105話 バチバチの修羅場になると思いましたけど?
「君は一体人の娘を何だと思っているのかね?」
清川夫妻の存在を失念して雪乃ちゃんのお尻とかお股の付け根にオイルを塗り塗りしていた俺氏は、只今リビングダイニングに場所を移し、海パン一丁で雪乃ちゃんパパの前で正座をしている。
因みに、清川夫妻はLAに着いて直ぐに雪乃ちゃんパパのお仕事の都合でサンフランシスコに行っていた。
予定では明日の朝此方に来て、そのままメジャーリーグの試合を俺達と一緒に観戦する筈だったのだが、お仕事が早く終わったのだろうか?
いや、そんな事はどうでも良い!
俺は雪乃ちゃんに如何わしいテイストを醸したオイル塗りを敢行していたのだ……申開きようもない……
「パパ、あ、あれは、私が雄貴さんにお願いしたの!
ただ高級サンオイルを塗って貰ってただけだから……」
「雪乃は黙ってなさい!!
今、パパは雄貴君と話をしているんだ!!」
雪乃ちゃんが庇ってくれたのはありがたいけど、此処は大切な娘さんを預かる大人の男として英治さんの叱責を受け止めなくてはならない。
「雄貴君……私はね、君の事を信頼して大切な雪乃を預けたんだ……
それが、何だ?
学会のカリキュラムが早まったので、君達と晩御飯でもと思ってマリブに駆け付けてみたら……」
「も、申し訳ありません!
申開きようも御座いません!!」
「ふぅ……君は何も分かっていないね……
可愛い娘を持つ父親の気持ちが……
平謝りをすれば良いとでも思っているのか?」
思わず言葉に詰まってしまった……確かに俺は親としてまだまだ薄っぺらい……桐斗を死ぬ程愛しているが、まだ桐斗の思春期も経験していなければ、反抗期も経験していない……
雪乃ちゃんを20年立派に育てて来た英治さんとは親としての厚み、言葉の重みがまるで違うんだ……
ムニッ!
俺が自分の薄っぺらさに項垂れていると、不意に頭部を抱えられて、顔面に恐ろしく柔らかくも弾力に満ちたモノが押し当てられた……
ゆ、雪乃ちゃんのオッパイだ……
い、いかん!真剣なお話中に下半身が反応してしまう……
俺は即座に腰を引いて見せた。
「どうして雄貴さんの事ばかり責めるの!?
雄貴さんが謝ってるのに、それも否定して!
雄貴さんを虐めるパパなんて大嫌い!!」
「雪乃……
……きちぃぃ……きちぃよぉぉぉ………
ぅぅぅ………可愛い雪乃たんに嫌われちったよォォォ………」
雪乃ちゃんのパパ大嫌い発言は英治さんのハートにブチ刺さったようで、英治さんは先程までの威厳に満ちた雰囲気が霧散して今にも泣き出しそうな顔で俯いてしまった。
「あ、あの、雪乃ちゃん、庇ってくれるのは凄く嬉しいんだけどさ………お父さ…英治さんの言う事は尤もだと思うんよ。
平謝りで済まされる事では無いし、俺は英治さんの気持ちを受け止めた上でしっかりと反省する必要があると思う」
「………雄貴さんがそう言うなら………
パパ、キツイこと言ってごめんなさい………」
「あ、あ、う、うん………
雄貴君のその体勢と表情には不快感しかないが、私の事をフォローしてくれた事は感謝する………」
あ!ヤバ!俺ってば雪乃ちゃんの胸に顔を埋めたままだった!
イッケネ!
慌てて元の正座に戻った俺は、弛んだ表情も戻して英治さんの言葉を待った。
「んんっ!では話を続けよう……
……雪乃から聞いているかも知れないが、雪乃には7歳上の姉が居てね。
名前は夏美というんだが、聞いているかね?」
英治さんのいう夏美さんは名前は雪乃ちゃんからは聞いているが、その夏美さんがどうかしたのだろうか?
