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102話 美優先生に翻弄されるヤツら ④


挿絵(By みてみん)




時雨(しぐれ)視点》



「ちぃっ!『エスプロジオーネ』27ヶ月連続ナンバーワン且つ10億円プレイヤーの雅美(ミヤビ)さんがゲキオコになっちゃったかぁ……


だが、『天然男狂わせ』のミユウさんと『鬼枕(おにまくら)(最初は『枕営業の鬼』だったのが省略された呼称)』の雅美さんのバチバチの対決は必見!


コレは酒が進むゼェ!」


「いや、時雨(しぐれ)さん、早く雅美さんを止めてくれませんか?

彼女、元Aランク探索者だから私達では怖くて止められないんですよ……」



 僕が美優さんの方へとゆっくりと近づいて行く雅美(みやび)さんを見てワクワクしていると、ボクの隣の大下部長が困り顔で止めるように頼んで来た。


 大下部長の言う通り、雅美(みやび)さんは元探索者だ。

 『エスプロジオーネ』を経営する八条グループと『暁月』は持ちつ持たれつの関係で、『暁月』は格安の費用で指名依頼を引き受け、八条グループはリタイアした『暁月』所属の探索者を雇用してくれる。


 過酷な探索者稼業は現役を続けられる期間が極端に短い。

 元Aランク探索者だった雅美さんも24歳で引退を決めて『エスプロジオーネ』に入った。

 全く畑違いのキャバ嬢という職業に中々馴染めなかった雅美さんだが、一から接客を学び、客を繋ぐテクとして自身の強みである枕営業を前面に押し出して、僅か半年でナンバーワンとなった。


 どうやらレベリングしていない一般人でも高ステータスの異性と致すのはかなり強烈な快感を覚えるらしく、Aランク探索者だった雅美さんを一度でも抱くと他の女とはする気にならない程だとか。

 雅美さんはその強みを活かすべく『100万以上のボトルを入れた指名客には枕をする』とSNSで発信して、今の地位を手に入れた訳だ。



 そんな雅美さんにとって、ボク経由で指名に漕ぎ着けた大下部長達をキャストでもない美優さんに掻っ攫われたのは面白くないのだろう。

 何しろボクの奢りで160万の『マジモン・クリスタル』というお高いブランデーのボトルを入れたのだ。


 お膳立ては整っている。

 後は大下部長か宮原課長に枕を仕掛ければ、まず間違いなく指名客としてリピーターになる事は請け合い。

 『エスプロジオーネ』はフリーの一見は中々入れないが、キャストの太客は事前の調整をすれば来店可能。


 急成長企業の『長嶺魔石加工株式会社』の部長や課長は月給数百万と思われる。

 特に統括部長の大下さんは月1千万を超えててもおかしくない。

 そんな新規の太客候補が美優さんにデレデレ状態。



 雅美さんはメチャクチャ短気で手が早い……下手すると血を見るような騒ぎになりかねないよね……



 散々ボクを振り回した美優さんが不意打ちとかで引っ叩かれる所を見てみたい気もかなりするし、ボクの名前でクソくだらない小ボケをかました宮原が巻き添えでグシャグシャにされる所も見てみたい気は相当する……

 ……が、ここはボクが間に入るしかない……



「人の店で好き勝手してんじゃねぇぞ!このツンブリ女!!」



バシャアッ!!



 あ、ボクが修羅場を見た過ぎたばかりに、仲裁に入るのが遅れてしまったぞ!?


 雅美さんはピッチャーの水を男を侍らせてソファに座る美優さんにぶっ掛けたが……



「小娘……私が皆んなと楽しく酒を酌み交わしていたというのに、水を差すとは余りに酷いのではないか?」



 まるで残像が見える程のスピードで美優さんはソファから抜け出して、雅美さんの背後に回り込んでらっしゃる……

 水も一滴もかかってないっぽいな。

 代わりに彼女の両隣でスケベ顔をしていた宮原と竹元がびしょ濡れだ……ザマァwww



「クッ……アンタ探索者なのね……最初から蹴りをブチ込むんだったわ」


「はぅぅ…そんな怖い顔で睨まないでくれぇ……私は乱暴な事が嫌いなのだ……」


「その露骨な猫撫で声とか舐めてんの!?

