偶然
初配信を終えた翌日、昼前に起きてそのまま男性管理局に電話をかけたところ、ずいぶんと遜った対応をされて少々面食らった。
昨日リスナーも言っていたように管理局側の不手際のように受け取られているのだろうと思われるが、俺としては自分のせいなのではという思いもあって若干居心地が悪い。
と言うのも、この世界が変わってしまった時に色々調べたが、前の世界での契約やら免許証やらは全てこの世界でも存在していた。
然るに、男性管理局のランク証とやらだけが無いのは、前の世界にそんなものが存在しなかったからなのではないかと考えられるのだ。
とは言え、そんな説明をするわけにもいかないので向こうの検査漏れということに便乗させてもらうのだが。
電話では、これから今日中に検査へ向かうということだったので軽くシャワーを浴びて着替えて待つことに。
ほどなくして、インターホンが鳴らされたのでモニターを確認して玄関へ向かう。
「どうも、高梨です。 早かったですね」
「あ… 私男性管理局で副局長を勤めております、桜木涼子と申します」
おぉ、まさか電話で話したお偉いさんが直々に来るとは思わなかった。
しかし、肩書きから想像していたよりもずいぶん若く見えるな…
佇まいから、おそらく20代後半くらいの年齢だと思われるがキッチリスーツを着こなしており、まさにキャリアウーマンといった印象を受ける。
なんて考えていると桜木さんは何だかとても話しづらそうに続けて口を開いた。
「えーと、あの、今言う話じゃないとは思うんですが…、完全に偶然なんですけど、このお部屋の隣に、私、今家族と住んでるんですよ…」
ファッ!?
まあ確かにいくら高級マンションの最上階に住んでるとはいえ、何もワンフロアまるまる我が家というわけでもなく、そりゃー他に住人はいるだろうと思っていたが、こんなタイミングでご近所さんが明らかになるとは…
「えぇ…? それはまた随分な偶然ですね…世間は狭いと言うかなんと言うか…」
むしろちょっと怖いまであるぞ。
「そうなんですよ… はじめに電話口でご住所をお伺いした際に私もびっくりして…、もしここで黙っていたら後々誤解を生みそうな気がしたので、変なタイミングで打ち明けてしまってすみません」
深々と頭を下げる桜木さんに、ちょっと怖いと思ってしまってごめんなさいと内心で謝罪する。
確かに後から近所で見かけたら追っかけて引越してきたのかと警戒していたかもしれない。
「いえいえ、…そうだったんですね。ご近所に頼りになりそうな方がいて安心しました」
特に頼る予定があるわけでもないが、まあ世辞というやつだ。
「頼りに… はい! 何か困ったことがあればいつでもご相談ください! 今度、娘もつれて改めて挨拶に伺いますね」
桜木さんには葵ちゃんという中学生の娘さんがいらっしゃるらしい。
そんな大きなお子さんがいるようには全く見えず、またもや驚かされた。
まさかの偶然からなんとなく打ち解けた気になり、雑談を交わしながら送迎車で検査センターへと向かった。