「あ、あの、雪乃さんからお名前は伺っておりますが、今は栃木に住んでいらっしゃるとしか聞いておりません」
「そうか……夏美は……アレは何処で教育を誤ったのか、学生の頃から放蕩者でね。
門限は守らない、悪い友達と遊び歩く、果ては補導をされる事まで有ったんだ……
それでも、私にとっても家内にとっても大切な娘だ。
私たちは何度も夏美に注意をした。
時には平手で打ち据える事もあったが、娘が道を踏み外すよりは良いと思って厳しくしたモノだったよ……」
雪乃ちゃんのお姉さんが素行が悪いというのは初耳だ。
雪乃ちゃんからは姉が居るけれど、結婚して栃木に住んでいて何年も会えてないという程度しか聞いていなかったが、お嬢様の雪乃ちゃんとは正反対の性格のお姉さんのようだ。
「それでも夏美の素行は改まる事は無かった。
あの子が21の時、見るからにゴロツキのような風体の男をウチに連れて来て……」
「パパ!お姉ちゃんの旦那さんの事まで出さなくても……」
「いいや、雄貴君には知っておいて貰った方がいい……
そのゴロツキを家に泊めた時に、ヤツは……当時中学生だった雪乃の寝込みを襲おうとしたんだ……」
英治さんの話を聞き、俺は一気に頭に血が昇った。
「何すかソイツ!何ていう名前のヤツっすか!?
今すぐたたっ殺しに行きますわ!!」
「落ち着いて、雄貴さん!
何とも無かったから!私、直ぐに暴れてお姉ちゃんの旦那のアレを潰してやったから!!」
そ、そうか……アレというのはタマという事か……確かに、雪乃ちゃんはヴァージンだし、ファーストキスが俺って事はキスすらされては無いという事だ……
雪乃ちゃんの事になると冷静では居られなくなるのは治さねばな………
「雄貴君、落ち着いてくれ!
雪乃がしっかりと野郎の片タマを潰した上に、私もヤツの肋骨と鼻を折るくらいボコボコにしておいたから、充分制裁は受けている」
「ひ、比喩表現では無く、片タマを……雪乃ちゃんが……
しかも、大学教授の英治さんが肋骨と鼻を……」
「ああ。私は昔は結構イわせていた方だったし、雪乃はやる時はやる娘だ……
話は逸れてしまったが、結局夏美はそのゴロツキと駆け落ち同然に家を飛び出してね。
それっきりさ。
だからこそ、私は雪乃を天塩にかけて大切に育てた。
雪乃も夏美を反面教師にして、実に素晴らしい娘に育ってくれた……
親バカかも知れんが、雪乃は何処に出しても恥ずかしくない自慢の娘なんだよ……」
「パパ……」
「雄貴君、私は君が隣に越して来て以来、君の事を素晴らしい青年だと思って来た。
仕事を懸命に頑張り、家庭の事も疎かにせず、桐斗ちゃんを必死に育てている君を見て、とても感心していたんだよ。
君が探索者になる前からそうだったんだ。
そんな君が探索者になる時に雪乃の命を救ってくれて、探索者になった後も常に雪乃を守ってくれて……
君と雪乃が婚約をしたと聞いて、どれほど嬉しかったか分かるかね?
君が雪乃の事を嫁に下さいと頭を下げに来た時、本当は涙が出るほど嬉しかったんだ……」
英治さんの言葉が胸に響いた……
俺はそんな英治さんの気持ちを裏切るような真似を……
「も、申し訳ありません、お義父さん……
俺は……お義父さんの期待を裏切るような真似を……」
「君は何故、雪乃を抱かんのだね?」
……は?
「は?……お、お義父さん?」
俺は英治さんの言葉に耳を疑った。
「だから、雪乃を何故抱かないのかと聞いている。
親の贔屓目かも知れないが、雪乃は家内に似て器量も抜群だ。
プロポーションもそこいらのグラビアアイドルではまぁ、勝負にならんだろう?
一体何が不満だと言うのだ?」
「え?いや?
あ、あの……お義父さん?」
「先程2人がいい雰囲気なのを遠目で見ていたが、アレは何だね?
せっかく雪乃が勇気を振り絞って勝負水着を着て、オイルを塗るようにお願いしたと言うのに、何だあの体勢は?