乱暴な事が嫌いな探索者なんて聞いた事ねえわ!」


「ひぅぅ…ど、怒鳴らないでくれぇ……怖過ぎて涙が出てしまうかもだ……」


「雅美ちゃんやめろよ!ミユウさんが怖がってるだろうが!

つーか、俺に水かけた事謝れや!」

「そうだ、ミユウちゃんは俺達皆んなのセクシーアイドルなんだぞ!!

客に水をかけるわ、アイドルに追い込みかけるわ、この店の教育はどうなってるんだ!!」



 露骨に猫を被る美優さんをバカ2人がめっちゃ庇ってる……

 でも、彼女を『YOSSY』さんだと思って見るとボクもバカ2人と同じ事をしただろう。



 雅美さんも客に水をかけた手前、上手く言い返す事も出来ずにぐぬぬとしか言わなくなった……



「あの……時雨様。

ちょっと宜しいですか?」



 ボクがこの状況を密かに楽しんでいると、店長がやって来てボクに耳打ちをした。



「あ、店長。黒服が居ないから、客が好き勝手に席を移動してるんだが、どういう事なんだ?」


「それが……お連れ様のあの女性を自分の卓に付けろとあちこちの席から要望がありまして……

あの方はキャストでは有りませんので、お断りをしたのですが全く収まらず……


キャスト達は指名客を持って行かれたと怒ってしまって、仕事をボイコットし始めたものですから……

黒服達が今、何とかキャスト達を説得している所なのです……」



 な、なんて事だ……美優さんの破壊力が凄過ぎて、この店の客の殆どが彼女に持って行かれたというのか……

 ボクはとんでもないモンスターをこの店に入れてしまったのだな……



「誠に申し上げ難いのですが……そろそろお引き取り頂けないと、本当にキャスト達が店を辞めてしまいかねません……」


「う、うん。そうだよね……

でもさぁ、そのお連れ様が雅美さんと一触即発なんだよねぇ。

下手に止めに入ると雅美さん暴れちゃうしさ」


「あ、た、確かに……。

怒った雅美さんは……ウチのエリアマネージャーでも止められないですよからね……」


「取り敢えず、ボクが美優さんを連れて来てしまったのがトラブルの原因だから、ボイコットすると言っているキャストには『暁月』から1人1千万の詫び金を渡すと伝えて、なんとかボイコットを止めるようお願いしてみて。


勿論、この店にも別途詫び金を払うからさ。

今後絶対に美優さんを店に連れて来ないから、今日の所は多目に見てよ」


「ええ……そういう事でしたら……

でも、お連れ様は大丈夫でしょうか?

今にも雅美さんが殴りかかりそうですけど」



 正直手痛い出費だが、こんな事態を食い止められなかったのはボクにも結構な責任がある。

 何とか店長に納得して貰ったのだけれど、店長の言う通り未だに通路で向かい合う2人はヤバい状態だ……



 まぁ、美優さんは猫を被って困った感じを出しまくっているだけで、ヤバい感じは雅美さんからの一方通行的殺気が主な原因なんだが……



 宮原も竹元も、他の男性客達も口では雅美さんを批難するけど、実際に2人の間に割って入りはしない。





 ……あ、雅美さんが動く!!





 ビュオンッ!!




「いやぁん、ぼ、暴力は止めてくれぇ……いよいよ泣いちゃうかもだ……」



 雅美さんが左のハイキックを繰り出したが、めっちゃブリった美優さんがダッキングからのサイドステップで、再び雅美さんの背後を取った。



「ヤ、ヤベェ!雅美ちゃんのパンティ、スケスケのヤツだ!!」

「お、俺もチラッとしか見れませんでしたけど……ピンクのスケスケっすよね!?」

「ったく、新参組は仕方ねぇなぁ。

ミヤビはキャバクラ業界で一番尻が軽いんだ。際どいパンティなんぞいつも履いてるんだぜ」



 ……さっきまで雅美さんを責めていた宮原と竹元が雅美さんにめっさ鼻の下を伸ばしてる……

 あのブランド品で固めたデブが変なマウント取ってるし……



「クソッ!ちょこまかとっ!!」



 おお、雅美さんがリードの右アッパーを繰り出した!!



