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桜木涼子─ガールズトーク

 「──春樹さんについて、話をしましょう」


 そう話す翔子さんは真剣な面持ちだった。


 彼女が言うには、ここにいる者は誰しも春樹さんに対してそれぞれ特別な想いを抱いているはず。

 それをここで話して明らかにした上で、情報を共有して共同戦線を張ろうと言うことだった。


 「春樹さんの結婚の席は10人、ボクたちで奪い合う必要はありません。協力することこそが近道であり、それに春樹さんのためにもなります」


 確かにそう言われると協力するのは良案とも思えるが、春樹さんのためと言うのはどういうことだろうか?

 私が疑問を提示すると、翔子さんは話しづらそうにしつつも話してくれる。


 「本来は、ボクが勝手に話してはならないことです。…ですが、いま春樹さんの近くにいる皆さんは知っておくべきことだと思います。デリケートな内容なので春樹さん本人に話してもらうことは難しいでしょうから」


 そう前置きして翔子さんは続ける。


 「…春樹さんは、虐待を受けていたことがあると言っていました」


 瞬間、セツナさんから殺気が膨れ上がったが、一瞬で抑え込んだのか強く拳を握り込みながらも平静を保っている。


 続けて聞かされる翔子さんの話。


 性的虐待を受けていたことによって、彼の性格、人間性、肉体的な特徴などが、いささか普通ではなくなっているという話には確かに筋が通っている。

 春樹さんは、虐待を受けていたとだけ話したそうで、それ以降は翔子さんの推測に過ぎない。それでも推測の精度はかなり高いように思える。


 突然の重たい話に皆狼狽し、やり切れない気持ちを抱える。葵と伯亜さんは話の途中で泣き出してしまった。無理もないだろう。私だって耐えているだけだ。


 「涼子さんは、管理局として何か知っていませんか?」


 「…本来は、職務上知り得た情報を安易に話すことはできない。でも、そういう事情なら…分からないということだけは話せるわ。…彼の戸籍からは、なぜかその出生をたどることはできなかったのよ」


 もし絶縁していたとしても戸籍から親の記録が抹消されることはない。それにも関わらず彼の戸籍には両親の記載がなかった。

 なんの理由も記録も残されておらず、ただただ記載がない。検査漏れ以上に有り得ないことだった。


 近いうちに本人に確認しようと思っていたのだが、虐待なんてデリケートな話を聞いてしまうと、おいそれと聞くのは躊躇われてしまう。

 まず今以上に彼との信頼関係を築くべきだろう。


 管理局に勤める私でも彼の過去が今はまだ分からないと告げると、ますます雰囲気が重くなってしまったが、翔子さんはそうではないと話す。


 「まあボクとしては、過去をどうしても明らかにしたいわけではありません。何故これを話したのか…それは、義憤を覚えて彼を虐待した親を裁くためでも無ければ、今ここでボク達が悲観に暮れるためでもありません。春樹さんの支えになれるよう、ボク達が彼に寄り添えるようにという考えで話しました」


 いかにも少女といった出で立ちからは想像もできないほどに翔子さんは大人な考えをしていて、私なんかよりもずっとしっかりしていると感じた。


 「…そうね。翔子さんには彼の秘密を話すなんて、辛い役目をさせてしまったわね…。そのあなたの気持ちは決して無駄にしないと誓うわ」


 周りを見渡せば、皆それぞれ決意を確かにした顔を見せている。

 そうだ、もし彼がつらい過去を背負っているならばそんなもの私たちが吹き飛ばしてしまえばいい。


 「さて、彼のためと言うのも分かってもらえたところで、協力関係のためにも改めてみんなの気持ちを聞かせてくださいね。ボクはもちろん春樹さんのことが大好きです。結婚したいです。子供も欲しいです。ずっとずっと一緒にいて、ボクを女の子として愛してほしいです」


 翔子さんが澱みなく春樹さんへの愛を語る。

 淡々と話しているがこっちが赤面しそうなくらいにその愛は深いようだった。


 「わ、わたしは、もうハルくんと両想いです! 結婚して、ま、毎日えっちなことしたいです!」


 伯亜さん、天才のはずなのに凄くアホっぽい…


 両想いとはどういうことだと聞いてみれば、酔った春樹さんから好きだと言われたと…。

 正直信じられないが、本人がそう言っているのだから否定しても水掛け論にしかならないだろう。

 しかし自称両想いはともかく、毎日えっちなことというのは、性的虐待を受けていた可能性が高いと推測された彼に寄り添えているのかと疑問を持ってみれば、ドヤ顔と共に力強い答えが返ってきた。


 だからこそ、過去の嫌な思い出を自分の体で素敵な思い出に塗りつぶしてあげるのだと。


 いや寝取りモノのエロ漫画じゃないんだから…


 うーん…そうそう上手くいくのか分からないけど、彼女のような天才の考えは凡人の私では計り知れないのだろうと、ひとまず納得する。


 「私は、実を言うと春樹様を守ることの他に、もう一つの役目がある。だがそれ以上に、私も女として春樹様が欲しいと思ってもいる」


 セツナさんは、現当主から春樹さんの子種をもらうように役目を受けていると明かしたが、役目だからではなく自分の判断でそうしたいのだと強調した。


 「あ、あたしは…まだ中学生だし、お姉ちゃん達みたいに何かができるわけじゃないけど…でもお兄ちゃんのことは大好きだし、あ、あと伯亜さんと一緒で、その、え、えっちなことにも興味があります…」


 え?


 驚いて葵ちゃんを凝視すると目を逸らされた。

 素直で真面目な娘に育ったと思っていたけど、年相応の女の子だったのかと複雑な思いだった。


 改めて聞くまでもないことだったけど、やっぱりみんな春樹さんのことが大好きだったのね…と頷いていると葵ちゃんからジト目を向けられた。


 「次…お母さんの番だよ。正直に話してね」


 「え? いやいや…私は春樹さんとは一回りも年が離れているし──」


 全員の責めるような目が突き刺さる。

 特に葵ちゃんの目が一番怖い。お母さんに向ける目じゃないよそれ。


 私は諦めて本音を話すことにした。


 「はいはい、…私だって春樹さんに惹かれてます。結婚生活の妄想だってしてるし、娘の葵ちゃんと良い仲になればあわよくば私にもチャンスがなんて卑しい考えをしてましたよ!…でも、それと同時に自分みたいなおばさんなんか相応しくないと思ってるのも本当です」


 あまりに恥ずかしくて、目を閉じて捲し立てるように話す。


 「こないだお兄ちゃんが、お母さんのこと20代かと思ったって言ってたよ」


 「涼子さん、年齢差というものは何も悪いだけではありません。年上というのは時に武器にもなるのではありませんか?」


 みんなのフォローがつらい、けど嬉しくもある。


 私も頑張ってみてもいいのかな…

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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味親として接する暇が無いとはいえ仕事が忙しいなりに娘のことを考えられるお母さんとか虐待組にとっては最高の人材なのでは?
[良い点] もちろん需要もあります!頑張れ
[一言] 年齢層若くなりがちなハーレムをまとめる年上の女性がいた方が男性側も楽よね それに1歩引いた目線で理性的に行動出来るから、実は1番の癒しポジに収まる可能性も秘めてる 男なんて大体マザコン拗らせ…
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