114話 激しいバトルが勃発しましたけど?
「えへへへ。あのねぇ、んとねぇ、ママがびょーきをなおちたら、おかえりなたいするんらよ!
ママれしょぉ、ユキママれしょぉ、ミユママれしょぉ、ぴんくママれしょぉ、ムィねいたんれしょぉ、ボクれしょぉ……あ、あと、パパも!
みんなれいっちょのおうちにすむんらよ!」
「へぇぇ、キリトのアニキはママがたくさんいて良いですねぇ。
俺なんて1人しかいませんよ」
翌朝、JSAの訓練場で桐斗が得意顔で話をしているのは、『FANKY RADIO』のダニーだ。
桐斗は昨日瑠奈とさよならする時に、瑠奈が退院したらウチで一緒に暮らすという話を聞いてはしゃぎっぱなしだった。
桐斗にボコられてからというもの、ダニーは何故か桐斗をアニキ認定しており、下手に出ながら桐斗の話に相槌を打っている。
っていうか、桐斗よ。何で俺が一番最後なの?
しかも、最後に何とか思い出した感じなのはキツいんだけど!?
「ふふふ。ミュイの方がユーキよりも序列が上」
クソ!この猫耳オタ女め!人が気にしている事をチクりと言いやがって!!
「うっせぇよ、クソ!
つぅか、お前マジで桐斗の姉貴ヅラ止めてくんない?
体内魔力操作を覚えたらアメリカに帰るんだから、桐斗を悲しませてしまうだろうが!」
「ん?ミュイはユーキん家に残るから問題ナシ」
「ハァ!?何勝手に決めてんだよ!
俺はお前が居候するのを認めねえからな!
つーか、『S.W.A』はどうすんだよ?辞めんのか!?」
「了解はユキママに取った。
『S.W.A』の活動の時だけ転移スクロールでLAに戻る。
アメリカのダンジョンは日本よりも遥かに転移スクロールがドロップしやすい。
ミュイは大量にストックしてるからユーキん家に居候しても問題ナシ」
ミュイから衝撃発言が飛び出した……
コ、コイツ…いつの間にユキノちゃんをママ認定しやがったんだ?
いや、そんな事より……
「ちょっ、ちょっと待て!
アメリカ最大手のクランでそんな勝手は許されないだろ!
『S.W.A』のメンバーって全員『VISITORS』の幹部なんだろ!?
あのエロ本蒐集家のピザデフですらクランの公式SNS管理を担当してるらしいじゃんか!
お前にだって何かしらの担当はあるはずだろ!」
「ユーキ、大丈夫ですよ。
ミュイは『VISITORS』の妹担当ですから、いつも自由気ままに振る舞ってるんです」
思わず大声を上げてしまった俺氏。
そこにまさかのメアリーが入ってきて、恐ろしい情報をぶっ込んで来た。
最早ツッコミどころしかない。
「ハァァァ!?
何だよ妹担当て!『VISITORS』ってアイドルグループかよ!?
つーか、アメリカでトップ10に入る実力者のミュイが日本で暮らすなんて、アメリカ的にも許されないだろうが!」
「驚くのも無理はないけれど、国内でのミュイの立ち位置は妹系アイドルのような感じなの。
ステイツの所属さえ変えなければ、US支局長のロスマンも文句は言わないわ。
まぁ、ロスマン局長もミュイの妹的魅力の虜になっているというのが大きいのだけれど」
「ん。ミュイは皆んなの妹だから勝手が許される。
妹は正義」
俺の常識人としてのど正論はミュイという稀有なキャラクター像によって打ち砕かれてしまった……
確かに、ウチに居候してからというもの、ミュイは雪乃ちゃんや彩音にちょいちょい可愛がられている。
同性にたいしては比較的サバサバしている美優先生にすら可愛がられている程だ。
妹感恐るべし……
結局俺は妹は正義という謎の理論に対し、『桐斗の姉を自称しているくせに妹感を出すな』という反論しか出来ず、『弟がいる妹なんて何処にでもいる』というカウンターを喰らって撃沈したのだった……。
◆◇◆◇◆
「フンッ!シッ!」
「くっ、コ、コイツ、ちょこまかとっ!」
『S.W.A』と『FANKY RADIO』が魔力操作の特訓を始めて1週間が経った。
俺は今、魔力操作の応用まで身に付けたミュイと模擬戦の真っ最中である。
天才のミュイの成長速度は凄まじく、俺には既に手加減をする余裕が無くなっている。
模擬戦開始から20分が経つが、終始ミュイの敏捷性と手数に押されっぱなしだ。
「……!!
貰った!!」
ミュイが繰り出した模擬戦用短剣の脚への鋭い切り払いを何とかバックステップで回避した俺氏だったが、かなり無理な体勢からの回避だった為に大きくバランスを崩してしまった。
ミュイはその隙を見逃さずに最短距離で詰めて来て、俺の胸部へと刺突を繰り出した……
……が、甘い。
ドズッ!!
