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陽菜と凪

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「えいっ!」


 声を上げながら、陽菜が杖を振るう。すると数発の魔力弾が放たれた。そして三つ首のドラゴンに当たる。大したダメージはないようだが、それでも注意は引いた。六つの目がギロリと彼女を睨む。


「……っ」


 身体を貫く、氷刃のような恐怖。だがそれに負けじと、陽菜はさらに数度杖を振るう。そしてその度に魔力弾を放った。


「「「ギョォォォォオオオオ!!」」」


 三つ首のドラゴンの注意が完全に陽菜のほうへ集まる。その隙を見逃さず、黒い服の少女は日本刀を振りかぶって三つ首の一つへ迫った。そしてその脳天へ刃を振り下ろす。ドラゴンは寸前で首を動かし致命傷を避けたが、しかし片目を大きく切り裂かれた。


「「「ギョォォォォオオオオ!?」」」


 三つ首のドラゴンが悲鳴を上げる。そして黒い服の少女を弾き飛ばした。さらに三つの口から幾つもの火炎弾を放って追撃する。少女は顔を歪め、身体の前で腕を交差させて衝撃に備えたが、そこへ陽菜が割り込んだ。


 杖を横にした状態で前に突き出す。イメージするのは半球状の障壁。自分と、後ろにいる少女を守るための障壁。そのイメージはたちまち具現化され、彼女の前に半透明の障壁が現われた。そして次の瞬間、火炎弾がそこへ殺到する。


「ぐっ……! だ、大丈夫!?」


「な、なんだ、お前は!? 何しに来た!?」


「助けに来たんだよ!」


「「「ギョォォォォオオオオ!!」」」


 少女たちの会話に三つ首のドラゴンが割り込む。彼女たちは左右に分かれて距離を取った。だが黒い服の少女の方は、またすぐに間合いを詰める。それを見て、陽菜も魔力弾を放つ。そんな彼女に、少女がこう叫ぶ。


「手を出すなっ! こんなヤツ、わたし一人で十分だ!」


「そんなわけないでしょ! さっきだって……」


「うるさいっ! お前の弱っちい豆鉄砲なんていらない!」


「まめ……!?」


 陽菜が絶句していると、三つ首のドラゴンがはばたいて彼女を吹き飛ばした。彼女は空中で一回転したが、すぐに体勢を立て直す。だが彼女の頬は思いっきり引きつっている。陽菜の怒りをすぐ隣りで感じ取り、ユーグは慌てて彼女を宥めた。


「ヒ、ヒナ? お、落ち着こうよ。般若みたいな顔になってるよ?」


「般若じゃないもんっ!」


 プンスカしながらそう叫び、陽菜は杖を構えた。彼女の身体から圧が放たれ、それが渦巻いて杖に集束していく。


「コレは……、豆鉄砲じゃない、ぞっ!」


 そう叫び、陽菜は魔力砲を放った。ビームかレーザーのように放たれたソレは、黒い服の少女を追い回していた三つ首のドラゴンに直撃。確実なダメージを負わせ、さらに動きを止めた。


「……っ、もらった!」


 黒い服の少女が一気に加速する。大きく振りかぶったその一撃は鋭く、三つ首のうちの一つを切り落とした。だがその攻撃に全力をつぎ込んだ少女は、次の瞬間に無防備になる。双頭になったドラゴンはその隙を見逃さない。


「「ギョォォォォオオオオ!!」」


 双頭の顎がそれぞれ、少女へブレスを叩きつける。だが間一髪、陽菜が間に合った。彼女はまた防御障壁を展開して少女を庇う。そして後ろを振り返り、叱るようにこう言った。


「ほらっ、やっぱりわたしがいないとダメじゃない!」


「う、うるさいっ! そんなことないっ!」


「あらあら。ごめんなさいねぇ、親切なお嬢さん。ウチの子、ツンデレなの」


 場違いなほどおっとりとした声が響く。出所は黒い服の少女の肩。そこにいたのは可愛らしいハムスター(?)だった。ちなみに頬袋が膨れている。陽菜が唖然としていると、少女はハムスターにこう言い返した。


「ツンデレじゃない!」


「良いじゃないの。可愛いわよ、ツンデレ。十五歳までは」


「イネス……。君も相変わらずだね……」


「あらユーグ。お久しぶりです。ヒマワリの種、いります?」


「いらないよ……。だから頬袋から出さなくて良いから」


「「ギョォォォォオオオオ!!」」


 二匹が漫才めいた会話をしていると、双頭のドラゴンが割り込む。二人の少女はまた左右に分かれて距離を取る。火炎弾を回避しながら飛ぶ陽菜に、ユーグがこう指示をだした。


「あっちはイネスが宥めてくれるから。ヒナは牽制に徹するんだ!」


 無言のまま頷き、陽菜は飛びながら杖を振るって魔力弾をばらまく。彼女はそうやって双頭のドラゴンの注意を引きつけた。そこへ黒い服の少女が斬り込む。少女はすれ違いざまにドラゴンの後ろ脚を切り裂いた。


 双頭のドラゴンは鋭い爪を振り回して黒い服の少女へ襲いかかる。陽菜が魔力弾を撃ち込んでも、ドラゴンはそれを無視した。どうやら少女のほうを明確な脅威と見なしたらしい。陽菜は舌打ちをしたが、それならと距離を取る。そしてもう一度魔力砲を放った。


「「ギョォォォォオオオオ!?」」


 魔力砲の直撃を受け、双頭のドラゴンは身体を仰け反らせる。その一瞬の硬直を見逃さず、黒い服の少女は攻勢に転じた。日本刀にありったけの力を込め、ドラゴンの胴体の真ん中へ突き出す。その一撃はドラゴンの心臓を貫いて背中へ抜ける。それが止めになった。


「ふう、終わったね」


 陽菜は黒い服の少女の隣に立ってそう声をかける。戦いが終わったからなのか、少女は落ち着いた様子だった。


「ああ。……その、ありがとう」


「いいよ。……ねえ、わたし、陽菜。あなたのお名前は?」


「……凪。凪だ」


「凪ちゃんかぁ。うん、よろしくね!」


 こうして少女たちは出会ったのだった。


イネス「ウチの子、ヤンデレなの。日本刀持ってるし」

凪「ふーひょーひがいだ!」

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