葵ちゃんと約束
……この間のセツナとの一件はさすがに少々反省するところがあった。
あれだけ順序を大切にしたいなどと宣っていた俺がまさか目先の欲に釣られて、なし崩し的に行為に及んでしまうなんて。
完全に言い訳ではあるが、昼間の過酷な訓練で生存本能が刺激されていて、かつ互いの体をマッサージするなんていうちょっぴりえっちなイベントの後では仕方ないだろう。聖人だってそうするに違いない。
結果的にはちゃんと言葉にしてケジメは付けたし、元々セツナとはいずれと考えていたのだから大きな問題ではないが、今後いわゆるハニートラップなんかには引っかからないように気をつける必要があるだろう。
まぁ、この世界ではむしろ俺がハニートラップを仕掛ける側なのかもしれないが……
「春樹くん、何か考えごと?」
ソファに腰掛ける俺の膝の上に座りながら、上を向いた翔子ちゃんが問いかけてくる。
以前に自分の方が年上だとか言っていたのはなんだったのかと言うくらいに甘えてきている。
翔子ちゃんは付き合い始めてから少しだけ変わったというべきか、遠慮なく甘えてくるようになった。なんというか、側から見るとバカップルかよってくらいには。
「なんでもないよ」
そう言って頭を撫でてあげれば嬉しそうに目を細めて前を向き直す翔子ちゃんは小動物みたいでかわいい。
しかし、こうしてベタベタしていると伯亜は対抗心が刺激されるのか、彼女も一層俺に身を寄せてくっついてくる。
「なんだかこうしてると、翔子はわたしとハルくんの子供みたいですねぇ……えへへ」
ソファに俺と並んで座る伯亜が翔子ちゃんに対して微妙にマウントを取っているが、バカップルモードの彼女には効かない。
「子供〜? じゃあパパ、ボクとちゅーして?」
「はいはい…」
こちらを見上げる翔子ちゃんに、軽く音を立ててキスをする。バカップルモードの彼女に取っては伯亜の煽りなどシチュエーションプレイのスパイスに過ぎないのだ。強すぎる。
…ただしパパ呼びはさすがに倒錯的すぎる気がするからちょっと勘弁してほしい。
ぐぬぬと悔しがる伯亜にも肩を抱いてキスをすれば、こちらも即座に上機嫌になる。
一方で涼子さんとセツナは婚約関係になってもこれまでとそう変わっていない。
涼子さんに関しては娘の手前というのもあるだろうが、まあ最年長ということで遠慮してるのかもしれない。
セツナは…どうなんだろう? 元々気配を隠すのも得意で口数も少なめだった彼女だが、比較的姿を見せている時間が増えた気がしなくもない。
こんな様子の我が家であるが、目下唯一の問題というか懸念点は……葵ちゃんだ。
先日涼子さんからも背中を押された上に、何故か最近ではセツナからもせっつかれているが、我が家を溜まり場にしているメンツの中で、仕事関係を除けば唯一俺と婚約関係になっていない少女。
まだ中学生である彼女と関係を進めるのは、どうしても俺の倫理観が邪魔をする。いや、ハーレム築いておいて何を今さらと言うのは置いといて…
この世界においては、彼女と交際することが倫理的に問題視されるわけでもなければ、来年15歳になれば法的にも結婚可能ということになるので本来障害は無い……まぁ結局は俺の心しだいというわけだ。
では倫理観を一旦投げ捨てて彼女のことを考えてみるとどうだろうか。
基本的には真面目で、素直で、まっすぐなスポーツ少女。年相応と言っていいのかは分からないが、えっちなことにも興味があるようで、俺のシャワールームに突貫をかけて来たことは忘れようにも忘れられない。
それから最近はオシャレに目覚め始めたのか、うちに遊びにくる時も髪型や服装を色々変えてみたりして、俺に感想を聞いてくるいじらしさも垣間見える。
そして…今日のように俺が婚約者たちとイチャイチャしている時は少し離れて座り寂しそうに見ている。
アカン、考えれば考えるほど思春期の少女に残酷なことをしているような気がする。ここまで彼女と関わって好意を持たれておきながら、倫理感がどうとか言って誤魔化すのは良くないかもしれない。
膝の上の翔子ちゃんを持ち上げて伯亜の上に降ろす。伯亜から「ぐえっ」と聞こえて来たが翔子ちゃんはそんなに重くないので無視する。
「葵ちゃん、もっとこっちにおいで」
「……いいの?」
俺の膝の上にちょこんと腰を下ろす葵ちゃん。
……いや、確かに翔子ちゃんを膝の上からどかしたけれども、それは話しやすくするためであって、葵ちゃんは隣に来るもんだと思ったんだが。
とはいえ特に困るわけではないのでそのまま話すことにする。
「あのさ、今度葵ちゃんが学校休みの日、一緒に遊ばない?」
そう告げると、パッと顔を輝かせる葵ちゃん。
「いいの!? ……お兄ちゃんはあたしみたいな子供は相手にしてくれないのかと思ったよ」
うっ……図星というわけでは無いが、年齢を理由に躊躇っていたのは事実で少しばつが悪い。
そんなわけないだろうと笑って誤魔化して、何かしたいことがあるか尋ねてみるが、すぐには思い浮かばないようで悩み込んでしまう。
「うーん……あたしはお兄ちゃんと一緒だったらなんでも楽しいと思うんだけど……あっ、そうだ! たまにはお兄ちゃんにウチの方に来てもらうのはどうかな?」
確かに今まで桜木家にお邪魔したことはなかったことに気がついた。それに家で遊ぶなら涼子さんもいることだし、変なことは起きないだろうと考えて了承する。
「やったぁ! じゃあ楽しみにしてるね、早く週末にならないかなぁ」
笑顔で喜ぶ葵ちゃんが、俺の膝の上で上機嫌に足を揺らす。
……今までの人生では自分のことをロリコンだと思ったことは無かったが、こうして葵ちゃんと触れ合っていると自信が無くなっていくのだから、俺もなかなかどうして罪深い。
そんなことを考えつつも、自分も週末が楽しみだなと、そう思った。




