106話 世界ランキング1位の男に遭遇しましたけど!? 前編
「雪乃ちゃん、そろそろ起きないと試合に間に合わないよ?」
「はぅぅ……雄貴さんのがその…す、凄すぎて……
か、身体に力が入りません……
わ、私はお留守番してますから、雄貴さんはキィたんとウチのパパママと野球見て来て下さい……」
波乱の一夜が明けた……
俺は昨日、雪乃ちゃんと遂に結ばれた……雪乃ちゃんは色々と最高過ぎた……最高過ぎて、ついついハッスルし過ぎてしまったんよなぁ……
因みに、俺の謹慎は事前にメアリーと雪乃ちゃんが共謀していたモノで、俺と雪乃ちゃんを別荘で2人きりにする為の宣言だったらしい。
やはり事前に雪乃ちゃんから根回しをされていた姉貴とミュイが昨日の桐斗の面倒を見てくれたという訳。
それでも、桐斗には父親として申し訳ないと思っている。
恐らく昨晩は俺が居なくて寂しかっただろうから、今日はたっぷり遊んでやらないとな。
「ムィねいたん、コレみてぇ?
ボク、しゅっしゅれきるんらよ!」
「ん。キリトはシュッシュの天才!
流石、ミュイ姉ちゃんの可愛い弟」
「えへへへ。ムィねぃたんらいすきぃ!」
雪乃ちゃんの事をホームキーパーさん達にお願いして、メアリーが手配してくれた魔導ヘリに乗ってビバリーヒルズにある『VISITORS』の拠点に来てみると、桐斗が俺には目もくれずにミュイに甘えまくっていた。
俺が居なくても寂しくなかったみたいね……
「あ!パパら!
パパァ、ボクねぇ、うんとねぇ、こずえねぃたんとむぃねいたんと、そーたにぃたんといっちょにおさかなさんみてきたんらよ!」
「おお、そっか、そっかぁ!
それは良かったじゃないか!
どんなお魚さん見て来たんだい?」
「んとねぇ、あのねぇ、あじゃらちたん!あと、イルカたん!」
うん……どっちも哺乳類だね……
まぁ、そんな事で茶化したりはしない。イルカさんは前にも見に行ったけれど、アザラシさんは初めて見たハズ。
桐斗がまた新しい動物を知る事が出来たなんて実に素晴らしい!
「おお、アザラシさんとイルカさんかぁ。
良かったなぁ、桐斗。
アザラシさんはどうだった?」
「んとねぇ、あじゃらちたんねぇ、おりこーしゃんらったよ!
あのねぇ、りんごをあてりゅの!」
「そっか、そっか!
桐斗もお利口さんだから、アザラシさんと一緒だな」
はぁぁ……桐斗は今日も可愛いぜ……
俺は一生懸命アクアリウムでの事を教えてくれる桐斗の頭を撫で撫でしつつ、めちゃくちゃ癒されていた。
「フン、息子を放置して昨晩テントを張ってたヤツが父親ヅラするとか都合良過ぎ」
う……ミュイに痛い所を突かれてしまった……
確かに仰る通りだが、俺だって少しは成長したんだ。
昼3時頃から致していたが、俺は桐斗の事が頭にあったので昨日は6回しかしていない。
コレは以前の俺では考えられない事で、幾ら雪乃ちゃんが初めてでも、あれだけの時間が有れば以前は10回は超えていたハズ……
いや、雪乃ちゃんが素晴らし過ぎて凄まじい快感に襲われて3回も失神してタイムロスしてしまったんだが、それでも6回は少ない。
コレは反論せずにはいられんぞ……
「雄貴君、おはよう!
いやぁ、昨日は差し出がましい事を言って済まなかったねぇ。
でも、雪乃が幸せそうで本当に良かったよ」
「うふふ、雪乃から聞きましたよ?
雄貴さんはとても凄かったって」
俺が言い返そうとしたタイミングで、雪乃ちゃんのパパとママが支度を整えてやって来た。
いや、義理の父と母にそっち系の事に触れられるの気まず過ぎるんですけど……
つーか、雪乃ちゃんパパもママもオープン過ぎないか?
「あ、いや、あの……
絶対に雪乃ちゃんを幸せにしますので、ご安心ください……
で、では、早速メジャーリーグ観戦に行きましょう!
うん、今日はデーゲームだし、陽射しが強いから熱中症対策万全にしておきました!
