橘花翔子─デートのお誘い
春樹さんがドラマの撮影で忙しくなり、ここ1ヶ月ほどはたまにしか会うことができなくて、ボクは悶々としていた。
護衛のセツナさんや、すぐ隣に住んでる涼子さんや葵ちゃん、一緒に仕事をしている伯亜さん達はボクよりも会えてると思うと、仕方がないとはいえやっぱり寂しい。
そんな時に、少しだけ撮影が落ち着いたと連絡を受けて春樹さんの部屋を訪れてみると、既にボク以外のみんなも集まっていて、しばらくドラマの話で盛り上がった。
みんなで改めて原作コミックスを広げて、どのシーンが実写で見たいだとか、自分が春樹さんの相手役をやりたかったとか。
そんな話がひと段落して落ち着いた頃、なにやら言いづらそうな雰囲気で春樹さんが切り出した。
「あー…あのさ、翔子ちゃん、近いうちに二人で遊びに行きたいと思ってるんだけど、どうかな?」
「…ふぇ!? ぼ、ボクと二人で? それって──」
「うん、まぁ、デートのお誘いってことになるんだけど…」
──春樹さんからデートに誘われた。
全く想定していなかった状況に、最初は何かの聞き間違いかと思ったが何度聞き返しても答えは同じ。
「みんなで集まるのも楽しいけど、たまには二人きりで遊んでみたいな」
なんて微笑む春樹さんに、ボクは舞い上がった。
というか、みんながいる前でボクと二人きりでデートをしたいだなんて、もうこれは一足先に結婚か?
…と思ったのだが、それぞれみんなと個別に交友を深めたいという意図だそうだ。
つまり、デートをするのはボクだけじゃなくて、たまたま最初に声をかけてくれたのがボクだったということ。
そのことに少なからず嫉妬心が無いわけではない。
もちろん国から重婚を命じられている春樹さんに、ボク以外の女の子と親しくしないでだなんて狭量なことを言うつもりはない。なにより、みんなのコトも好きだし友達だと思ってる。
でもボクだって春樹さんの一番になりたいとは思っている。
だから一番最初のデートに誘われたのがボクだというのは素直に嬉しいことだ。
きっと優しい春樹さんのことだから、最近一番会えていなかったボクに気を遣ってくれたのだろうとは思うけど…それでも嬉しいものは嬉しい。
どこに行こっかと、身を寄せながら聞いてくる春樹さんにまたドキドキさせられて、恥ずかしくなって助けを求めるように周りを見ると、みんなの嫉妬の視線が突き刺さる。
──うっ…これは優越感…良くない感情だ。
みんなにごめんと心の中で詫びて、春樹さんの問いについて考えるがなかなか言葉が出ない。
デートなんてしたことないし、突然のことでなかなか頭が回らない。
ふと思い出したのは、配信仲間がリア友数人で行ったとSNSにアップしていたファンシーなテーマパーク。
その時はリアルで遊ぶような友達のいないボクには一生縁が無いなと思っていたけど…
「こことかどうかな?」
春樹さんがスマホを見せてきたので覗き込んでみると、まさに今考えていたテーマパークだった。
「わっ! ボクも今おんなじところ考えてた!」
なんだか心が通じ合ったような気がして、幸せな気持ちが押し寄せてくる。
今まで生きてきて、こんなにも胸が高鳴るような気持ちを教えてくれるのは、いつも春樹さんだけだ。
──ボクも同じように春樹さんを幸せにしたい。
このデートで…ボクは春樹さんに気持ちを伝えよう。
心の中でそう覚悟を決めて、日程を取り付けてデートの約束とした。
今日は春樹さんちに泊まっていく話になってるけど、きっとみんな寝かせてくれなさそうだな…




