103話 新たな天才が現れたんですけど!?
「ミスター・カミシロ。
貴方とパイロン大統領の友情は全米に感動を与えました。
あれ程怒っていた貴方が何故、大統領の謝罪を受け入れて謝罪金を帳消しにしたのでしょうか?」
「大統領の誠意ある行動に心を打たれたのが一番かな。
大国のトップが一探索者の為にわざわざ出向いてくれて謝罪してくれたのだ。
それ程誠実な人柄の大統領を相手に、更に金を寄越せなどと言うほど、俺は恥知らずな人間ではない」
「なる程。
お恥ずかしながら私達国民の多くが貴方を誤解していました。
メディアを代表して謝罪させて下さい」
「いや、もう謝罪は必要ないさ。
これからアメリカと日本が強い絆で結ばれれば、そして『VISITORS』リーダーのメアリーが言うように、その絆がどんどん世界中に広がればそれで良いんだ」
「まぁ、本当に貴方はコミックのヒーローのような方ですね!
これからの合衆国と日本でのご活躍を応援しております。
本日の『カリフォルニア・ファッキン・モーニング』のゲストは『GACHI=THEY』のミスター・カミシロでした!」
「これからも合衆国の為、日本の為に尽力する!
カリフォルニア州の皆んな、応援よろしくな!」
大統領の謝罪の翌日。俺はLAの配信局での生配信を無難に終わらせた。
女性MCの取って付けたような笑顔が怖かったが、下手にツッコむ事もせずに自重してみせたぜ!
あれ程ダンジョン攻略後は桐斗や雪乃ちゃん達とLAで遊びまくろうと思っていた俺氏だったが、例の大統領との仲直りアピールの影響が凄過ぎたらしい。
所属事務所の『ラブリー・ワン』に取材やら何やらのオファーがゴミのように来たらしく、ジャーマネの皆川さん付きの秘書から昨夜、皆川さんへ連絡が入った。
皆川さんが厳選して一番無難な仕事が、今行った朝の生配信番組への出演だった訳だ。
「雄貴君、お疲れ様!
凄く良かったよ!
せっかくのオフだったのに、本当にゴメンね」
「皆川さんが苦労して選んでくれた仕事だから全然平気ッスよ。
後は『VISITORS』の拠点に戻ってトレーニング生配信をすれば、午後からは桐斗と雪乃ちゃん達と『アニバーサル・スタジオ』に遊びに行けるんで、問題無しッス!
皆川さんも姉貴とデート楽しんで来て下さい」
「ははは、ありがとう。
梢は色々行きたい所があるみたいだから、これから巡る為のルートを考えないとな」
「皆川さん、いや、義兄さん。
良くあの姉貴のワガママに楽しそうに付き合えますね?
無理してないですか?」
「ん?全然無理なんてしてないよ。
僕は無趣味だから、色々な事に興味を持って色々な事を教えてくれる梢と一緒にいるのはとても楽しいんだ」
俺は日頃から義兄さんに思っていた質問をぶつけてみたが、義兄さんからは人の良さが滲み出た答えが返って来た。
この人は別に俺に良い人アピールをしたくてこんな事を言った訳じゃ無い。
姉貴と3年前に付き合い始めた日から接して来て、義兄さんが真の善人だと実感している。
姉貴……マジで最高の相手を見つけたなぁ……
俺も雪乃ちゃんという最高の婚約者が居るし、お互い幸せな家庭を築こうぜ、姉貴……
俺は柄にもなくそんな事を思いながら、義兄さんの運転するセレブカーに乗り込んだのだった。
◆◇◆◇◆
「もう嫌だ……何なのこの天才2人組……
優秀過ぎて教えたくないんですけど……」
《ニキが嫉妬してて草》
《でも、ベイツとミュイってガチでヤバくね?》
《凄い!我らが『S.W.A』がユーキのお墨付きを貰ったぞ!》
《四つん這いのイケメンニキが見られるのは今だけだ》
【$1,000:ジャック・トンプソン:ネバダ州を救ってくれたお礼だ】
《翻訳班:2人の天才にウンザリする。余りに優秀過ぎてもう教えたくない(キリッ》
《NIKIって普通に他の探索者を称賛するんだな》
《翻訳班GJ!》
