表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/75

社長として


 「芽衣さん、今日はちゃんと定時で上がれそう?」


 彼女がここで働き出してからそれなりに経ち、うちの会社から給与も支払われているが、かつての手取り12万ネキの戦闘力(おちんぎん)は数倍に跳ね上がっている。

 それに加えて派手に示談金を取り返していたこともあり生活レベルは大きく改善されているはず。


 なので以前にも言ったように美味しいものでも食べに行こうかと話していたのだ。


 最初は会社のメンバー全員で食事に行こうかとも考えはしたが、これまで頑張ってきた彼女へのご褒美という意味も含めて2人での食事だ。

 自分と2人での食事をご褒美扱いだなんて、自惚れが過ぎると思われるかもしれないが、喜んでくれているのは事実なので深く考えてはいけない。


 芽衣さんと2人きりで食事に行くことについては、主に伯亜から反対というか…いじけてしまった一幕があったのだが、次のデートは伯亜を誘うと約束して機嫌を直してもらった。


 そんなわけで芽衣さんに定時で上がれるか尋ねたのだが…


 「はい! 今日は(・・・)定時で上がります」


 今日は……。


 毎日定時で上がってもらいたいものだが、ブラック企業勤めの後遺症というのだろうか、最初の頃は全く定時で帰ろうとせず、嬉々として残業していた。


 どうしても当日中に終わらせる必要がある仕事ではないとはいえ、仕事が残っているならと喜んでやってくれている彼女には言いづらかったが、残業しなくても大丈夫なのだと少しずつ教育している。


 まぁこれまでブラック労働に染められてしまった彼女のリハビリというやつだ。


 ちなみに今日行くのは美味しいものと言えばの代表格、焼肉。うちのマンション自体が都心の真っ只中にあるので少し歩けば個室のある高級焼肉店もあって便利だ。


 「じゃあ今日もお疲れ様、かんぱーい」


 キンッとグラスを打ち鳴らしてビールを煽る。

 お肉はコースで頼んであるので持ってきてもらった順に適当に焼いていく。


 「仕事はどう? もう慣れたかな?」


 「はい! 今はもう毎日が充実してて…もっと働きたいくらいです!」


 にこにこと上機嫌に答える芽衣さん。

 うーん……仕事中毒(ワーカーホリック)かな?


 「休みの日とかは何してるの?」


 「休みですか? うーん、ちょっと恥ずかしいんですけど……最近は時間が取れるようになったので、学生時代の趣味をまた触ってて──」


 そう言いながらスマホで撮った写真を見せてくれる。


 「おぉ! すごいね、こういうのなんだっけ……手芸っていうのかな?」


 「そうです! 私の場合は元々は羊毛フェルトから始めたんですけど、それが楽しくて刺繍とか編み物とかにも手を出したりなんかして、手芸全般が趣味になっちゃった感じです」


 手渡されたスマホの写真をスライドしていくと確かに色々作っているようで、羊毛フェルトで作った動物やマスコット、毛糸の編みぐるみ、本格的なセーターやマフラーなんかも出てくる。


 「いや本当すごいね、こういう仕事は目指さなかったの?」


 「うーん…趣味だから楽しめてると思うので、仕事にするのはちょっとどうかなと思いまして……」


 まあ確かにそういう考え方は、よく聞く話ではあるよなと思いながらもスマホの写真をスライドして次々と作品を見ていく。


 「ん? これは……」


 「──あっ!」


 瞬間、パッとスマホを奪われた。


 「み、見ちゃいました…?」


 まあ見たけど、一瞬ちょっと理解できなかったというか…


 「今のって、俺だよね?」


 等身大の俺のぬいぐるみ(?)を抱きながら自撮りしている芽衣さんの写真だったと思う。


 「ごっ、ごめんなさい! 引きますよね……。最初はハル様の編みぐるみで満足してたんですが、段々エスカレートしちゃって……」


 ──そんなエスカレートの仕方ある?


 「…いや、普通にすごいと思うよ! もし今後俺のグッズ展開とかするなら芽衣さんに主導してもらってもいいかもね!」


 引くまではいってない、マジかよくらいは思ったけど、どちらかと言えば驚きが大きい。フォローも兼ねての肯定だが実際その技術力には舌を巻いた。

 かわいらしくデフォルメされながらも一目で俺だと分かるデザインセンスは素直に凄いと思う。


 しかし、等身大の人形を作ってまでツーショットが撮りたかったのかな?


 「まあでもせっかくだし、ぬいぐるみじゃなくてさ、本人とツーショット撮っておこうよ」


 そう言ってもう一度スマホを借りると、さっきの写真と同じ構図になるように芽衣さんに腕を回してもらう。


 「はい、じゃあ撮るよー」


 「え? えっ、え?」


 ──パシャ


 おー、割と上手く再現できたんじゃないかな?


 スマホを返して写真を見せると、少し遅れて理解したようで俄かに笑顔になる。


 「わぁ…ありがとうございます! これで今よりももっとお仕事頑張れそうです!」


 いやどちらかと言えば仕事はもう少し力抜いてくれていいんだが…。


 そうこうしてるうちに、コースの焼肉も食べ終わりだらだらと雑談を続けて解散した。


 んー、たまにはこういう風に従業員のモチベを上げるってのも社長の役目ってやつかねえ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あぁ、ホントにワーカーホリックさんは楽しくてやってるなら良いんですが納期に追われてやってる人たちはみていられない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