「ハッ……ぅぅぅ……
ケホッ!ケホッ!」
格闘素人のミュイはいざという時の動きが直線的過ぎる。
俺がバランスを崩したのは、ど素人に餌を撒く為。
警戒している時は高速でサークリングしたり、フェイントを織り交ぜながらの出入りをしたりと見事な動きを披露していたミュイだったが、案の定好機を見出した途端に一直線に突っ込んで来た。
俺はそんなミュイに威力を抑えた三日月蹴りを見舞ったという訳。
……だが……
「……お前、マジで天才だな。
こんな僅かな間訓練しただけで、俺の本気を引き出すなんてヤバいぞ」
俺は素直にミュイに脱帽した。
近接戦闘の体捌きを俺はガキの頃から修練していたし、魔力操作の精度を上げる訓練も【魔闘戦鬼】をゲットして以来、毎日クソ程修練して来た。
それに引き換え、ミュイは格闘ど素人の状態から俺と出会ってからの2週間ちょっとの特訓で、早くも俺の喉元に迫って見せたのだ。
ベイツも模擬戦でかなり俺に迫っているが、ミュイ程では無い。
泣くほど悔しいが、ミュイの才能を認めざるを得ない。
「ケホッ……ぅぅぅ……
……ぅぅぅ……ふぇぇぇん!!
ユーキがミュイの事を蹴ったぁぁぁぁぁあ!!」
マ、マジかよ!?
コイツ、ギャン泣きをかましやがった!
ガキみたいに手足をバタバタさせてるしよぉ!!
「ユーキさん、なんて事をするんですかっ!!
ミュイちゃん、大丈夫?」
「子供に暴力を振るうなんて、ユーキさんは最低ですわ!!
ミュイさん、お腹を蹴られたのですか?」
「弟クン!可愛い女の子に暴力を振るうなんて見損なったぞ!!
ミューちゃん、大丈夫か?今、アンチペインのポーションを出すからな」
クソッ!雪乃ちゃん、彩音、それに美優先生にまで非難の目を向けられたじゃねぇか!!
先程までの俺の称賛の気持ちを返して欲しいゼ!!
「凄いな、ミュイレラは。
ウチのメンバーは俺以外ユーキに全く太刀打ち出来ないというのに」
俺が内心苛立っていると、驚いた表情のマックスが寄って来てそんな事を呟いた。
世界王者の彼から見ても、ミュイの実力には目を見張るモノがあるのだろう。
因みに、俺はほぼ毎日マックスと模擬戦をしているが、模擬戦用ロングソードを使ったマックスの戦闘技術は恐ろしく高く、ほぼ毎回ボコボコにされている。
この2日くらいで何とか数発の拳や蹴りを当てられるようにはなったが、浅くしかヒット出来ていないし、直ぐに返しの太刀が飛んで来て、しこたま打ち据えられてしまう。
流石は絶対王者という所だ。
「ハハッ!『FANKY RADIO』はまだ体内魔力を感じられない雑魚がいるからな。
一番飲み込みが早いヴィンス(ヴィンセントの略称)ですら、俺よりも全然弱い。
US最強パーティーが聞いて呆れるぜ」
マックスの言葉を聞いたベイツが、マックスに挑発的な言葉を投げかけた……
……コレは嫌な予感しかしない……
「何だと?
お前らのピザデフも今朝、何とか魔力を感じられただけじゃねぇか!
俺に一撃も当てられない雑魚がほざいてんじゃねえぞ!」
「はんっ、コレだから脳筋のお前はゴミなんだ!
パーティーの強さは力の均一性だろーが!
1人だけ突出した所で、他の雑魚どもが足を引っ張ればクズパーティーに成り下がるんだよ!!」
ハァ……いつもは人当たりの良い紳士的なベイツなのに、マックスに対してだけはいつも喧嘩腰なんだよなぁ……
マックスも同様にベイツにだけはバチバチに行くし……
仕方ない……大人の俺が仲裁に入……
「うるせぇぞ!この万年フラれ野郎が!!
セシルを寝取られた事がそんなに悔しいのか!!彼女は残念ながらお前みたいなお粗末なナニを持ってるヤローは眼中にねえんだ!
俺のような逞しいナニの男に喜んでケツを振るんだぜ!」
「て、テメェ、セシルの事を持ち出しやがったな!?
クソが!
テメェだって人の事言えねえだろうが!
テメェの嫁のアマンダなんて、毎日ユーキに色目使ってケツを振ってるゼ!?
ハゲかけのテメェより、イケメンのユーキの方が100万倍魅力的だってよ!!
尻軽の嫁に見限られたハゲが舐めた口聞くんじゃねぇ!!」
「こ、この野郎、妻の事を侮辱すんじゃねえぞ!!」
ガゴッ!!
「あっ……」
俺が仲裁に入るタイミングを伺っていると、沸点の低いマックスがベイツに右ストレートを見舞ってしまった。
「クソッ!殴りやがったな!?
もう許せねえ!!」
「上等だ!ヘナチンのクソ雑魚野郎!!」
俺がオロオロしている間に、激しい殴り合いが始まってしまった……。
結局、2人の乱闘はミュイやアマンダが止めに入って何とか治ったのだった……。