ビバリーヒルズの『VISITORS』の拠点に戻り、10時からトレーニング生配信を行ったんだが、ベイツとミュイの余りの覚えの速さに、俺は落ち込んでしまった。
今は『VISITORS』所属の『THE PRODIGALS』と『PUNISHER』というAランクパーティーと一緒に、Cランクのサンノゼダンジョンで厄介な道中魔物のフレイムコングという魔物の攻撃回避練習を行っていたんだが……
ミュイはチョロっと位置取りや距離感の説明をして、2〜3回動きを見せたら習得してしまうし、ベイツはミュイよりも習得には時間がかかるが、基礎的な部分を覚えてしまうと応用まで行ってしまう。
要は、反復練習しまくって基礎を身に付けた自分の才能の無さにイジケてしまったのだ。
「フン、ミュイはユーキよりも天才だから当たり前。
それよりも、早く次の魔物の回避練習お願い」
「ちょっと待て。『VISITORS』の他のパーティーの前衛の彼等がまだ途中だろ。
つーか、君達天才組は自主練で良いと思うぞ?」
「ははは。俺からすれば、俺もミュイもユーキのレベルにはまだまだ届いてないって思うんだがな」
「いや、今はそうかも知らんが、日本に来て体内魔力を把握したら2人とも絶対に俺より強くなる。
俺は君らに模擬戦で勝てなくなると思うぞ」
俺は今2人に感じている脅威をストレートに伝えた。
あくまで戦闘スキルと拳神スキル無しの模擬戦であればという条件付きだが、ベイツもミュイも魔力を活用しての戦闘が身に付けば、俺では太刀打ち出来ない可能性が高いのだ。
「ほ、ホントに!?
ユーキに勝てるの!?」
「マジかよ!魔力の把握ってそんなに凄いのか!?」
「ああ。
魔力の把握と魔力操作を身に付けたら今よりも格段に反応速度が上がるし、瞬発的なパワーも上がる。
君ら天才が基礎トレや魔力操作トレを導入すれば、Sランダンジョンのボス個体以外なら戦闘スキル無しで余裕で勝てるだろうな」
俺の素直な意見を聞き、ベイツもミュイも更にやる気を漲らせた。
将来の自分の成長を手放しで喜ぶのでは無く、絶対に魔力操作を身に付けるという静かなる闘志を漲らせる辺りが流石だ……
……コイツとは役者が違うな……
「ピザデフ!彩音の尻ばかり追いかけてんじゃねえ!
お前も少しはベイツとミュイを見習えよ!」
そう……同じパーティーの前衛のピザデフはマジで訓練を舐めているとしか思えないのだ。
せっかく彩音が基礎的な有酸素のフィジカルトレを教えてくれているのに、アイツと来たら彩音の後ろで床にへたり込んで、彩音のプルンプルンの尻をずっと見てやがる……
「クソ!アイツは本当にお前らと同じパーティーなのか!?
外をランニングしろっつっても、いつの間にかルートから外れてファストフード店でエロ本読んでるし」
「まぁまぁ、ユーキ。
アイツは【堅牢】持ちの優秀な盾戦士なんだ。これまで地味なトレーニングの習慣が無かったから仕方が無いさ」
「ベイツは甘過ぎ。
今までウチらは個人主義でやってたけど、せっかくユーキが教えてくれるんだから今後もユーキのトレーニングを皆んなでやるべき」
ボズッ!!
「アウチ!!な、何すんだオリビア!」
俺が呆れながらピザデフの事をベイツとミュイと話していると、デカい肉の塊をハンマーで叩いたような音が響いた。
オリビアがピザデフを蹴り付けたのだ。
「アンタねえ!いつも私のヒップを弄んでる癖に、いつまで彩音のヒップを見てんのよ!」
「い、いや、誤解だぜ!?
俺はオリビアのボテっとしたヒップの大ファンなんだ!
幾らアヤネが芸術的でプルプルした最高のヒップの持ち主だからって見惚れる訳が…ブベェッ!!」
「このドスケベクソブタ野郎!!
その腐った性根を叩き直してやるんだから!」
オリビアとピザデフの痴話喧嘩からの乱闘が始まってしまった……
結局、周りが何とか暴れるオリビアを窘め、ピザデフは鼻骨の骨折と20箇所の打撲という軽傷で済んだ。
え?全然軽傷じゃないって?
