二条セツナ─護衛として
私がこの家に来て数日、いまだに春樹様の役に立ててはいない。
おばあちゃんからの任務─信頼関係を築いて直接タネをもらう─は今のところ達成の見込みはない。
信頼関係を築くどころか、居候の身分で部屋の用意もしてもらい、食費も食事の用意も護衛対象の春樹様の世話になる始末。
それでありながら男性管理局からはちゃっかり護衛費を受け取っている。
完全に役立たずの穀潰しであった。
このままではいけないと、せめて毎日の料理くらいは覚えたいと思い春樹様の技を盗まんと見ているが、武術と違い、食材を無駄にするような実践や繰り返しの鍛錬ができずなかなか難航している。
…追い出されたらどうしよう。
私が不安に思っていると春樹様から声がかかった。
「セツナ、外出しようと思うんだけど護衛してくれる?」
「ハッ! すぐに準備します!」
急ぎ階下の部屋で待機している護衛部隊に外出の旨を伝える。後は向こうで自宅警備班と、隠れて護衛として随行する班に分けて行動する手筈になっている。
私は外出時は常にピッタリと付き従い脅威から守る役目だ。
つまり、外出こそ私の護衛の力を示すチャンスだ。
服に暗器を忍ばせ、表面上は無手に見えるがあらゆる状況に対応できるよう準備を済ませる。
「準備できたかな? じゃあ行こうか」
◇◇◇
結論から言うと、特に私は役に立てなかった。
外出の要件は近くのスーパーへの買い出しだったのだが、住んでいる地区自体が治安の良い日本の中でも特に上品な地区であったからか、春樹様の存在に気がついても、不躾に近寄ってくるような輩はいなかった。
まぁ私が睨みを効かせていたからこそかもしれないが、その程度で役に立った等とは言えない。
何件か盗撮している者もいたが、それらは離れて護衛している者たちが対処してくれていた。
春樹様はあまり頻繁には外出しない。
今日のような食材の買い出しも普段はネットスーパーを使っているからだ。
私が役に立つことを証明できる日は遠い…
「セツナ、なんか今日元気ない? 大丈夫?」
「─ッ!」
不覚にも春樹様から指摘されてしまった。
顔に出したりはしていないはずだが、何故気がついたのだろうか。
尋ねてみればなんとなくそんな気がしたとはぐらかされてしまったが、些細な私の変化に気がつくほど私を見てくれていたのかと思うと胸が暖かくなる。
護衛として、役に立てていないことを不甲斐なく思っていると吐露してみれば、またも暖かい言葉を返してくれる。
「たった数日で役に立つも何も無いよ。それに、護衛なんて暇なくらいが平和で良いじゃないか。…それでも何か役に立ちたいと言うなら、今日は一緒にご飯を作ってみようか」
─あぁ…やっぱりおばあちゃんの言っていたことは間違いじゃない。この人こそが、私の──
とりあえず今日は一品だけ自分で作って見なよと、春樹様から丁寧に教えてもらい、卵焼きを作った。
形は少し不恰好だったけど、美味しいよと笑ってくれる春樹様に、私はどうしようもなく惹かれてしまっていることを自覚した。




