葵ちゃんとバスケ
土曜日、俺は涼子さんの運転で葵ちゃんとセツナと共に公営のスポーツセンターとやらに来ていた。
以前葵ちゃんと約束したバスケをするためだ。
本来ならコート一面だけ借りるところを、少し高くついたがセンターごと2時間貸切にした。一応有名になってしまったし、葵ちゃんも周りの目とか気になるだろうからね。
起業したばかりで忙しくないのかと言えば、まあそうでもない。今は雨宮さんと滝沢さんの二人が伯亜の助けも借りながら今まで届いたDMやらを整理してくれている。
社長の俺は今はまだ遊んでていいのだ。
…仕事が用意されたらちゃんとやるから許してくれ。
「じゃあいったん一人でやってみるから、ちょっとボール借りるね」
バスケ自体はかなり久々だし、ウォーミングアップがてら軽くドリブルしながら動いてみる。
ちなみに格好はしっかりバスケのユニフォームにバッシュも履いている。
俺は形から入るタイプなのだ。
案外昔やった杵柄とでも言うのかスムーズに動ける。
というかシンプルに肉体性能が高いな…
普通に動けそうだったので、そのままドリブル、ターンからのダンクを決める。
─ガッコォン!
バスケ経験はあれどもダンクは初めて決めた。
ちょー気持ちいいわコレ。
「お兄ちゃんすっごーい! あたし生のダンク初めて見た!」
葵ちゃんもテンションが上がったようで駆け寄ってくる。
ははは、お兄ちゃんは凄かろう。
ちなみに今日の涼子さんは撮影係。
撮った映像は俺のソロプレーを中心にして、葵ちゃんの顔や声が入らないように加工した上でyourtubeに投稿するつもりだ。
未加工の動画も二人の思い出になるということで、張り切って撮影してくれている。
それからしばらく葵ちゃんと1on1で遊んでみたが、バスケというのは攻守の距離がかなり近いスポーツだ。
ディフェンスは密着と言っても差し支えないほどピッタリと張り付く必要があり、手を大きく広げて胸で相手の進行を妨げるように立ち塞がる。
軽い接触程度ならほぼ常にあるような状態で、ときおりふにゃっと当たる柔らかい感触に惑わされてついボールを奪われてしまうこともあった。
一方の葵ちゃんも、触れるたびに「んっ…」と艶めかしい声を上げ、はぁはぁと息切れしているのはどうにも疲れからだけではなさそうだった。
妹のように思っていた葵ちゃんだったが、中学生にしては高めな身長と、女を感じさせる雰囲気に俺もついドキドキしてしまう。
試合結果はといえば葵ちゃんも現役ということで度々得点を許してしまいはするものの、さすがに身長差もあり最終的には勝利した。
「うぁー、お兄ちゃん強いよー」
汗だくで息を切らせた葵ちゃんが大の字に寝転びながら悔しがる。
「いや葵ちゃんも充分うまいよ、さっきのスリーポイントなんてびっくりしたし、俺も結構疲れちゃった」
息切れはそこまでしていなかったが、汗は結構かいたため、寝転ぶ葵ちゃんを助け起こして一緒にセンターに備え付けのシャワールームまで歩いた。
…あれ?
シャワールームの入り口は一つで男女の区別があるようには見えない。
「葵ちゃん、シャワールームって…」
聞いてみれば、スポーツセンターを男性が使うことは想定していないのではないかということだった。
「あの、で、でも中のシャワー浴びるところは確か個室に分かれてたはずだから、だ…大丈夫!」
促されるままに入ってみると、脱衣所の奥のシャワールームは十人程度が一緒に入れるようになっており、シャワー毎にパーテーションと、上下の空いたウェスタンドアのようなものが付いていた。
これならまぁ…大丈夫なのか?
葵ちゃんを見るとそわそわしながらこちらを伺っている。
「私は入り口で見張りをしていますね」
セツナに視線を動かしてみても彼女は特に物申すことは無いようだ。
護衛的には、俺が女の子とシャワールーム入るのはオッケーなん?
などと考えているとなにやらセツナが葵ちゃんに耳打ちしたかと思うと、顔を耳まで赤く染めた葵ちゃんに、グッと親指を立ててまた入り口に戻っていきドアを閉めた。
…いやむしろ何かしらの後押ししてるじゃねーか。
まぁ誰も反対してないならいいのかと、腰にタオルのスタイルで服を脱いでさっさとシャワーへ向かう。
こういうのは後からの方が入りづらいからな。
ぬるめのお湯で汗を流していると、背後からカチャリという音がした。
「あっ、あの! お背中流します!」
振り向くと、顔を真っ赤に染めた葵ちゃんが、腰にタオルを巻いたスタイルで立っていた。
いやいや、いかんでしょ。
っていうか腰にタオルは、それこの世界の女子的にはスタンダードなの?
シャワー用の個室、十箇所はあったはずだけど何で同じとこ入ってきちゃってんの?
もしかしてさっきのセツナの耳打ちはこういうことだったん?
というかいろいろ見え──
さすがに想定外の事態に「お、おぅ…」とだけ返事をしたのを許可と受け取ったのか、備えつけのボディソープを手につけて、そのままペタペタと俺の背中を素手で洗い始めた。
今更追い返すこともできず、ひたすら無言で耐え忍ぶ。
─中学生相手に勃ったらゴミだ。中学生相手に…
自己暗示をかけ続けたが、背中に触れる柔らかく小さな手の感触と吐息に奮闘虚しく反応してしまうものがあった。
「も、もう大丈夫だから! ありがとね」
気づかれてはいない…はず。たぶん、おそらく、きっと。
急いで追い返し、身体を流した俺は慌てて脱衣所に飛び出して服を着る。
「なんというか、試合より疲れたな…」
脱衣所を出た俺は無言でセツナの頭をしばこうとしたが、普通にスッと避けられてしまった。
ぐぬぬ…