桐斗、ホラ、野球を観に行くよ!」
「うん!ムィねぃたんもいっちょ!」
「いや、ミュイは他人だから一緒に行かないぞ」
「やら!ムィねぃたんもいっちょじゃなきゃやら!」
クソ……桐斗のヤツ、すっかりミュイを姉だと認定してしまっている……
だが、ミュイと行動を共にするのは日本に来て魔力操作のトレーニングを終える迄。
せいぜい2週間程度しかいないのだ。
此処はバッサリとミュイの同行を拒否しなくては……
「昨日の夜……ユキノと盛っていた時、キリトを寝かし付けてたのはミュイ。
ミュイのおかげでユーキはユキノと6回も出来た。
恩を仇で返すつもりなら、昨日ユーキがユキノに変な事をしていたってキリトにチクるから」
クッ……ミュイが痛過ぎる事を耳打ちして来やがった……
しかも、何故回数まで知ってやがる!?
仕方ない……雪乃ちゃんがキャンセルになった分チケットは余ってるし……
ミュイの脅しに屈した俺は、渋々彼女の同行を認めたのだった。
◆◇◆◇◆
「は!?何で俺らがそんなモノに参加しなけりゃならんのだ!?」
エンゲルスのスタジアムで日本人プレイヤーの小谷の野球の試合を生観戦して大満足で帰宅した俺に、メアリーから『WSA US支局』の会議に参加して欲しいと打診をされた俺氏は思わず声を荒げてしまった。
せっかく7回無失点の抜群のピッチングと、第37号スリーランHRという小谷無双を堪能したのに、余韻も全て今の打診でぶち壊しである。
「本当にごめんなさい。
でも、エディ・ロスマン局長がどうしても『ガチ勢』に参加させるようにと……
行きも帰りも転移スクロールでノータイムでNYとの移動が出来るから、どうかお願い」
「チッ……分かったよ。
どーせ小言をネチネチ言われるんだろ?
俺が『ガチ勢』の代表として参加すると局長とやらに伝えてくれ」
「ありがとう、ユーキ!本当に恩に着るわ!」
俺は露骨に不機嫌になりながらもメアリーの提案に了承した。
今回の事は別にメアリーのせいじゃないし、彼女もクランリーダーとして苦労しているのはアホの俺でも充分理解出来るからな。
そんな流れで翌日……
「プッ!プフフフフ!
ちょっ、それwww」
俺は会議に出席する支度を整えて『VISITORS』が拠点としているクランハウスのリビングに行き、同じく支度を終えたメアリーの格好を見て盛大に草を生やした。
「ど、どうして笑うの!?
何か変な格好してる?それとも化粧がおかしいかしら?」
「い、いや、それwww
ナンシィ(仮)と同じドレスじゃんかwww」
そう。メアリーはナンシィ(仮)が着ていたモノと同じ黒いドレスを着ていたのだから笑わない方が無理ってモノだ。
「??ナンシィ(仮)??
へ、変な名前の人ね。どうしてその人と同じ服を着ていると笑われるの?」
メアリーが疑問に思うのも当然だと思った俺は、『パンスタグラム』の同じドレスを着るヤツの自撮りを見せた。
メアリーは目を見開いてプルプル震えている……
「き、着替えて来る!!
そして、もう二度とこのブランドの服を着ないわ!!」
「ああ、待て待て!
もう着替えてる時間なんて無いだろ!?
それに、ナンシィ(仮)は400万人以上フォロワーがいるファッションリーダーwwwだ www
メアリーもオシャレって事で良いじゃんかwww」
俺は何とかメアリーを窘め、転移スクロールでWSAのNY支部へと向かったのだった……。
◆◇◆◇◆
「さて、本日はお集まり頂きありがとう。
一部の例外は居るが、此処に集まっているのは多忙な高位探索者達だ。
手短に本日の議題を言おう」
NY支部に着いて直ぐに豪華な会議室に案内された俺とメアリー。
上座で偉そうに踏ん反り返る局長が何やら含みのある言い方をしたが、俺はそこはグッと堪えてヤツの話を大人しく聞く事にした。
「この場にいる者は皆知っていると思うが、『VISITORS』がAランクダンジョン攻略という最重要任務に、ダンジョン後進国の日本のパーティーを引き入れた。
この事は我がUS支局の沽券に関わる由々しき問題だ。
メアリー、今回の問題につき言いたい事はあるかね?」
クソ意地の悪いヤローだな……まるでメアリーが無断で俺らを引き入れたみたいじゃんか……
「私は事前に申請をベガス支部に出して認可を貰いました。
非難される覚えはありません」
「確かに申請は出してはいる。
だが、同行するパーティーは他国のSSランクパーティーとしか書かれて居なかった。
最弱の日本人のパーティーと知っていれば、認可など出してはいない!!」
「し、しかし、彼らは世界ランカーのみで形成された……」
「黙れぇっ!!!」
おいおい、何だよあのオッサン。
急にヒステリーを起こしたおばちゃんみたいに叫びやがったぞ?
あんなヤツが局長でアメリカは大丈夫なのか!?