いや、嫉妬に狂ったオリビアに殺されなかったのだから、充分軽傷と言えるだろう。
かなりの混乱はあったものの、その後はカリキュラム通りに基礎トレを終え、トレーニング生配信もアメリカの視聴者層から概ね好評を得て終了となった。
◆◇◆◇◆
「パパァ、そのぼーちかちてぇ!」
「コ、コラ、桐斗、帽子を取ったら騒ぎになるからダメだって!」
昼食後、俺は桐斗と雪乃ちゃんと彩音と共に、予定していた『アニバーサル・スタジオ』というテーマ・パークにやって来た。
桐斗がアトラクションを見易いように肩車をしているんだが、その桐斗は俺が変装用に被っているハンチング帽を面白がり、帽子を取ろうとして来る。
Aランクダンジョン完全攻略と大統領との和解の反響はかなり凄まじく、『ガチ勢』は素顔を晒して外を歩くとファンに囲まれてしまうとメアリーから釘を刺されていた。
現にこのテーマパーク内にいる子供達の中にチラホラと『ガチ』とカタカナ表記されているキャップを被っている子が居るし、左胸に『ガチ勢』と書いている公式グッズのTシャツを着ている人らがいる。
アメリカは日本のような法整備をされていないので、ファンが推しの探索者を見かけたら直ぐに写真をおねだりしたり、サインをおねだりに群がるらしい。
Aランク以上の探索者に不用意に声をかけたり写真を撮る事が規制されている日本とは大違いだ。
そんな訳で素顔を晒せない俺達は何とか桐斗から帽子を守りながら施設内を歩いて居たんだが……
「何か日本のアニメのアトラクション多くね?」
本番アメリカのアニバーサル・スタジオに来たというのに、日本のアニメの世界観を演出するアトラクションが矢鱈と目に入る。
「そりゃそうですよ。日本のアニメは20年以上前から世界中で大人気ですから」
「ユーキさんは24歳とは思えない程昔のアメリカ像を抱いたままですのね」
「ああ、確かにそうかも。
かなり昔の名作映画が好きだった親父殿の影響で、1980年代〜90年代のハリウッド映画を見漁ってたからな」
「なる程、それは相当昔ですわね……
でしたら、彼方に『バック・イン・トゥモロー』のアトラクションがございますわ」
彩音から耳寄り情報が飛び出した。
何と、80年代に一世風靡した車で過去や未来にタイムトラベルする名作のアトラクションがあると言うのだ。
だが……
「ありがとう、彩音。
でも、今日は桐斗が主役だからな。
桐斗は何かやってみたいアトラクションはあるかい?」
「ボク、ヘッタやりにいきたい!
パパみたいにけんとぱんちれまものをばしゅぅってしゅるの!」
「くぅ……桐斗……」
俺は桐斗の言葉に感涙してしまった……
愛息が俺に憧れてくれている……こんなに嬉しい事はない……
因みに、桐斗が言うヘクターは個人名で使う場合と、前衛職の探索者全般の総称を差す場合があるようだ。
ともあれ、俺はテンション爆上がりの桐斗と共に、最近子供達に人気だという『探索者ヒーローズ』というアトラクションに向かったのだが……
「て、天才や……ウチの子天才や……」
アトラクションを始めた桐斗は、何と俺の探索者活動での動きをそっくりトレースして、ビニールっぽい柔らか素材で出来た魔物擬きの攻撃を躱してはリターンを繰り返している。
「あははは!パパパーンチ!」
ま、マジで凄いぞ!!
ビニールゴブリンの剣をサイドステップで回り込むように躱して、ゴブリンの側頭部を見事に腰の入った右ストレートで撃ち抜いた!!
ビニールゴブリンの頭はパーンと弾けてアトラクション魔導具が一体壊れてしまったが、そんなモノは金と俺の名声で何とでもなる。
それよりも今は俺の可愛い天才チビさんだ!!
「き、桐斗!凄いじゃないか!!
そんな凄いパンチいつ練習したんだ!?」
「えへへ、ボクねぇ、うんとねぇ、パパのパパビューみながらしゅっしゅしてるんらよ!」
「ま、マジかよ!?
凄いぞ、桐斗!その歳でちゃんと腰を回して肩を入れて、実に滑らかに的を撃ち抜いている!
桐斗は間違いなく天才だ!」
「雄貴さんのテンションに引いちゃいますけど、キィたん本当に凄いわ!!
可愛くて天才って最強だよ!?」
「あははは!パパ、ママ、見てぇ!
ボク、きっくもれきるんらよ!!」
「くぉぉ!一切軸がブレてない!
鞭のようにしなるハイキック!!ヤバ!桐斗が天才過ぎて涙出て来た!」
「あぁん!キィたん最高過ぎる!
待ってね、今キィたんのカッコいい所スマホで撮るからね!」
「……親バカっぷりが凄まじいのですわ……」
彩音が一歩離れた所から何か呟いたが、俺達はその後も桐斗の天才無双っぷりを堪能し、『探索者ヒーローズ』を8巡もしたのだった。