キャンプ先の妖精さん
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
夏期キャンプという行事がウチの学校で有った。がっつり登山させられ疲弊したあと、キャンプ場で班に分かれ、テントを立て、飯盒を炊きカレーを作る。
食べた後洗って、テントの中で班のメンバーと会話するけど、別にトランプとかするだけで、疲れからすぐに眠たくなった。
「お前ら早く寝ろよ」見回りの先生が入り口のターフから声を掛ける。僕は明かりを消す前に小便に行くことにした。
近くに小川があるけど、トイレが別にあって、常夜灯を頼りに足下に気をつけながらトイレで小便する。
帰り道、小川に光が見えた。蛍かな? 立ち止まって目を凝らす。
光はふらふらと近づいてきて、虫よりも大きく……人の姿をしていて、妖精?
目の前に止まると、
「やあ、少年。楽しんでるかい?」と鈴の音のような声で訊いてきた。
「妖精……さんだよね。ホントに居たんだ。ビックリした」
「ここで会う人によく言われるよ」妖精は蝶の羽をふわふわと羽ばたかせながら言った。
「みんな君がいるの知ってるの?」
「私が見える人にはね。でも、会う人会う人みんなビックリしてるから、口外してないじゃないのかな」
「みんな見えるわけじゃ無いんだ」それなら、言っても嘘つき呼ばわりされるだけだから言わないだろう。
「そだね。私の周りは不可視領域になるから人によっては神隠しとか言われるらしいよ」
「もしかして、時間の流れも変わるとか?」
「多少はね」
「で、妖精さんが僕に何の用なのさ」
「面白みのない少年だな。ちょっと話したかっただけ。夏に色んな人が来て、冬は雪で誰も来ないからね」
「ふーん、それは大変だね」
「そだ、出会ったからには、良いこと教えてあげるよ」
「何?」
「同じクラスのホナミちゃんは君のことが好き」
「え、なんでわかるの?」
「心が読めるのさ……嘘。カレー作っている時に、彼女が君の方チラチラ見ていてハーンと思ったんだ」
確かにホナミちゃんは気になる人だけど。そうなの。
「じゃあね、さよなら」
「あ、もう消えるの」
「あんまり話していると、君が帰れなくなるだろ」
そっか。
「バイバイ」
「さよなら、妖精さん」おぼろげな光はスッと消えてしまった。
テントに戻ったら、友達が、
「お前どこ行っていたんだよ。心配して先生呼んで探しに行こうと思っていたところだぞ。後からトイレに行った奴が居なかったって」と言った。
神隠しって言葉を思い出して、妖精さんはそこら辺考慮してくれたんだなと思った。
妖精さんの話をしようにも、多分、誰も信じないだろう。それがちょっと残念だった。 そして、帰って、2学期が始まったときにホナミちゃんに告白したら、
「ごめんなさい、他に好きな人が居るの」と返答された。
……妖精さん