初配信①
さて、今日はいよいよ初配信だ。
事前にSNSで告知したのは大正解だったようで、既に待機画面には40万人を超えるリスナーがいるようだ。
「…いや多すぎだろ」
SNSでエロ釣りして視聴者を集める作戦は、予想以上の結果を齎していた。
正直この世界を舐めていたかもしれない。
俺のイケメンフェイスとボディなら数千人、もしかしたら万超えも狙えるかな〜なんて考えていたが余りにも見積もりが甘かったようだ。
たった一日でSNSのフォロワー数も100万を軽々と超えて今だに増え続けている。
「緊張してきた…」
いくらなんでもこんな大人数の前で話したことなどなく、さすがに二の足を踏んでしまう。
しかし、緊張とは裏腹に沸る気持ちがあるのもまた事実。
一番大きいのは、期待に応えたいという気持ち。
他人からの期待と言うものは、プレッシャーという側面もあるが、自己肯定感も刺激してくれる。
期待され、それに応えるというのは、この上なく自尊心が満たされるものなのだ。
「…っし、覚悟を決めるか」
カメラとマイクの最終チェックをして、配信開始のボタンを押した。
◇◇◇
【初配信】貞操逆転超絶イケメン天才筋肉配信者ハルです【男性】
*コメント*
:待機
:待機
:タイトル草
:イケメンってマ???
:ハル様結婚して
:期待
:まーた金目当てのカス男配信者か?
:このために残業ぶっちして帰ってきたぞ
:はやくはやくはやくはやく
:好き
:待機
:あ〜もう濡れてきた
:はじまた
「どうもー、貞操逆転超絶イケメン天才筋肉配信者のハルでーす」
*コメント*
:きちゃあああああああああああ
:なんて?
:なんて?
:開幕詠唱長いんよ
:うわあああああああ
:あ゛…しゅき…
:好き
:かっっっこよ!!!!!
:ゔっ…
:ぎゃあああフェイクじゃなかったああああああ
:マジでこんな漫画みたいなイケメンが実在したのか…
:声しゅき
:もう目と耳が孕んだ
怒涛の勢いでコメントが流れていく。全部表示していたらとても目で追いきれないのでAIによるコメントの絞り込み機能をONにしておく。
「コメントいっぱいありがと。正直こんな集まると思ってなかったからびっくりだわ」
*コメント*
:判断が遅い
:いやそらこうなるよ
:ヒトメス舐めすぎか?
:わからせが必要ですねえ(ニチャア
:好き
:今日は脱がないの?
「いや脱がねーよ。まるで人を露出趣味みたいに言うな」
*コメント*
:違うの?
:呆れ顔かわいい
:胸隠すのエチチチチ
:その身体で清楚は無理でしょ
:好き
:頼む前から脱いでたのは誰だよw
:男の子がコメント拾ってくれるの嬉しい
:えー脱いでよ
今日はSNSでやったようなエロ釣りをするつもりは無いから話を軌道修正する。
「まー初配信らしく最初は自己紹介かな? 俺がイケメンで天才で筋肉なのは見てわかる通りなんだけど、『貞操逆転って何?』みたいな質問いっぱい来てたね」
*コメント*
:それな
:草
:ナルシストで草
:自己評価が高い○
:自分を客観視できて偉い
:キミはイケメンで天才で筋肉のゲッター
:好き
:貞操が逆転ってビッチってコト?
:おいやめろ
「ビッチ…っていうのはある意味正解とも言えるしそうでないとも言えるかな。俺にとっては俺こそが正常なわけだから」
それからつらつらと貞操逆転について説明する。
「想像してみて欲しい ある日、君たちが目覚めたら世界が様変わりしていたと…
そこは…男性の方が多く、女性は圧倒的に数が少ない。
その上殆どの男性は性欲を持て余しており、頭の中はエッチなことでいっぱい。
対して女性はあなた以外みんな性に消極的で…
そんな世界に、あなたが迷いこんだとしたら?」
*コメント*
:エッッッッッッッッッッッッ
:天才か? 天才だったわ…
:なにその無敵のシチュ
:語り口が催眠のそれなんだわ
:好き
:軽率に新しいエロ概念をお作りになるな
:エッッッッッッッ
:天才の性癖じゃん
:妄想ぢから100点
:そんな世界にきたらそりゃもうヤリまくりよ
「まー俺の場合その逆なんだけどな。男だらけの世界からこっちの女だらけの世界にやってきたってわけよ」
実際は普通に男女比1:1の世界からきたわけだけど、こっちの説明の方が分かりやすいだろうと嘘をついた。
*コメント*
:設定ぢから100点
:本当にそんな世界があるなら連れてってくださいよ
:ピュアな処女もよう湧いとる
:結局どういうこと? わからん
:つまりビッチってこと?
:きみエロ漫画家の素質あるよ
:イケメンでエロい体でメスに興味深々ってこと?
:なにそれ理想的すぎか
:好き
:強すぎる…勝てない…
信じてもらおうとはハナから考えていない。
そういう設定、そういうスタンスだと理解してもらうことが重要だ。
実際俺にとっては世界が変わったのは事実で、この世界の男性との価値観の違いは到底隠せないし隠すつもりもない。
俺の発言や態度に、この世界の一般男性と比べて違和感を持ったとしても、こういう設定で活動してるってことで覆い隠すことができる。
うーん、我ながら天才。