 ブォォッ!!



「ひぅぅ……やめてくれぇ……ぶたないでくれぇ……」


「み、雅美さん、止めるんだ!

彼女は時雨様のお連れのお客様だぞ!」


「うっさいわねぇ!

ムカつき過ぎて、あの綺麗な顔面を陥没させないと気が済まないわよっ!」



 またしても雅美さんの攻撃をサイドステップで躱した美優さんは露骨な困り顔と猫を被った感じのまま一向に手を出す雰囲気では無い……



 おっ!今度は雅美さんは大きく右脚を踏み出して、前脚を美優さんの右脚の外側に置いた!

 考えたな……美優さんのサイドステップを封じたのか。



 しかも、美優さんは猫を被る為にワザと怖がって顔を背けている……コレは当たるかっ!?



ブォォッ……パシッ……



挿絵(By みてみん)



「うそぉぉぉん!そんな躱し方ありかよ!?」



 何と、再度の雅美さんの前手の右アッパーを、美優さんは『ベスト◯ッド』のワックスを拭き取るディフェンスみたいな左手で払うヤツで軌道を変えた……


 だが、雅美さんは既に左ストレートのモーションに入っている……



「右アッパーは最初から囮!?本命は左ストレートか!?」


「いやんっ、もうやめてくれぇぇ」


「そのムカつく程綺麗なツラを陥没させたらぁっ!!」



ビュンッ……ガッ……



「おいおい、マジかよ!?」



 美優さんは雅美さん渾身の左ストレートを、今度は『ベストキッ◯』で壁にペンキを塗るヤツみたいに右手の甲を下から叩きつけて軌道を逸らした……



「雅美さん、いい加減にしろ!!

幾らナンバーワンの君でも……」


「店長、大丈夫だ。

美優さんはああ見えて相当な達人だ」


「ええ!?どこがですか!?

いまも雅美さんを怖がってるじゃないですか!?」


「でも、まだ一発も雅美さんの攻撃を受けてない。

良く見てみろよ。

今も『ベストキ◯ド』のワックスがけみたいなヤツで雅さんの左ボディストレートを弾いただろ?

あんな事を現実で出来るのって、達人以外居ないじゃないか」


「あ、ホントだ!

あの、ミ◯ジさんがダニエ◯さんに教えてたヤツだ!!

という事は、彼女は◯ヤジさん並の達人という事か……」



 ボクの説明で店長も納得してくれたらしい……



 その後も次々とペンキのアップダウンのヤツとかで雅美さんの攻撃を捌きまくった美優さん。

 最後は精魂尽き果てた雅美さんがフロアに大の字になった。



「ハァ…ハァ…ア、アンタ、バ、バケモンね……」


「ふふふ。君も格闘技未経験にしては中々スジが良かったゾ!

さあ、戦った後は全て水に流して仲良く飲もうじゃないか!」


「ハァ…ハァ…強いだけじゃなくて優しいとか……女として最高じゃない……


……ミユウお姉様って呼んでいい?」


「ははは。

ミヤビのような美人な妹が出来て嬉しいゾ!」



 最後は美優さんの猫被りが解除され、両者には喧嘩した後のヤンキー同士のような硬い絆が芽生えたようだ。


 気付けば大下部長達、男性客達、そして店長までが笑顔でハグをする両者にスタンディングオベーションを送っていた。


 その後雅美さんも加わった酒宴は閉店時間まで続き、雅美さんはアフターと称して美優さんの泊まるホテルにやって来た。



 美優さんと雅美さんの酒盛りは明け方まで続き、結局そのまま寝ずに神城君達のダンジョンアタックを見る事になった……



 ダンジョン攻略を見た美優さんがメチャクチャ興奮したのは言うまでもない……



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