私は頭の中を整理して話を進めた。
「昨日、ある男性の“夢”を観た。左腕を失ったボロボロの男性の……」
「…!!」
「!……続けて」
「恐らくアソコは『獄門』の深層だと思う。
男性は最愛の女性を探して、今も『獄門』の深層を1人彷徨い続けてる……
これから2ヶ月後、その男性も最愛の女性も死ぬ。
その事が最悪なオワリを日本に齎す可能性が高いわ」
「……その最悪を回避する方法は?」
日向が真剣な眼差しを向けて聞いて来た。
正直、ここからの行動指針には迷いがある……でも、それしかどうしても方法が無い。
「先ずは明日から私たちで『獄門』がオーバーフローを起こさないように30階層までの魔物を間引く。
2週間以内には間引きを終えたい。
で、間引き終わったら、札幌を離れて東京に行く」
「東京?どうして?
『獄門』は厚別にある。東京は関係ない」
「……東京に行く目的は……神城雄貴。
神城雄貴を仲間に入れる」
私は決意を固めて、目的を2人に伝えた。
正直、この決断がどういう未来になるかは分からない……。
でも、神城雄貴が『獄門』を安定させて、隻腕の男性と彼の最愛の女性を救うキーマンになると直感が告げている……。