お隣さんとの交流
先日の配信は世間になかなかのインパクトを与えていたようで、連日テレビやネットを騒がせている。
俺のTmitterにも取材の申し込みやら出演の依頼が引っ切りなしに来ているが、まだどれにも返答はしていない。
…というか、正直どうしたものか悩んでいる。
とてもではないが全てに応えるのは難しい、そもそもインタビューを受けた方がいいのか、受けない方がいいのか、受けるならどこのメディアがいいのか。
悩んだ俺は結論を出した。
─そうだ、桜木さんに相談しよう。
男性管理局の副局長という立場ならこういう時の対処についても良い助言がもらえるだろう。
なによりお隣さんとして頼ってほしいとも言っていたし、ここはお言葉に甘えてもいいだろう。
そんなことを考えていると、チャイムがなった。
─ピンポーン
ドアホンを覗くと桜木さんだったので玄関を開けてリビングへ招く。
「あの、高梨さん、改めて引越しのご挨拶ということで、これつまらないものですが…」
「あー…気を遣っていただいてすみません、こちらこそご挨拶ができておらず…」
手土産を受け取りながら、お互いにぺこりと頭を下げる。
「それと、今日は娘の葵も紹介したくて…ほら、葵ちゃん」
「あ、あのっ! はじめまして! 桜木葵です! 14歳です! yourtube見てます! ファンです!」
元気よく挨拶してくれる葵ちゃん。
何故か母の涼子さんは目を丸くして娘を見ていたが、家ではおとなしかったりするのかな?
母譲りの茶髪をポニーテールにし、中学生にしては少し身長が高めで元気な感じはスポーツ少女といった印象を受ける。
胸はちょっと控えめでそこは母に似なかったのか、まあこれからだろう。
なんというか、健康的で可愛いね。
「葵ちゃん、よろしくね。配信は始めたばっかりなんだけど見てくれたようで嬉しいよ」
それから、少し葵ちゃんと話し込む。
なんとなくスポーツとかしてそうだったので聞いてみるとバスケ部に入っているそうだ。いいね。
俺もだいぶ昔の話だが小学校の頃にバスケの経験があったので、今度一緒に遊ぼうかなんて言ってみると物凄い勢いで首を縦に振ってくれた。
「ぜひやりましょう! ちょっと遠いですけどコート借りられるとこ知ってるので!」
「そうだね、楽しみにしてるよ。…っとごめんね、お茶も出さずに話し込んじゃって。」
涼子さんのお土産が洋菓子だったこともあり、さっそく広げて紅茶を入れる。
「あの、涼子さん、ご挨拶にきて頂いたついでで申し訳ないんですが相談がありまして」
紅茶とお菓子で一息つけたところで話を切り出す。
ちなみに桜木さん呼びだとややこしいのでしれっと名前呼びに切り替えたが特に異論は無いようだ。
「メディアからの取材と出演依頼ですか…そうですね、私たち管理局の方から取り次ぐ形にしましょう。」
涼子さんの弁によると、俺本人が直接受諾して依頼を受けるよりも、間に管理局が入って特定の局に俺を取り次いだ方が、依頼を受ける俺だけでなく管理局としてもメディアに恩を売ることができて都合が良いのだとか。
もちろん売った恩は俺が今後メディアで立ち回りやすくなるように使ってくれるということなので是非も無い。
やっぱこれだけの若さで副局長なんてやってるくらいだし、やり手なんだなぁと頼もしさを覚える。
「涼子さんに相談してよかったですよ。もし俺からもできることがあればなんでも言ってくださいね」
「なんでも………んんっ、えーと…それでしたら一つだけお願いというか相談というか…」
なにやら歯切れの悪い涼子さんから聞き出したところ、いつも仕事が忙しく帰るのが夜遅くになることが少なくなく、その度に一人娘の葵ちゃんが一人で留守番どころか一人で夕食も取っているそうだ。
それは…だめだろう。
何も涼子さんが悪いとまで言うつもりは無いが、まだ中学生の子が一人寂しく過ごしているという事実には胸が痛む。
俺自身、ろくに愛情を受けて育っていないどころか、むしろ悪意を受けて育ってきた分そういう話には人一倍敏感になってしまう。
自分のとこのクソ親みたいにはなりたくないし、もし自分が子を持つことになるなら、誰よりも愛したいと常々思っていた。
さっきは元気よく話していた葵ちゃんも、どこか辛そうな顔をしているように見える。
──放って置けないな。
「分かりました。そういうことならいつでも頼ってください。…それに今は、護衛のセツナのぶんも食事は作っているので、二人分も三人分も変わりませんから、よかったら一緒にご飯食べましょう。なんなら涼子さんも、ウチでご飯食べて行ってもいいですよ?」
武力全振りのセツナは家事が全くできない。
ウチに来てからは覚えたいと思っているらしく、俺が料理しているところをちょろちょろしながら見ているが成長しているのかは疑問だ。
ちなみに今回みたいな来客中は隠形で邪魔にならないように隠れている。たぶん呼べば一瞬で現れる。呼ばないけど。
葵ちゃんが弾かれたように顔を上げる。
「いいんですか!? すっごく楽しみです」
うん、やっぱり子どもは笑顔が一番だよね。
「もちろんだよ。なんなら俺のことも家族だと思ってくれてもいいからね」
「か、かぞく! …あわわ」
まあ出会ったばかりで家族は言い過ぎだが、これからお隣りさんとして長く過ごすことだし、いずれはそれくらい仲良くなれるといいな。