「………私はね、そんな事を言ってるんじゃ無いのだよ。
雑魚ばかりのど底辺日本人如きに手を借りたという事実が問題だと言ってる。
他国の支局の連中から、この合衆国がどのように映ると思う?
最弱の日本人に頼らないと自国のダンジョンの問題も解決出来ない弱小支局だと軽んじられるのだよ!!」
「ハァ……下らない……
フラワーアリーナダンジョンの攻略を見れば、『ガチ勢』の圧倒的な実力は明白でしょう?
大体、世界各国のネットニュースで『ガチ勢』が最強パーティーだと取り上げられているいるのに、日本人だから最弱だと決め付けるようなWSAの評価など取り合うに値しないと思いますけど?」
「だから黙れと言っている!
ネットニュース?あんなモノはダンジョン攻略や探索者という神聖な職業を何一つ理解出来ないど素人記者どもの戯言に過ぎぬ!!
我々ダンジョン攻略の専門機関が日本人はザコだと言えば、ザコというのが真実という事なのだ!!」
「うっ………」
局長のオッサンはマジで話にならんな。
メアリーもかなり不貞腐れた感じで俯いてしまったし。
俺が助け船を出してやるか……
「なぁ、局長。
アンタらダンジョン攻略の専門家の意見を聞かせてくれ。
先日のフラワーアリーナダンジョンを俺達と『S.W.A』はたった2組で、僅か4時間弱で完全攻略してみせた訳だが、『FANKY RADIO』を除いてこの場にいらっしゃるパーティー2組だけで4時間以内にフラワーアリーナダンジョンを完全攻略出来るのか?」
「うるさいぞ、ジャップ!
貴様の発言を許した覚えは無い!」
「はっはっはっ!!
面白いじゃない男じゃないか、局長!!」
俺が屁理屈攻撃をスタートしたんだが、1人の金色に輝く男が手を叩いて大笑いをした。
彼は海外の探索者事情に疎い俺でも知っている……。
彼の名はマックス・フォルモンド。
この5年間WSAの世界ランキングの不動の一位の座に着く、キング・オブ・キングだ。
俺が先程上げたSSランクパーティー『FANKY RADIO』のリーダーでもある。
「ユーキ、はじめまして!
俺はマックス・フォルモンド。
世界ランク1位の裸の王様さ」
「な、何を言う!君こそが探索者界の絶対王者だ!
それは全ての探索者が認める所だろう!?
裸の王様などと……」
「いいや、あんなモノはWSAが勝手に決めた尺度で測っただけの無意味なランキングだ。
現に俺にはユーキのように短時間で魔物を殲滅するなんて出来ないから、少なくともその一点はユーキに劣っているだろう?
27位に一つの側面でも劣っている所があるのに、何処が絶対王者なモノか」
マックスはニュースなんかで見る印象通り、真っ直ぐなマインドの持ち主のようだ。
彼はインタビューなんかでも殆ど濁すような言葉や誤魔化しの言葉は言わない。
正に、王者と呼ぶに相応しい堂々とした気持ちの良い男だ。
「はじめまして、マックス。
ご存知のようだが、俺はユーキ・カミシロだ。
先程のアンタの発言だが、どうだろうな。
アンタは世界唯一のレベル500代の到達者だ。アンタがその気になれば、Aランクダンジョンくらい3時間で攻略出来そうだが?」
「へぇ、俺はAランクダンジョンの攻略なんて一度もした事が無いのに、何故そう思ったんだい?」
「アンタは俺が見て来た中で、唯一超一流格闘家レベルの体捌きをする探索者だ。
失礼を承知で忌憚なく述べさせて貰うと、『FANKY RADIO』の他のメンバーはアンタの足を引っ張っていると感じる。
マックスのレベルよりも2枚も3枚も下だから、連携を取る以上どうしても低いレベルに合わせなくてはならない。
あと、Aランクダンジョンの攻略をしていない理由は明白だ。
アメリカのダンジョンは不安定過ぎて、厄介なイレギュラーが発生し易いという。
世界最高戦力のアンタを失うようなリスクを合衆国が負うとは到底思えない。
アンタは柵さえ無ければ、ソロでSランクの『メイトポリタン歌劇場ダンジョン』すら完全攻略出来ると思うが、俺の勘違いかな?」
「フ、フハハハハ!!
良い!良いよ、ユーキ!!
気に入った!
俺とこれから一つ勝負をしないか?」
俺は率直なマックスの印象を忖度無しに語っただけなんだが、何故か彼に気に入られて勝負を持ちかけられてしまった。
真っ直ぐな彼がおかしな勝負を提案はしないだろうし、ここで断ったらムカつく局長につけ入られてしまうかも知れない。
俺はマックスの持ちかけた勝負を二つ返事で承諾したのだった。