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ドライブ

 テレビ局での打ち合わせを終えて、いつも通り可奈さんの運転で帰路に着く。

 今日のように仕事が予定より少し早く済んだ時には、ドライブがてら遠回りな道を選んで会話を楽しむのもいつものことだ。


 彼女の人懐っこい態度は話しやすくて、こちらもあまり考えずに喋ることができるのは気楽な関係と言えるだろう。


 「やー今日もお疲れっしたー。せっかくドラマの仕事もひと段落したのに、まーたテレビの仕事受けちゃって良かったんスか?」


 「まぁドラマの期間もちょいちょい番宣でバラエティなんかには呼ばれたりしてたからね。あの時期と比べたら特番一本くらい全然マシだよ」


 「そーっスかね? なかなかハードな企画だった気がするっスけど……」


 今回提案された企画は完全に俺にフィーチャーした特番で、確かに俺に取ってハードだと言えるだろう。

 題して「高梨春樹をあらゆる場所に放り込んでみたドッキリSP」などというふざけた企画で、例えば俺のファンを公言するタレントの楽屋に壁をぶち破ってサプライズ登場してみたり、学校のイベント行事に現れてみたりと、2時間特番ではあるが撮影自体は当たり前に数日はかかるであろう重さだ。


 まぁでもドッキリの仕掛け人というのも経験として面白そうだと思ったし、それにターゲット候補に美玖の名前を見つけた時にはむしろこちらから演出を提案したので、より攻めた内容になる予定だ。


 「みっくちゃんとの関係……テレビで公表しちゃって本当に大丈夫なんスかね?」


 「うーん、わかんないけど、こういうのは変に誤魔化したりするよりも堂々と公表した方がいいんじゃないかな……たぶん」


 美玖へのドッキリでは最後に二人の関係をテレビで明かすつもりで、いわゆるスタジオへの逆ドッキリも含んでいる。

 これまで見てきた芸能人なんかの結婚報道なんかでも、本人が公表した場合は祝福すべきという同調圧力のような空気が出来上がることが多かったように思う。

 もちろんそうでない場合もあるし、どちらにせよ批判的な人間は少なからず出るものだというのも分かるが、そこは見せ方しだいで多少マシにはできるだろう。


 まぁそもそも割とネットで既にだいぶ噂されてるから普通に受け入れられそうな気はしている。


 「そういうもんっスかねー、まぁ春樹くんがいいならいいんスけど。……それよりも、あたしの方はいつまで放置プレイする気なんスか?」


 「んー? なんのことかなー?」


 可奈さんをデートに誘うと言ってから、ずいぶんと待たせているのは分かっているが、とりあえず(とぼ)けてみる。


 「デートっスよデート! まさか芽衣ちゃんにまで先を越されるなんて……」


 わざとらしく泣き真似をする可奈さん。危ないから運転に集中してほしい。


 「こうしてしょっちゅうドライブデートしてるじゃないですか」


 「──えっ!? これデートだったんスか?」


 まぁテキトーに言ってるだけだが、せっかくなのでスマホを取り出してデートの定義を調べてみる。


 「えーと、辞書によるとデートとは男女、もしくは同性の場合でも、恋愛的な展開を期待して二人で会うこと。仮に片方だけが恋愛感情を持っている場合はデートとは呼ばないとされる…らしいよ。結構厳しい定義だねこれ」


 「つまり……どういうコトっスか?」


 「うーん、俺は二人っきりのドライブで恋愛的な展開を期待してたんだけど、可奈さんがそうじゃないならデートじゃないんじゃない?」


 「──なっ、え!? 期待してたんスか? ……って絶対ウソっスよねそれ!」


 「はぁ……デートだと思ってたのは俺だけだったのか、悲しいなあ」


 (うつむ)いて見せれば慌てだす可奈さん。彼女をからかうのは反応が良くて面白いが、さすがにかわいそうになってきたので本題にもどす。


 「冗談は置いといて、デートするなら可奈さんはどこか行きたいところとかあるの?」


 「えっ、いいんスか!? じゃあ、えーと……す、水族館とか、どうっスかね」


 おぉ、なんというか意外にもベタなデートスポットを挙げてくるとは……


 「水族館ねー……あっ、あれ行ってみたいかも、深海魚水族館とか」


 「えぇ〜、深海魚はキモくないっスか?」


 なんと失礼な。深海魚の魅力が分からないとは……


 元の世界的に考えると、宇宙や深海などの未知に対する憧れを、男のロマンだなんて表現することもあったが、この世界でそれが必ずしも女のロマンとして通用するわけではない。

 貞操観念が逆転しているからと言って、その他の価値観や考え方までもがすっかり逆転しているというわけではないし、そもそもその辺りの価値観や好みは人による部分が大きい。


 残念ながら可奈さんはあまり深海に興味は無いようで少しだけガッカリしてしまう。


 「あっ、あー……でもあんまりじっくり見たことないから行ってみたいような気がしてきたっス」


 気を遣われているのは分かるが、まぁあまり行き先で長く揉めることもないだろう。それに、多少遠出になるのだから他にも行けるところを考えておけば楽しめないということもないはずだ。


 「じゃあ、次の休みに行こうか。楽しみだね」


 「いえーい、やったぁぁあああ…っス」


 喜びを表現するかのようにアクセルを踏み込んでスピードを増していく。


 「安全運転でよろしくね……」


 「さーせんっス……」


 こうして素直に喜んでくれるのは嬉しいけど、もう少しだけ落ち着いてくれればこちらとしても言うことはないんだが……

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