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手紙が届いた 1

 木内 結人にとって、特別な季節は存在しなかった。

気温と天気の変化、服装の変化、クラス替え、長期休み、入学や卒業。

季節に添ったイベントをこなして、体調管理に気をつけるだけの日々だった。

 結人にとって春が印象深い季節になったのは、高校二年生の時だった。

進級して入学式の片付けを終えた日、自宅のポストに一通の手紙が入っていた。知らない名前が歪な文字で書かれていた。

住所は結人の家のもので間違いなかった。

 セールにかけられていたであろう封筒と便箋にはポインセチアのイラストがついている。

「水城 奏人さん。貴方はいったい誰ですか。」

 無機物が返事をしてくれるはずもなく、結人は家に帰ることにした。

外側だけ整えられた金木犀の生垣を越え、雑草に埋もれた飛び石を探しながら歩き、硝子窓のついた玄関にたどり着く。

鍵をあけ、定期配達されてくる食品の入った箱を二つ運び入れ、軋む扉を閉めた。

学校カバンは玄関先に放り出し、ジャケットとネクタイをハンガーにかける。

 玄関横の猫が描かれた暖簾をくぐり、冷蔵庫と床下収納に食品を詰めていく。まだ先週分が残っていたので、夕飯用に取り出しておいた。

「今日は豚肉とキャベツ炒めにしよう。でも、その前に。まずは腹ごしらえ。」

 まずやかんを火にかけて、ポットを容易する。ポットは茶葉が見えるようにガラス製だ。今日の茶葉はアールグレイを選んだ。

 猫のイラストのカップと花のイラストのカップをトレーの上におき、クッキーを山盛りにした深皿も用意する。

音を立てて沸いたお湯をポットとカップに入れたところで、玄関が酷い音を立てて開いた。

 同時に靴が落ちる音がして、暖簾が上げられた。

「結人、お邪魔します!」

 ワイシャツに学校指定のズボン姿で入ってきたのは、友人である尾山 聡であった。

教科書などは持っておらず小さめの私物らしきリュックだけ背負っている。

「さっきぶりだけど、どうぞ。今日のおやつは叔母さんの手作りクッキー。」

 聡は手を洗って、カップの中のお湯を捨てた。

「ここ一週間そればっかりだけどぜんぜん飽きない!」

 用意されたトレーを持ち上げて聡はリビングに行ってしまった。すぐにニュースの音が聞こえてきたので、結人も追いかけた。

深皿の中のクッキーは三分の一ほど消えていた。ナッツ系のクッキーは残っていたので味を見てみる。

「この前のロシアンクッキー、また作ってくれないかな。あとスコーン。」

「叔母さんにそれとなく言ってみるよ。」

 ニュースでは都市部の事故事件や新作映画の宣伝、今夜のバラエティの先見せをやっていた。

聡は好きな芸能人が居たらしく、食い入るように画面を見つめている。

それを放って置いて、赤みがかった飲み物をカップに注いでいく。待ってましたと聡は梅のカップを持ち上げた。

熱かったらしくいったん置くが、すぐに飲みきってしまった。

「今日はどうする?親父さんたち締め切りなんだって?」

「そう。親父は読み切りの締め切りが明日の夜で、母さんも窯の用意があるから急いでる。」

「じゃあ修羅場か。アシスタントさんたちも大変だ。」

「そー。だから泊めてくれ!」

 そう言いながらもクッキーを食べるのはやめないので、深皿は空になってしまった。

「良いけど。代わりに。」

「風呂掃除と明日の庭掃除でどう!雑草酷いだろ?」

「布団も干してほしい。」

「よし!新作持ってきたから読もうぜ!刷り立てほやほやの親父の新作!」

「・・・・・・米、多めに炊いとく。」

「やりい!いつもありがとうな!カップは俺が洗うから!」

 さっそく立ち上がり行動に移すかと思ったが、聡は中腰の姿勢で動きを止めた。

不思議に思っていると、器用に片手でトレーを持ったまま結人が忘れていた封筒をテーブルの上に置いた。

「ラブレター?」

「この文字でそれはないだろ。後で読むから、先に風呂とご飯。」

「りょうかーい。」


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