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手紙が届いた 2

 三合炊きの炊飯器は聡によって空にされ、フライパンいっぱいの炒め物も油一滴残らず空になった。

二人はお風呂も終わらせ、布団の用意も済ませてから、昼間とどいた手紙をテーブルの真ん中において白湯を飲んでいた。

 近くの竹林の音すら聞こえないので、結人がテレビをつけようとしたが聡がリモコンを取り上げてしまった。

「いやこれ、テレビ見ながら話したいわけ?」

「気軽に行きたい。」

「・・・・・・・まず、は。この手紙が事件じゃないってわかってからな。カッターの刃とか入ってたら怖いから俺が開ける。」

「何それ、怖いこと言うな。」

「前、母さんにあったんだって。親父あれで漫画界のイケオジで通ってるから。ん、そういうのはなさそう。はい。」

「ありがとう。僕、恨まれるような事してないんだけど。」

「母さんだって結婚しただけだぜ?」

 聡の母の不幸を思いながら、水城 奏人なる人物からの手紙を読み始めた。

 ネットで拾ったような時候の挨拶がうねった字で書かれている。

その後に水城 奏人の自己紹介が続いていた。

 曰く、水城 奏人は関東在住の小学五年生の男の子である。

今回他県に住んでいる親戚に手紙を出してみよう、という授業があったがその相手に『木内さん』が選ばれたという。

 突然手紙を送ったことの謝罪のあとは、他愛のない事柄が続いた。住んでいる場所の観光名所だとか、果ては小学校の七不思議から運動会の応援合戦についてまで。

 つい最近まで小学生だった気がしていたが、奏人の書く学校生活に二人はつい懐かしくなった。

「水城くんの学校、運動会の横断幕凄いね。『龍と虎!仁義なき戦い』って。関東の小学生怖いな。」

「僕たちの時、『祭り!』だけだったもんな。けど七不思議の花子さんとか廊下の鏡に映る女の子って、案外全国共通なんだね。」

「確かに。テンプレって感じはあるで、次は?好きな子について、とか?」

 すっかり、古い友人からの手紙のように楽しんでいる聡であり、結人も同じく次の話を楽しみにしているところがあった。

 奏人の見ている世界は大変なこともあるが、極彩色で飽きのない世界らしい。

「待って待って。好きな子ではないみたいだ。お母さんについて、らしい。」

 最期に、水城 奏人のお母さんについて書かれていた。

 曰く、毎年夏が近づくと元気がなくなるのだと言う。ぼんやりする事が多く、心配らしい。

奏人がそれに気づいたのはつい最近で、小学生としては他の事に忙しかったが気になるとずっと気になるのだと言う。

「夏って言ったら、結人の誕生日じゃん。」

「そうだね。続けるよ。『木内 結樹さん、貴方はボクのお兄さんですか?』・・・・・・だって。」

「結樹って、お前じゃなくてお前のお父さんの名前じゃん。ちょ、封筒。宛名!ちゃんと見ておけって!」

「苗字だけ見て終わってた。」

「そういう所!え、お父さんに小学生の弟がいたわけ?」

「それはない。おばあちゃんもおじいちゃんも、もう川渡ってしまってるから。葬式、出てくれたのに。」

「だよな?」

「たぶん、僕と間違えてるんじゃないかな。」

 結人はテレビのあるリビングとつながっている和室を見た。

小さなテーブルに位牌と写真が三人分置いてある。

二つは中学生の時に亡くなった祖父母のもの。そして一枚は結人が幼い頃に亡くなった父親のものである。

「結人のお母さんって、関東に居るんだったっけ。」

「うーん、たぶん。よく知らないけど。」

「・・・・・・今日はもう、寝る?」

「聡にしては良い提案。褒めてあげよう。」

「よし、寝ろ。朝ごはんは俺作るから。寝ろ。」

 子供をあやす様に立たされて、結人は二階の寝室に押し上げられた。結人のベッドの足元に聡用の布団が敷かれている。

最近干すのを怠っているマットレスは埃っぽかったが、掛け布団からは自分の家の匂いがする。

 結人が枕を直している間に聡は家中の戸締りをして、食器を片づけて電気を消す。後は友人を寝かしつけるだけと言わんばかりの態度だった。

 寝心地の悪そうな結人をともかく寝転がせて、部屋の電気を消す。暗い部屋が嫌いな結人のためにカーテンを少しだけ開けておいて、聡も布団へ潜り込んだ。

月明かりと近所の竹林から聞こえる乾いた音に眠気を誘われ、結人も眠りについた

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