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手紙が届いた 3

 翌朝、夢も見ないほど熟睡していた結人は遅くに起き上がった。

すでに太陽は昇りきり、窓はきっちり閉められている。

 今日は土曜日なので、やる事が多い。

布団を干し、庭の雑草を片づけないといけない。

「結人ー!起きたー?」

 物音を聞きつけた聡に適当に返事しつつ、一階の台所へ下りていく。

板張りの玄関はひんやりして、目を覚ませと促してくる。

 相変わらず軋む扉を開けて毎朝配達される牛乳ビンを二本回収する。

 その足で台所の聡に渡すと、一本は冷蔵庫へ。もう一本はコップに中身を注がれ、空にされるとシンクへ置かれた。

 すでにトレーが二つだされて、半熟の目玉焼きとウィンナーにサラダというパンが合いそうなおかずが盛り付けを待っているところだった。

固めの卵が好きな結人は不服だったが作ってもらった以上残す選択肢はない。

せめてパンと食べたいという結人の願いを断り、炊飯器が炊き立ての合図を盛大に鳴らした。

「どんなメニューでもご飯だよね。」

「夜はシチューでパンにしよう。賞味期限やばい食パンと牛乳あったし。」

「賛成。あ、そろそろ朝ドラ始まる。急げ急げ。」

「寝坊しといてよく言うな。」

「一宿一飯の恩人に酷いね。」

「俺も一食作ったし。ほら持って行け。」

「はいはいありがとう。」  

 テレビをつけると、丁度朝ドラのオープニングが流れ出しているところだった。

最近人気のグループが主題歌を担当していると聡は興奮していた。朝からベースがきいていると言うが、結人はよく分からなかった。

日常的な事件が起こる、夜のドラマほどハラハラしないストーリーが気に入っていた。

「たまにはさ、大富豪で苦労知らずなヒロインも良いと思うんだけど。」

「聡はそれ見て楽しい?」

「裏でドロドロしててくれたら楽しい。」

「だから朝ドラヒロインは苦労しかしないんだろ。最後成功してもさ。」

「それもそっか。」

 それからさっさと朝食を終え、布団一式をベランダに投げ出す。

シンクの食器を綺麗にするのは全部終わってからだ。

最期に体操着に着替えれば、さあ庭仕事となる。

 結人の家の庭はさほど広くはないが家主のサボり癖のせいで雑草の侵食が酷い状態だった。

生垣に使われている大きく育った金木犀の下から始めて、少しずつ家屋へ近寄っていく。

二人が通った道が雑草の海に作られた。

 途中、どこからか飛んで来ていたらしいゴミも回収する。

時々小学校の小テストや、長いレシートなんかが雑草に埋もれているのだ。

「水分補給忘れないでね。」

「結人、文化部のクセになんでそんな強いわけ。」

「日光に弱いから聡はインドアスポーツ選んだっけ。」

「今年は目指せ全国なんで。」

「去年、県予選一回戦で負けたのに。」

「目標が一回戦突破じゃ、壮行会が楽しくないだろ。」

 二人してにやりと笑い、軍手を放り出す。

 同時に縁側から室内に飛び込んで、どちらが先に冷蔵庫にたどり着くか競争を始める。

手際よく除草していた結人の方がはやく室内に飛び込んだが、最期は腕の長さで聡が先に扉に手をかけた。

「何時の間に麦茶作ってたんだ。」

「昨晩、自分用に。全部飲むなよ。」

 各々グラスを持ってきて、指が痛くなる程冷えた麦茶を飲む。

ずいぶん冬が遠くなったと汗を拭った。

青空が近くなり、生垣の緑も元気良く見える。冬も暖かい地域だが、やはり景色は違ってくるものだ。

 あとひと踏ん張りというところで聡の携帯が鳴った。相手は聡の母親からだった。

「母さん、シーグラス探しに海行くって。どうするー?」

 半分残された雑草を見て、結人はカーテンを閉めた。ついでに窓の鍵もキチンとかける。

「行く。」

「だよな。」

そうと決まれば体操着を短パンとティーシャツに変えて、靴箱の奥からぼろぼろのビーチサンダルを取り出す。

聡の持ってきていたカバンに大判のタオルを詰め終えた頃、玄関先で軽いクラクションが鳴った。

 家中の戸締りを手早く見て二人が玄関から飛び出すと、ピンク色の軽自動車が待ち受けていた。

日光を避けるためか運転手は車外でサングラスを回して口笛を吹いていた。

「遅いぞー。」

「ごめんなさい。」

「母さんが早いんだって。法定速度守ったよな!?」

「プラス十までは見逃される規則なんだ。」

「そんな訳あるか!それ母さんの実家あたりだけだろ!!結人乗せるんだから、安全運転してくれよ?」

「分かってる。明日は分からないけど。」

「家族も大事にしてくれ。」

 聡は助手席に、結人は運転席の後ろに乗り込んだ。

車の中はあまりエアコンがきいておらず、暑苦しかった。

それに結人のよく知らない音楽が流れていた。音の多い曲に結人は頭が痛くなりそうだった。

「母さん、音下げてよ。」

「窓開けたら聞こえないんだもん。それに慣れると最高だよ?」

 聡の母は息子たちなぞお構いなしに車を走らせた。全ての窓を全開にすると、少し肌寒いくらいだった。

緑の匂いと川の音が飛び込んでくると、確かに少し音楽が気持ちよく聞こえるようになってきた。

これからどこかに行こう、と気分が盛り上がってくる。

行き先も知っていて、幼い頃から行っている場所であっても音楽ひとつで変わるものらしい。

 少し遅いテンポと適当な歌詞で歌う聡の母の運転は安定していて眠気を誘ってくる。

「運転しながら聞く曲の歌詞に、ブレーキ折れてるってどうなんだよ。」

「それが良いんだって。お父さんも同じこと言ってたけど。」

二人の声とカーステから流れてくる知らない人の声が混ざり合って、結人は知らぬ間に眠っていた。

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