普通はそのまま致すシチュだろう?」
こ、このお義父さん何言っちゃってんの!?
普通は大事な娘を傷物にするなとか言って怒る所じゃないの?
「パ、パパ、恥ずかしいからやめて!」
「いいや、パパだって黙っていられない。
雪乃はママに雄貴君に抱いて貰えないと何度も相談していたそうじゃないか?
私もママからその事を聞いて、雪乃が不憫で仕方が無かったんだ」
「あ、あの!
雪乃さんを抱きたくない訳は有りません!!
ですが……その、俺……せ、性欲モンスターなんす!!
一回してしまうと歯止めが効かなくなるというのか……」
俺は思わずカミングアウトしてしまった……婚約者の父親にするような話では無いが、色々と暴走した英治さんには本当の事を言わないと止まらないだろう。
「ほう?自分でモンスターと言うとは……相当な自信じゃないか?
どの程度のモンスターというのかね?」
「え、えと……致した次の日は……あ、相手の女性が消耗し過ぎて何も出来なくなるくらいでしょうか……
少なくとも、前の嫁は俺とした次の日はバイトを休んでました……」
俺は非常識にも現婚約者の前で元嫁を引き合いに出してしまった……
だが、誇張ではなくて実際にそうだったんだから仕方ない……
19の時に瑠奈と付き合って、桐斗を妊娠する迄の1年程は次の日瑠奈に良く文句を言われていたんだよなぁ……
「そ、それ程か……」
「俺は雪乃さんを本当に大切に思ってます!
だからこそ、探索者活動と俺や桐斗の事に日々追われるのではなく、JDにしか味わえないキャンパスライフを謳歌して貰いたい!
俺にメチャクチャにされて次の日に講義に出られないとか、そんなの余りにも可哀想じゃないですか!?
だから、雪乃さんが大学を卒業するまでは意地でも我慢しようと……」
「あ、あの…雄貴さん……」
俺が赤面しながらも心中を白状していると、雪乃ちゃんが待ったをかけた。
「私、前期で卒業迄の単位を全て取ったので、後期からはもう殆ど大学に行かないんです。
あと、雄貴さんが女子大にどんなイメージを抱いているか分かりませんけど、キラキラしたキャンパスライフなんかじゃ無いですよ?」
「え?そ、そうなの?」
「私が仲の良い友人は少なくとも派手な人は1人も居ませんし、それぞれ将来の事を考えて資格の勉強をしていたり、公務員試験の勉強をしていたりという感じで、カフェでお茶する事すらも滅多に無いですし」
「サ、サークルとかは?
普通の大学生はサークルとかに入って、何か楽しく飲んだりするんじゃないの?」
「今はそんな大学生は居ないです。
大学の公認サークルは文化系にしろ体育会系にしろ、飲み会は年に2〜3回じゃないですか?
探索者になった同級生が亡くなったりとか、身近な人の死を経験している学生が殆どなのに、大学に入って呑気に遊び回るなんていう人はあまりいません。
ダンジョンが出来て以来、自分の将来を考えずに遊ぶ為に大学に入る人なんて殆ど居ないですよ」
ま、マジかよ……全く知らんかった……
高卒で学の無い俺は、大学生って皆んな友達と連んで何かしら豪遊しまくってるイメージしか無かったぜ……
「私はもう将来はバッチリ固まってますし、その為に時間を使いたいんです」
「ああ、今や雪乃ちゃんも日本を代表する探索者だもんな……」
「探索者だけじゃなくて……雄貴さんの……お、お嫁さんになる為に……その……」
ちょ、その頬を赤らめて上目遣いで見つめられるのヤバいんですけど!?
「ふふふ…
もう、私は邪魔なようだね。
街ブラしている家内と合流しなくてはいけないから、そろそろ出かけるよ」
あ……お義父さんが席を立って出て行ってしまった……
「あ、あの……その……私と……その……し、したくないですか?」
雪乃ちゃんは最後に例の上目遣いで俺の自制心を打ち砕いてしまった……
俺は水着姿の雪乃ちゃんをお姫様抱っこすると、自分用の寝室に向かったのだった……